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姉妹の男  作者: 久徒をん
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帰省・三日目

 姉夫婦が出かけた後で家の掃除をしていると母が病院へ出かけた。

 居間と台所、浴室、トイレと掃除して一息ついていると母が帰って来た。

「あら、随分と掃除したわね」

「他にやる事ないからね。出かけても暇を潰す場所はないし」

「市役所の近くのカフェにでも行ったら。有名な店で高いけどね」

「へえ。そんなのが出来たんだ。随分変わったね」

 台所で手を入念に洗って言うと母は、

「ちょっと寝るわ。待ち時間が長くて座っているだけで疲れたの」

 と自分の寝室に入った。

「お昼は?」

「外で食べたわ。出かけるなら戸締りをしてね」

 母と障子越しに話して二階へ上がった。

 姉の部屋は夫婦が使っている。

 自分の部屋で着替えて薄く化粧をして出かけた。

「ああ、これ」

 市役所の近くのカフェ。働いている美容院の近所にもある店だ。

 店でアイスコーヒーとサンドイッチを食べてスマホを見ながら休憩。

 ふとあの林に行きたくなった。

 彼との秘め事に飽きて以来行っていない。

 学校の周りはあまり変わっていなかった。

 道の脇の林に入る。木々の間に斜面があってそこに人が入れる程の窪地があった。


 変わっていない。


 思ったのはそれだけだった。

 急に乾いた気分になる。初体験の場所を訪れると普通は感傷的になるのか。

 私にとっては高木君とエッチな遊びをした場所。その感情しかない。

 卒業して体を重ねた男はみんな彼よりいい体格で太くいきり立つこげ茶色の性器を持っていた。

 私の好きな男の体はある程度決まっている。痩せた父親と反対の体格。

 だからあの頃、他の生徒より肩幅が広い高木君に興味を抱いたのかも知れない。

 窪地に降りると草が茂っている。土だけだったあの頃と違う。

 それだけ思って林を出て道に戻った。


 帰宅して納屋に入った。埃まみれで思わず咳き込んだ。

 元々亡くなった父が農作業をする道具の物置になっていたので誰も入らないのは当然か。

 姉と高木君の交わりを思い出す。

 どうして姉は大胆にここで出来たのだろう。

 夏休みで私がいる事を忘れて本能のままに貪り合っていたのか。

 若い時はそういう事もあるから仕方ないか。

 納屋を出て家に入った。

 母の部屋からテレビの音が聞こえた。

「寝てる?」

 障子を開けると母は布団で寝ていた。

 テレビのボリュームを下げて部屋を出ようとした時、

「納屋に入ったの?」

 母が眠そうな声で訊いた。

「うん、せっかくだから掃除しようかなって思ったけど汚くてやめた」

 私が答えると母は「いいわよ。そこまでしなくても」と言ってまた寝た。


 夕食を作っていると母が起きて台所に来た。

「すっかり寝ていたわ」

「いいのよ。疲れたんでしょ」

「まあね」

「お姉ちゃんとうまくいっているの?」

「ああいう性格だから手間はかからないわ。旦那は気を遣っているみたいだけど」

「どうして向こうの家に住まないの?」

「弟夫婦が住んでいるからね。先に結婚したから」

 私は「ふ~ん」と人参を切りながら言った。

「部屋にいるから用があったら言って」

 母はまた部屋に戻った。

 夕食を母と食べた後、姉が帰って来た。

「ああ、疲れた」

 気だるく姉が着替えて居間に来た。

 私が料理を出すと姉は「ありがとう」と食べ始めた。

「高木さんはいつも遅いの?」

「仕事が終わってからも高校の友達と飲んだりしているからね」

「早く帰ってくればいいのにね」

「別にいいじゃない。私もベタベタしたいと思わないし」

 姉は煮物を口に入れながら答えた。

 彼が帰って来て部屋で着替えて居間に来た。

「ただいま」

 酔っていないようだ。

「おかえりなさい」

 私は素っ気なく言って台所で料理を電子レンジで温めて彼に差し出した。

「どうも。いただきます」

 彼は恐縮したように言って食べ始めた。

 姉がビールを飲みながら彼を見た。

「今日は早かったのね」

「ああ、仕事が終わってまっすぐ帰った」

「珍しいね」

 二人の会話を背に私は自分と母の食器を洗った。


 姉が入浴している間、彼と二人きりになった。

 彼は居間でテレビを見ていた。

 洗い物を終えて私も居間でくつろいだ。

「仲良くやっているじゃない」

 私が言っても彼は黙っていた。

「まさか浮気していないよね」

 笑いながらからかう口調で言った。ちょっとだけ真剣に。

「する訳ないだろ。そんな事をしたらすぐ噂が広がるから」

「それならいいけど」

「その……今は一人なのか」

 彼が言葉に詰まりながら訊いた。

「ええ。私も色々あってね」

 テーブルに置いてあったクッキーを食べながら答えた。

 浴室のドアが開く音がした。

「じゃあ、風呂入るから」

 彼は立ち上がって部屋に行った。

 気まずいのか。ものすごく避けられている感じがする。仕方ないけど微妙な気持ち。

 彼は姉の旦那。それだけなのに。

「ああ、さっぱりした」

 姉が台所の冷蔵庫からペットボトルの麦茶を取って居間に来た。

 姉はタオルで髪を拭きながら麦茶を飲んだ。

「仕事忙しいの?」

「まあね。あんまりいい会社じゃないのよ。ブラックじゃないけどね。辞めてもこの年で雇ってくれる所ないから割り切っているけど」

「そうなんだ……」

 姉は食品会社、彼は建設会社に勤めている。

「高木さんとうまくやっているの?」

「お互いズルズル。何度か別れたけど」

「お姉ちゃん、気が強いから」

「そうだけど喧嘩して別れたって訳じゃないのよ。急に避けられて付き合いが途切れたって感じでさ。男の気まぐれってやつかしら。あんたの男もそんな感じだったの?」

「付き合い始めた頃はうまくいくけど色々見えてくると私の方が駄目みたい」

「急に冷めるのかしらね」

 姉は麦茶をゴクゴク飲んだ。

「でもお互いに色々わかったから結婚したんでしょ」

「何もわかっていないわよ。結婚するからって余計な事を知る必要はないからね。彼の家族の事なんか全然知らないし」

 どこか姉の表情が曇った。

「高木さん、優しくてモテそうだけど心配じゃないの?」

「浮気してるかって事? 別に。あいつの体で喜ぶ女がいたら貸してやってもいいけど。三十万で」

「高いのか安いのかわからないわ」

 笑って答えたが姉の『体』の言い方に棘を感じた。その体を私は知っている。若い彼の体。荒い息に混ざった喘ぎ声と達した声。棘の様に伸びた木立。脳裏によぎる。

「そういうのは平気なんだ。他の女を抱いた手で抱かれるのって」

「抱かれるって何言っているの。アハハハ」

 姉は大声で笑った。

 高校生レベルの幼稚な表現に自分でも恥ずかしくなった。

「いやだ。本当馬鹿みたいね。ハハハ」

 愛想笑いでごまかした。

「変なの。じゃあ髪乾かすから。お休み」

 姉は笑いながら居間を出た。

 愛想笑いの後の自分がついたため息に虚しくなった。

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