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未来の子供たち  作者: Naoko
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35/41

35. 片思い

「僕だけのけ者にするなんてー!」

 とニケは怒っていた。


(え、そこ?)とヨルクは思う。


 ニケが前日の騒動を知ったのは、全てが終わった後だった。

ヨルクの悩みなど、ニケには問題ではなかったのだ。




「ニケ、辞めろ」と、皆が言うと、

 ニケは、したり顔をする。


「ふふん。だから、ずーっとヨルクを見張っていたのさ」


 なんと!

ヨルクが朝早く一人で出かけるのを察知したのは、おばば様ではなくニケだった。

ニケは、今度こそ仲間外れにされないよう、ヨルクの先回りをすべく企てる。

恐るべし八歳の少年。



 ヨルクは、はーっと、大きく息を吐いた。

そして前を見る。

そこには、昨日の穴の埋められた跡があった。


「ギルアが死んだのは、僕のせいかもしれない」


「それはないわよ」とベルカリス。


 シャウラも言う。

「そうね。あなたの命を狙うと決めたのはギルアですもの」

「でも、僕がラーウスに来なければ」


「そんなことない!」

 と、いつになくティアが口を開いた。(「おーっ」と声が上がる)

「誰もヨルクが来なければなんて思ってない。ここにいていいんだよ」


 ティアは「今」を生きる潔い女の子だった。

昨日の事は終わりにし、明日も心配しないので、邪気がない。

思っていることを素直に言う純粋な子だ。



 ユーリスが、

「ヨルクは優しいから悩むんだよ」 

 と言うと、皆はウンウンと穏やかな顔をして頷く。


 ヌンも飛び跳ねながら言った。

「そうなんですー。ご主人様は優しいんですー」


 ヨルクは微妙な顔をする。

ヌンがそう言うのはいつもだけれど、他人から言われたことはなかった。

家族から言われたかもしれない、くらいだ。


「悩むのは弱いからだと思ってた」

ヨルクが、自分を弱いと思うのは、心の奥底に秘めていたものだった。



 ところがそこへ、アニタがトンデモ宣言をする。

「悩むんなら、ベルカリスの方じゃない?」


 「ん?」とベルカリス。


 シャウラも言った。

「そーそー、ベルカリスはギルアが好きだったものね。

夕べは、ベルカリスに付き合って、

お風呂の後、ウチでご飯を食べて、発酵果物ジュースでも飲みながら語り明かそうと思ったのに、

この人、すぐ寝ちゃったのよ」


「えー! 発酵ジュースですかー?」

「アニタ、あなたにはまだ早いわよ」

 と、シャウラはニッと笑う。


 つまりそれは、単なる発酵飲料ではなく、お酒と言うことだ。


 ベルカリスは呆れる。

「昨日は、ナタリを出て峠を超えて来たのよ。疲れるに決まってるでしょう」


 そして、ふっと笑った。


「ギルアを好きだったけど、片思い。

最後に真剣に私の相手をしてくれたから、断ち切れたわね。

私は、ギルアの恋人にとか、結婚したいとか思ってなかった…

ただ、好きだったのよ」


「それなら」

 とダン。

「俺がもっと強くなって、あんたに告白するよ」


 その爆弾発言に、皆が「エーッ!」と叫ぶ。

ベルカリスも「マジか」という顔をした。


 ダンがそう言ったのは、深く考えていたからではない。

強くて美しいベルカリスに憧れてただけだ。

そして、ダンの気持ちは突然に変わってしまった。

それは彼の、今の正直な気持ちだった。



 ワルトが腕を組み、考え深げに口を開いた。


「それはありかも。

ベルカリスより強い男は、ギルアとレンキ以外にいないと思う。

ギルアは死んじゃったし、

レンキは…と言えば『レンキの娘』と言われたベルカリスには可哀想かも…

他にレンキを抑えて名乗りを上げれそうな男もいなさそうだし…

ここでダンが頑張れば…」


「ちょっとー、私は、恋人とか結婚とか思ったこと無いって言ったでしょう」


 元々ベルカリスには、結婚願望がなかった。

幼い頃から、女戦士として期待されていたのもあり、普通の男では物足らないのだ。

彼女にとって重要なのは、命を大切にすることで、孤児たちの世話が好きだった。

だからサライに移る時にアニタも連れて行った。


「私の恋人は、ラーウスの子供たちなのよ」


 ベルカリスは、ギルアと一緒に、残された子供たちを助けていけたらと思っていた。

それでレンキにギルアを取り戻して欲しかった。


 その思いは、ギルアがレンキと戦った時に砕けた。




「さ、セルク・ヨナの扉へ行きましょう」

 とベルカリスは言って歩き出し、皆も動き始める。


 霧が晴れていくにしたがって、ダムが姿を表す。

ラーウスの人々にとっても、長い間、謎だった扉が近づいてくる。



 ベルカリスは、すぐ後ろにいるヨルクに語りかけた。


「ギルアを消したあの光が何だったのか、知りたいんでしょ。

それが何であれ、あの時、叫んだのはあなただけじゃない。

声に出さなくても、皆、心で叫んでいた。

あなたがギルアを死なせたんじゃないから、自分を責めなくてもいいのよ」


 ヨルクは驚く。

自分が何を考えているのか気づいて、思いやってくれる人がいるなんて思ってもみなかったのだ。


「レンキが、あなたに、またナタリへ来て欲しいって言ってたわよ」


「僕を怒ってないんですか?」


「何で怒るのよ。

明日、私はナタリへ向かうから、伝言があったら伝えるわ」


「サライに帰るんじゃないんですか?」


「ギルアの織ってた布。

あれを織り機から外して、子供服にでもしようってレンキと話してたの。

丈夫な布だから、元気な男の子のがいいわね」


 ベルカリスは、さくさくと歩き続ける。

元気そうに歩くのに、その背中は寂しそうだった。


 ヨルクはふと、ベルカリスはナタリで泣くんだと思った。

この人は、本当に、ギルアが好きだったのだろう。

だから、レンキと一緒に泣くために、ナタリへ行きたいのかもしれない。



 ヨルクは、今まで人の気持ちを感じたことがなかった。

ベルカリスの心の奥の悲しみが、固まっていたヨルクの心を動かしていく。


 すると、自分が宇宙ステーションから消えて、両親はどうしたのだろうと思った。

それまで、両親にとって、引きこもりの自分は、迷惑ばかりかけている厄介者でしかないと思っていた。


(そうだ、あの時、最後に、お母さんは『あなたは守られている』と言った)


 急に、ヨルクの心臓の鼓動が激しく打ち始める。


 ヨルクは今、初めて、子供を失った親の気持ちを考えた。


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