34. 使えない兵器
次の日の朝、ヨルクは早く起きて、出かける準備をした。
一人でダムへ行くためだ。
「ダムへ行けば何か分かるはず」
その何かとは、核兵器、古い兵器だった。
核融合は、太陽などの恒星のエネルギー源になる。
恒星は宇宙のあちこちにあり、星雲サイズのもあるので、エネルギーの威力は計り知れない。
その核融合と核分裂を利用して、核兵器が作られた。
ところが、コストパフォーマンスが悪いのが難点だった。
作るのは簡単なのに、コントロールしにくい。
また放射能で汚染されれば、周辺地域の価値が下がる。
その内、敵を滅ぼすと脅すだけ、持っているだけの兵器になってしまった。
核兵器についてヨルクが学んだのは、初等科だった。
生徒たちは、人類が生まれた惑星で核実験をしたり攻撃に使ったと聞くと、
「自分たちの惑星を汚染したの⁉︎」と驚く。
それは小学生にも不人気の兵器だった。
ヨルクは、この何もないラーウスで、核兵器がギルア一人を消したなんて信じられないでいる。
もし自分が関係しているのであれば、ラーウスの住民が自分をどう思うのかも気になる。
だから何も言えなかった。
ギルアが消えた後、しゃしゃり出るヌンが、ヨルクの代わりに喋ってくれる。
ヌンは、ヨルクにピタッとくっ付いていた。
さてヨルクが一歩外に踏み出すと、後ろにいたヌンがひょいっと頭(花粉袋)を出す。
そして、
「暗いですね」と言った。
ヨルクは振り返り、キッとヌンを睨む。
「声が大きい」という意味だ。
ヌンはビクッとして頭を引っ込める。
そう、外はまだ暗かった。
霧が深くて何も見えない。
ヨルクは「これでダムへ行けるのか」と、ちょっと不安になる。
すると、ポッと、小さな丸い灯りのようなものが見えた。
それはゆらゆらと近付いてくる。
ヨルクは息を呑む。
また変な現象が起こっているのではと思う。
「ヨルクだね」
おばば様の声がした。
おばば様は、小さな光る、虫かごのようなものを持っていた。
電気のないラーウスだけれど、ナタリや峠の山小屋に灯りはあった。
ヨルクの部屋にもある。
火も使わず、なぜ光るのか、ヨルクは不思議に思っていた。
「ああ、これかい?」
とおばば様は、ランプを見ながら言った。
ヨルクが不思議そうに見ていたからだ。
「これはバクテリアライトだよ」
「バクテリア?」
おばば様はふふっと笑う。
「発光バクテリアさ。
細菌には分泌する電子を集める電極があってね、それを使って発光するんだ。
自然には、たくさんの宝があるんだよ」
それからおばば様は、外出着姿のヨルクをジロジロ見る。
「えっと、さ、散歩でもしようかと…」
「まあ、いいさ。
まだ霧が深いから、歩き回るのは危ないよ。
もう少し晴れるまで、お茶でも飲んでいきなさい」
ヨルクは「またお茶か」と思ったが、喉が乾いていたので誘いを受けることにした。
ヨルクは、焚き火のそばの椅子に座ってお茶を飲む。
飲みながら緊張していた。
「あ、あの、レン」
と言い出して、ヨルクは「しまった」と思う。
ヨルクは、レンキのことも気にしていた。
自分を助けようとしてくれたのに、お礼も言えてない。
とはいえ、レンキと親しかったギルアは死んでしまった。
その原因となった自分が、お礼を言うのも変ではないか。
そんなゴチャゴチャした思いが、つい口から出てしまったのだ。
「いつもそうだ」とヨルクは思う。
よく考えずに口を開き、すぐに後悔する。
「レンキは昨日の内にナタリへ戻ったよ」
と、おばば様は、ヨルクの心配をよそに答える。
「出たのが午後だったから、昨夜は野宿したかもしれない。
アルアドも一緒に行ったよ。
レンキは一人で帰ると言ったけど、アルアドが、壊れた義手を運ぶからって譲らなかったんだ」
それを聞いたヨルクは、少しガッカリした。
レンキが早くここを離れたのは、自分に会いたくなかったからではとも思う。
考えれば考えるほど落ち込んでいく。
すると、おばば様が言った。
「レンキはギルアを可愛がっていたけど、仕方ないね。
ラーウスの自然がギルアを計って、足りないって除き去ったんだろう」
「は?」
ヨルクには、「自然がギルアを裁いた」と聞こえた。
「あ、あの穴は?」
「すぐに埋めたさ」
「危険だから?」
「誰か穴に落ちたら危ないじゃないか」
「いえ、そうじゃなくて、放射能、とか?」
「ああ、アルアドが測定したら、ほんの微量で心配ないそうだ」
「測定できるのですか?」
と、ヨルクは言って、はっとする。
「ラーウスでは出来ない」と言っているようなものだ。
おばば様は、ニッコリして答える。
「球体があるからね。
必要な物は、あそこから出せる。
最もそれができるのは、ライーニア家の男子だけだ。
ライーニア家のYの染色体を持っている者が球体を管理してるからね」
女子は、Yの染色体を持っていない。
ヨルクは、
「女子では駄目なんですか?」と聞いた。
おばば様は目を細める。
「駄目じゃないけど、負担が大きすぎる。
女子を守るために重荷を課さない。
千年かかるかもしれないんだ」
「千年?」
「私らがここに住み始めて百年経ったから、あと九百年だね。
一人が理解できても、社会が理解するには時間がかかるんだ」
ワルトは、その球体を知るのに四十年かかると言っていた。
集団では、千年かかるということだ。
「その知識は、人類には早すぎた」
「どんな知識ですか?」
おばば様は笑う。
「それを知りたくて、私らはここにいる。
先ずは、自然を知ることだね」
ヨルクはラーウスに来て、何度もそれを聞いた。
「自然を知ったら、球体を理解できるんですか?」
「この宇宙はエネルギーで出来ていて、人類に必要なものは全て、すでに存在している。
それに気付いたセナ公は、人類の為に役立てようとしたけど、上手くいかなかった。
一番の障害は、利己主義的な社会だったね。
利権にまみれている世の中では駄目だということさ。
だからラーウスでは、それを捨て、自然の中で生活している。
ギルアは、以前の考えに囚われていたからね。
それで計られ、足りなくて、除かれてしまったのかもしれない」
ヨルクは「はあ…」と答える。
エネルギーという点では、自分が考えていた事に近い、かもしれない。
おばば様は、ニッコリした。
「自然を愛し、人を愛する、ってことなんだけど…」
ヨルクは、分かったような、分からなかったような気がした。
「霧が晴れてきたようだ」
とおばば様が言った。
「まだ少し暗いから、バクテリアライトを持って行きなさい」
ヨルクは「どこへ?」と言おうとして、ゴクリと唾を飲む。
「お前様はダムへ行きたいんだろ? あそこにはセルク・ヨナの扉があるからね」
おばば様は、ヨルクにバクテリアライトを手渡した。
ヨルクは、足早に湖の方へ降りて行く。
ヌンは、巻きひげのようなものでバクテリアライトを引っ掛け、ヨルクの行く手を照らす。
ヨルクは考えていた。
おばば様の言う通り、ギルアが自然によって消されたのだろうか。
自然淘汰かもしれない。
自然は、ギルアを劣悪だと判断したのだろうか。
とはいえ、それは変ではないか。
ラーウスでは、最近まで争い合っていた。
それこそ自然が「必要ない」と除くものではなかったのか。
その時、ヨルクはズルッと足を滑らせる。
「ご主人様!」とヌンが叫ぶ。
ヨルクは「集中しなきゃ」と思う。
自然の中では、うっかりしていると、危険に気づけなかったりする。
道は緩やかになり、ギルアが消えた場所の近くまでやって来た。
すると前方で、いくつかのバクテリアライトが、ふよふよと浮かんでいる。
その一つが、さーっと近づいて来た。
「ヨルクー! 待ちわびたよ!」
その声はニケだった。
ユーリス、ダン、ティア、それから、アニタ、ベルカリス、シャウラもいる。
おばば様は、ヨルクが一人でダムへ行こうとするのを察知し、
ヨルクをお茶で足止めして、その間に皆を先に行かせたのだ。
ヨルクは、出し抜かれたような気がした。
ほくそ笑むおばば様の顔が思い浮かぶ。
そして、
「おばば様ー!」と言った。




