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未来の子供たち  作者: Naoko
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32/41

32. 過去からの使命

「やっと来てくれたー」

「これ以上は無理だと思ったよー」

 アニタとワルトは胸をなで下ろした。


「間に合ったようね」

 とベアトリスは言い、刀を鞘に収める。


 シャウラもニコッと笑って槍を引いた。

「あとはお任せるするわ」


 傷の手当を終えたティアも口を開く。

「アニタとベルカリスが来て、ヨルクが危ないって教えてくれたの」


 彼女らは、アルアドとレンキが来るまで時間稼ぎをしていた。




 乾季に入り、アルアドは、六体の死体と、それぞれの場所に果たし合いの痕跡があると知らされた。

そこで、誰がどんな目的でやったのかを調べていた。


 もちろん、ヨルクに関係しているのではと思った。

百年前に刺客が送られたと聞いている。

 とはいえ百年間、何も分からなかった。



 アルアドは、ユーリスにヨルクを迎いに行かせ、自分は殺された者たちについて調べることにする。

そんな時に崖崩れが起こり、サライとエルナトを繋ぐ道が塞がれてしまった。


 惑星ラーウスでは、地震、火山の噴火、川の増水、崖崩れは珍しくない。

特にサライからエルナトへの道はよく使われるので、修理のために周辺の大人の男たちが招集される。


 それはアルアドにとって好都合だった。

情報を集めやすくなるからだ。



 アルアドは、殺された四人の者たちが、王制の復活について話していたと聞くと、

シャウラの無事を確かめるためにエルナトへ帰った。

 同じ日にヨルクもエルナトに到着し、自分は再び調査に戻る。


 アルアドが、殺された残りの二人が「刺客」だと知ったのは、その後だった。

そしてギルアが行方不明なのも知る。



 サライ周辺で、ギルアを見かけた者たちは数人いた。

それなのに、ギルアは召集に応じなかった。


 ギルアはナタリにいたことがある。

アルアドはナタリにいるレンキに尋ねることにする。


 丁度その時、ベアトリスもアニタを迎えに行こうとしていた。

アニタは雪の道を良く知っていたが、一人で雪山を降りて来させるのは危険だからだ。



 ベアトリスも、乾季に入り、一度だけギルアを見かけていた。

ベルカリスにとって、ギルアは気になる存在だった。

 ギルアは、礼儀正しく端正な趣のある青年で、優しいのに、どこか近寄り難い雰囲気がある。


 機織りと紙作りで知られるナタリを訪れる人は多く、

ベルカリスも、ナタリへ行く度に、ギルアから刀の使い方を教えてもらったりしていた。

 ところがある日、突然に、ギルアはナタリから消えてしまった。


 ベルカリスは、ギルアがヨルクの命を狙う刺客かもしれないと聞いた時、

「ああ、そうか」と納得する。

 ギルアが近寄り難かったのは、背負っているものがあったからだ。



 レンキも、ギルアについて聞かされても驚かなかった。

ギルアの行動の不可解さに合点がいったのだ。


 問題は、仲間であるはずの刺客の二人が、なぜ殺されたかだ。

レンキは、ギルアがヨルクを守ろうとしたのではと思う。

 そうであって欲しかった。


 レンキは、アルアドと共にエルナトへ向かう。


 ベアトリスは、峠の山小屋でアニタと合流し、先にエルナトへ降りていく。

若く身軽な彼女らの方が、早くエルナトに行ける。

 ヨルクもシャウラも、エルナトの集落の中では安全なので、留まるよう伝えるつもりだった。

しかしそんな事とは知らないヨルクは、エルナトを出ていた。



 ティアが彼女ら二人に会ったのは、エルナトの手前だった。

ティアは嫌な予感がし、集落へ戻る途中だった。


 その予感は的中する。

ギルアが、ヨルクを狙って槍を投げたのだ。

ティアは体を張ってヨルクを庇う。


 ギルアは「またか」と思った。



 ギルアは、ヨルクたちがサライを出た後、何度も近付こうとしていた。

ところが感の鋭いティアのせいで、思うようにいかない。

 この時はまだ、ギルアはヨルク以外の子供たちに危害を加えるつもりはなかった。


 そうしている内に、崖崩れが起こり、招集がかかる。

人が集まってきたので、一旦、ギルアはヨルクたちから離れる。

その後、ヨルクがナタリへ向かったと知った。


 ナタリ周辺は、まだ雪が残っていて、雪原は隠れる場所などなく、吹雪に見舞われる恐れもある。


 ギルアはヨルクを追うのを諦め、エルナトの近くで待つことにする。

ヨルクはダムへ向かうはずだ。

それまでティアに気付かれないよう気配を消せば良い。



 ヨルクを待つことは、ギルアにとって負担ではなかった。

刺客である自分たち一族は、百年待ったのだ。

 今更、数日、いや数年待つとしても問題はない。


 そうしてこの日、やっとヨルクに近付けた。

再びティアに阻まれてしまったが、この状況でヨルクを撃つのはたやすい。

 ギルアにとって、ヨルクを守ろうとする者たちが犠牲になることは問題で無くなっていた。


 ギルアは、自分の刺客としての使命を成し遂げることに集中する。

今、先祖の恨みを果たす時がきたのだ。


 そこに、レンキが現れた。





「ギルア、ナタリへ戻ろう」

 と、レンキは言った。


 ギルアは、しばらく黙ってレンキを見る。


 ギルアにとって、レンキは憧れだった。

レンキは強かった。

自分もレンキのような戦士になりたいと思っていた。


 それなのに、戦いは終わってしまった。


 レンキは静かになる。

自分もレンキの側で、静かに生きようと思った。


 セナ家の末裔が現れる時期が迫っていたが、刺客として最も年下の自分に出番はない。


 ギルアは「また、自分は若すぎた」と思った。

「もう少し早く生まれていれば」と残念でもある。

 残された道は、このラーウスに同化し、埋もれていくだけだ。


 それでも良い、そう思っていたのに、

レンキの弱点を知った時、

「勝てる」と、ゾクゾクしている自分に気付いたのだ。


 その気持ちを抑えられなくてナタリを出た。

刺客としての自分と、レンキに挑戦したい自分がいる。

どちらも捨てられなくて、思いは募るばかりだ。


 それなのに、他の刺客たちは、王制の復活に乗り出そうとしていた。

彼らの動機は、王制でもセナ家でもなく、自分たちの権威を高めることだ。

つまり、刺客でなくなった、と言うことだ。

 残る刺客は自分だけだ、とギルアは思った。




「俺は戻らない」


 そう言ったギルアに、

レンキは「そうか」とだけ答える。


 ギルアはレンキに勝てる自信があった。

それを今更捨てるつもりはない。

しかもヨルクとレンキが同じ場所にいる。

「なんて都合がいいんだ」と血が騒ぎ、踊り出したくなる。



「俺は、セナ家の末裔を狙う刺客だ。

あんたがそれを阻みたいなら、今、俺を殺すしかない」

 

 それを聞いたレンキは、悲しそうに目を伏せる。


 レンキはギルアを息子のように思っていた。

ギルアの使命は無意味だとも思っている。

過去に何があろうと、そんな使命を果たしても、誰も認めてくれない。

それなのに、ギルアはそれに執着し、離そうとしない。

ギルアを止められるのは、自分でしかないのも分かっている。



 レンキは岩山から飛び降りると刀を抜いて構えた。


「お前は、六人殺して一線を超えたんだな」


 ギルアは嬉しそうに答える。

「そうさ。あんたは、もう古い。老いぼれ戦士だ」


「なるほど、そう言われて踏ん切りがついたよ」

 レンキもフッと笑う。

「これが最後だ」

 

 ギルアがレンキ向かっって走り出し、刀で一撃を投じる。

カキーンと高い音が響く。


 それが、ラーウスの最後の争いの始まりだった。


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