↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来の子供たち  作者: Naoko
PR
31/41

31. 刺客

「ベルカリス、お前は『レンキの娘の再来』とまで言われたのに、

木の実を集める生活に成り下がるとはね」


 ギルアは、口の端を上げ、含み笑いをしながら言った。


 ベルカリスも鼻でフッと笑う。


「あんたに言われたくないわよ。

織り機を壊して逃げたくせに」


 壊れた織り機は、そのままにされていた。

レンキが、織り主が戻ってくるのを待っていたからだ。


「俺にはあの生活は合わなかった」


「残念。いい布を織ってたのに」


 ギルアは答えず、鞘から刀を出す。

ベルカリスは刀を振って構える。


「大丈夫か? 腕が鈍ったんじゃないか」


「そうね。あんたは六人も殺して鍛えたもんね」



 それを聞いたダンは、ユーリスの方を振り向く。


「六人って?」


「乾季に入って、あちこちで果たし合いがあったらしい」


「親父さんから聞いたのか?」


「エルナトに戻って知った。

まだ調べている最中だったけど」


 ユーリスとダンは、ワルトがベルカリスとアニタを連れて来た理由が分かった。

彼女らは何かを知り、ここへやって来た。



 ダンが怒鳴る。


「おい! ギルア! 誰を狙ってるんだ! ベルカリスか?」


 ギルアは、ベルカリスに向いたまま答える。


「まさか。

ベルカリスは戦うことを辞めた。

残念だけどね。

ここで目覚めてくれると嬉しいから、そのくらいの相手はするよ」



「それは無いわ」

 と声がした。


 声の主は、大岩の上に立つ戦闘服を着たシャウラだった。


 ヨルクは「あっ」と驚きの声を上げそうになる。

そして、ユーリスの「シャウラは十分に強い」の意味を知る。


 シャウラは、お淑やかな弱いお姫様ではない。

家族や仲間から反対されても、正しいと思うことを貫ける強い姫だった。


 その時ヨルクは、シャウラに「女の子は強いから怖い」と言ったのを恥ずかしく思った。



 シャウラは、槍使い。

ぴょんと岩から飛び降りると、槍を振ってブンブン鳴らし、ベルカリスの横に立って構える。


 ベルカリスは、チラッとシャウラを見て、ニッと笑った。


 ベルカリスは、戦士の娘。

シャウラは、王家の娘。

 二人は、幼くてもエルナトへ逃れた親しい友だ。


 そしてラーウスに平和が戻ってくると、

ベルカリスはサライへ戻り、シャウラはエルナトに残った。



 シャウラの戦闘服は、シルバーに水色の模様があり、肌の色に良く似合う。

ベルカリスのは、濃い赤にゴールドの模様が、日焼けした肌に生える。


 この二人には、陰と陽の美しさがあった。



 ユーリスは、動かない。

刺客がヨルクを狙っているのなら、身を呈して守ろうとする。


 そして、

ここにいる者は皆ヨルクを守ろうとしている…はず…だった。



 ユーリスはアニタを見た。


 アニタは、ヨルクと同じくらい青い顔をしていた。

幼い頃の怖かった記憶を思い出し、ヌンを抱きながら震えている。

 武術より芸術系のアニタは、この状況で役に立たない。


 そしてワルトはというと、ユーリスを見て肩を竦める。

ワルトは学者派、もしくは技術系で、戦闘に興味はない。


 ワルトは、

「自分の命と引き換えにするほどのことなのか…」と考えている最中だった。

(最も、戦闘に興味がない時点で役に立たない)


 ティアは怪我をして動けない。


 ダンは、ティアの傷の手当をしている最中だ。

それに、この二人と連携を取って戦う自信はない。

下手に動けば足手まといになってしまう。




 つまり、この状況は、ひじょーにマズかった。


 ここで戦えるのは、

「レンキの娘の再来」と言われたベルカリスと、

「その双子の姉妹(妹の方)」と言われたシャウラだけ。


 因みに、この二人は十八歳の乙女たち。

もう少しで十九歳になる。

シャウラとしては、ちょっとの間、ユーリスと三歳違いになるのが悩みだった。


 かわってギルアは、戦闘で鍛錬を重ねる大人の戦士だ。


 ユーリスは平常心を装いながら策を練る、というより困っていた。

ギルアが本気で戦えば、彼女ら二人の命はない。




 ユーリスは、ギルアに言った。


「刺客はお前だけか」


 少しの間、ギルアは考える。


 この十六歳の少年は、今の事態を何とかしようとしている。

助ける謂れはないが、せっかくなので答えてやろうと思う。


「俺だけだ。

刺客は、俺を含めて三人いたが、その内二人は、まあ、死んだ。

他の四人は、王制を復活させようとしていた輩だ」


 ダンが小声で「仲間割れかよ」と言った。


 シャウラは、目を瞑ると息を吸う。

自分が生き残ったということは、そういうことだ。


「あなたも」

 と、目を開いたシャウラは言った。


「私を引きずり出したいのですか?」


 するとギルアは苦笑いする。


「いいえ、お姫様。

あなたはそれを望んでいません。

私も王政の復活に興味はありません。

王家など滅んで良かったのです」


 シャウラは、ギルアの答え方から、それなりの教えを受けているのだと思った。


「私たち一族は、百年前にここへ送られたセナ家を亡ぼすための刺客です。

それなのに、他のやつらは、あなたを担ぎ上げようとした輩に乗せられてしまった。

彼らは、戦うことに喜びを見出していたので、その機会を与えてやり、死なしてやりました」


「あはたは、そうして私を救おうとしたのですか」


「そんな立派なことは考えていません。

ただ私は、戦うことが好きなのです。

ですからこうして戦えるのは嬉しい」


 とギルアは言って、シャウラに向かった。


「シャウラ!」

 とユーリスが叫ぶ。


 シャウラは、ギルアの刀を交わし槍を構え直す。


 ギルアはニヤリと笑う。

「王家のあなたが私の攻撃を受けてくれるのは光栄です。そして」

 と言うと、ベルカリスに言った。


「何度も、ラーウスでの戦いが終わってしまい悔しいと思った。

もっと早く生まれていれば、レンキにも挑戦できたのに。

だが、この手で王家を滅ぼすのも悪くない」


 ベルカリスが、シャウラの前に出てギルアに斬りかかる。

シャウラは、ベルカリスの動きに合わせて槍を突き込む。

 息の合った二人は、やる気満々だ。



 すると突然、戦う三人に水がかけられた。

ワルトがバケツで水を汲み、かけたのだ。


「何すんのよ!」

 と濡れたベルカリスが怒る。


 シャウラは呆れているし、

ギルアも、妙な顔をする。


 水をかけるのは、子供の喧嘩の仲裁に良く使われる。

三人は「自分たちは子供か!」と思ってしまった。


 ワルトは慌てる。


 バケツは、たまたま持っていたのを、おばば様に「持って行け」と言われただけで、

水をかけるために持ってきたのではない。

ヨルクたちを見つけたらバケツを叩いて音を立て、後続に居場所を知らせるためだった。


「何とかしなければ」と思ったワルトは、咄嗟に水をかけてしまい、後は何も考えていなかった。



「あのー、ちょっと伺いたいんですが」

 とワルトは、取り繕うかのように言った。


「何よ!」

 ベルカリスは怒ったままだ。


「ギルアは、ヨルクを殺しに来たんでしょ?

そもそも刺客って、百年も続けられるものなの?」


 全員、ギルアを見る。


 ギルアは「また面倒臭いことを」という顔をしながら答える。


「民族間で百年、いや何百年も憎み合うのは良くあることじゃないか」


「ああ、そうですね」


 と、引き下がるワルトに、アニタが小声で言う。


「ちょっと、もっと何か言いなさいよ」


 ワルトが「えっ」という顔をした。



 ギルアが笑い出す。


「俺は、ラーウスの人間に差し向けられた刺客じゃない。

そこで青くなっている小僧に会ったこともない。

それでも、俺が小僧の命を狙うのは、セナ家の血を受け継ぐ者だからだ。

セナ家を根絶やしにするために俺はここにいる」


 そしてギルアは、

「おっと」

 と言って、シャウラが現れた岩を見上げる。


 そこには、アルアドとレンキが立っていた。



「ギルア、久しぶりだな」


 と、レンキが言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。