↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来の子供たち  作者: Naoko
PR
30/41

30. 谷間の水

 ユーリスが、

「うん、いいよ。ダムに案内するよ」

 とヨルクに言った。


 ヨルクは、密かにダムへ行こうとしていた。

「セルク・ヨナの扉」は長年話題になっていたので、注目されたくなかったのだ。


 それで皆が出かけるのを待ってユーリスに頼む。

ヌンも、ティアとお嫁さん探しに行ってもらっていた。


 ところがユーリスは、

「ダンも連れて行く」と言う。


 ヨルクは、

「何か、例えば腕力とかいるのかな」と思って頷く。


 出がけに、図書室に向かうワルトを見かけたので、

「今日もワルトは収集に行かないんだ」と思った。



 三人は、エルナトの岩を降りると、湖沿いの小道を進んでいく。

しばらくすると両側の山が迫ってきて、湖の幅は狭くなった。


 左右の山々が交互に重なり、湖は川のように蛇行する。

もう奥の湖は見えない。


 水辺の、少し広くなったところでユーリスは立ち止まった。


 奥から流れて来るゆったりとした水が、左の方へ大きく曲がっていく。

木々に覆われた急な山の傾斜を、霧が煙のように巻いている。


 それは神秘的な、美しい光景だった。


「ここは、僕の母親が一番好きな所だったんだ」


 ユーリスが、ヨルクに母親の話をするのは初めてだった。


「良くここに来るの?」


「最近は無いな。

いや、母が死んでからも無かったな」


「あの頃はニケも小さかったし、ガキどもがわんさかいて忙しかったしね」

 とダンが言った。


 弟のニケが八歳なので、ユーリスの母親が死んで十年は経っていない。


「ニケがね」

 とユーリスは言って、思い出し笑いをする。


「母親のことを聞いてきたんで、ここに連れてきたことがあったんだ」


「あー、あの時ね」

 とダンも笑う。


「そしたら、その先の岩に乗って、ツルッと足を滑らせて水に落ちてしまった」

「引き上げるのに大騒ぎしたよ」


「それ以来、ニケは母親のことを聞かなくなったな」


「あいつは悪ガキだったから、母親に怒られたとでも思ったんだよ」


「そうかもしれないけれど、元々母親のことを気にしない風だったし」

「ニケはさっぱりした性格だからな」

「多分、ここに来て、納得したんだと思う」


 ヨルクには、ニケの気持ちは分からないけれど、

この荘厳な景色は、何かを感じさせてくれるものがあったのだろうと思う。


「二人とも、母親の事を思い出すことはあるの?」


 ヨルクが聞くと、ユーリスとダンはお互いを見る。


「どうかな。思い出したりするけど、ユーリスは?」

「僕は、ニケより思い出すかも」

「そうか。ティアも、俺よりニケと同じでさっぱりしている」

「ティアは、過去より今を感じる方だからね」


「今を? 感じる?」


「そーそー、余計な事を考えないから怖い」

「ダン、このままだと、お前はティアに勝てなくなるぞ」


 ヨルクは、ティアは兄のダンを負かすほど強いのかと思う。


「やっぱり、ダンもティアが怖いの?」


「やっぱり?」


 とユーリスとダンは、またお互いを見て吹き出す。


「ごめん、ごめん」

 変な顔をするヨルクにユーリスは謝る。


「ティアは、周りの音とか空気とかの流れに敏感で、思い煩ったりしない」

「今を感じるってそう言うこと。シャウラとティアを足して割るとちょうどいいんじゃないか」

「どういう意味さ」

 と今度は、ユーリスがダンに突っかかる。


「はいはい。俺はティアにこれ以上強くなって欲しくないけど、シャウラは強くなった方が良くないか」

「シャウラは十分に強いよ。今のままでいい」

「エルナトから出なくても?」


「あの、それって、ここはまだ危ないってこと?」

 とヨルクが割り込む。


 それはシャウラが気にしていたことだ。


「シャウラは、王家の最後の生き残りだ。

ラーウスに逃れた王族たちは、ここで静かに暮らしていたのに、

王制を復活させようという誘惑に乗ってしまった。

誘惑した者たちは、王でも民でもなく、自分の権力欲のために利用したのにね」


「シャウラは、幼い時から大人たちの話を聞いて、自分で考え、おかしいって気づいたんだ。

家族から反対されても、一人でエルナトへ逃れたなんてすごいよ」


「だから今でも利用されないよう用心してる」


「そんなに用心しているなら、誰も利用しようとしないんじゃないですか」


「どうだろう。

人は、自分が聞きたいことを聞くし、見たいものを見ようとする。

真実がどうかなんて関係ない。

シャウラがどう思おうと、自分のしたいことをしようとする輩はいる」


「えっ?」


 ここには政府も法律もない。

自分の身を守るのは、自分でしかない。


「今、僕たちにできるのは、自然から学ぶことしかない」


 今の話が自然とどんな関係があるのかヨルクには疑問だった。

それでも、シャウラも同じようなことを言っていたような気がする。



「ラーウスの植物も、今はまだ、1パーセントしか分かってないからね」


「たったそれだけ?」


 ヨルクは、自然を知ることが簡単ではないのに驚く。

そして、ヌンと同じ種類の植物が見つからないのも当然だと思った。


 最近、ヌンの頭の花粉袋が少し萎びたようで垂れていた。

ヌンのお嫁さん探しを急がねばならないと思ったりする。



「さあ、行こうか。この先にダムがあるよ」

 

 と、ユーリスが歩き始める。



 その時、

「危ない!」と声がして。

カキーンと音がすると、槍のようなものが飛び、岩の上をカラカラと転がった。


 そして三人の前でドサッと誰かが倒れる。


「ティア!」


 ダンは叫びながらティアを起こす。


「だい、じょう、ぶ」

 ティアは顔を顰めながら腕を抑える。


 ティアの服の袖から血が滲み、どんどん広がっていく。


 ユーリスは、ヨルクを庇うように立つと見回した。



「ご主人様ー!」

 ヌンの叫ぶ声がした。


 騒ぐヌンを抑えているのはアニタだった。


 その前にベルカリスが立っている。

ワルトも一緒だ。


 彼らは、エルナトからヨルクたちを追って来ていた。


 そして別の方、藪の中から一人の男が現れる。



 ベルカリスが、鞘から刀を出し、彼の方へ向けると言った。


「ギルア、あんただったのね」



 ギルアは、二十代後半の、がっしりとした戦士だった。

そしてニヤッとすると、しょうがないとでも言うように肩をすくめる。


「ティアが一緒じゃないと思ったのに、一発で仕留められなくて残念だったよ」



 ティアは痛みを耐えながらダンに言う。

「ごめん、エルナトに戻ってから何かを感じてたのに…

ヨルクが図書室にいれば大丈夫と思ってた」


 ユーリスも言った。


「ティアだけじゃない。僕も油断していた」



 ヨルクは、何が起こっているのか分からなかった。


 分かっているのは、ティアが怪我をし、

ここにベルカリスとアニタがいるということだ。


 そしてユーリスは、ヨルクに頼まれた時、警戒してダンに付いて来てもらっていた。

警戒する何かが起ころうとしている。


 学校でも喧嘩はあったし、怪我をする者たちもいた。

 ところが今は、そんな子供の喧嘩ではない。

 明らかに、誰かの命が狙われている。

 それは、誰だ。



 ギルアは、青くなっているヨルクを見ると言った。


「俺は、刺客だ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。