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未来の子供たち  作者: Naoko
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25/41

25. おばば様

 なんとヨルクは、湯疲れで気絶したのだ。

しばらくして気が付いたものの、湯船から後のことは何も覚えていない。


「ご主人様!」

 ヌンの声にヨルクは起き上がる。

 ベッドの上で寝ていたのだ。


 窓の外は暗く、夜になっている。

遠くからの人の声が聞こえるので、まだ宵の口だ。


 ヌンは、ヨルクが意識を取り戻せて嬉しそうだった。


「目覚められて良かったです。皆さまが運んでくださったんですよ」


「皆が?」


 ヨルクは自分の胸に手を置いた。

服を着ている。

(自分で着たのか?)


「なかなか気付かれないので、心配しました」


「ここは?」


「ご主人様のために新しく建てた家だそうです」


 ヨルクは部屋を見回す。

ベッドと机と椅子のある簡素な部屋で、窓が二つあった。

新しい木の匂いがする。


「この服は?」


「皆さんが着せてくださいました。皆さんも裸だったので、すぐにお風呂へ戻られました」


「は?」


「濡れた体では冷えますものね」


「じゃなくて、風呂場から裸で?」


「はい、皆さまも」


 ヨルクは頭がクラっとした。


 ヨルクが皆に運ばれるのは、これで二度目だ。

サライの家で熱中症になり、皆に担がれ、冷水プールに突っ込まれた。

そして今度は、湯船からこの家へ担ぎ込まれてしまった。


 それだけじゃない。

今回は「素っ裸」ということだ。


 そして重要な事がある。


「そ、それで、僕が運ばれる時・・・ここの人たちは・・・た、例えば、シャウ」

「シャウラ様も、とても心配しておられました」


 ヨルクは、目覚めなければ良かったと思った。


 ガックリと肩を落とし、横になって目を閉じたヨルクは考える。


(お父さん、お母さん

どうやら僕は、再び会うことはなさそうです。

僕はこの地で死にます。

今までのわがままをお許しください。

そして十四歳まで育ててくださり、ありがとうございました。

もし今が百五十年後の世界であれば、すぐにお側に参ります)


 ヨルクは、そのまま寝込んでしまった。




 とはいえ、健康な少年が、そんなに簡単に死ねるものではない。

ヨルクが起き上がったのは、三日目の朝早くだった。


 外に出ると、霧が深くて何も見えない。

微かな焚き火の匂いがする。

カチャカチャと小さな音も聞こえる。

早朝の採集へ行く大人たちが出かける準備をしている音だ。

採集は、朝早い方が質の良いものが取れるので、人々は早起きだ。

採集に行かない子供たちはまだ寝ているので静かだった。


 霧の中、ポッと明るい炎が見えたので、ヨルクはその方へ行くことにした。

おばば様が焚き火の傍に座り、お茶を沸かしている。

おばば様は、ヨルクを見ると手招きして火の近くに座る様に勧めた。


 ヨルクは勧められたお茶を飲み、黙って炎を見つめる。

おばば様もお茶を飲んでいるだけで、何も言わない。


 ヨルクは「湯疲れ」について一言でもあったら、あの小さな家に戻って引きこもろうと思っていた。

残念なのは、あの家には水回りが無く、トイレが家から離れていることだ。

また食べ物も自分で取りに行かねばならない。

「あ、ヌンがいるか」と思ったりする。



 さて、大人たちが出かけると静かになった。

霧はゆっくりと消えていくようで、朝の光がスポットライトのカーテンのように現れ始める。


 ヨルクはいつも思う。

ここの人々は、強く言い張ることはしない。


 それは、ヨルクが今まで知っている社会とは違っていた。

ラーウスに来て、人を虐めるのも見た事がなかった。


 とはいえ、ヨルクは、自分の両親を捜さねばと思っている。

ここが百五十年後の世界なら、両親に連絡することはできないのも分かっている。

そもそも何故、自分がここにいるのかすら知らないのだ。


 ヨルクは、自分から聞かねば、誰も何も教えてくれないのだと気付いていた。

それはヨルクにとって挑戦だった。

人と接するのが苦手で、どのように聞いたら良いのか分からないからだ。



「あの、おばば様」

 やっとヨルクが口を開くと、おばば様は顔をあげる。


「知りたいことがあるんだろう?」

 と答えるおばば様に、ヨルクはホッとする。


「は、はい」


 おばば様はニコッと笑った。

老女にしては綺麗な歯が並んでいる。


「あの、僕の両親は…」


「ああ、お前様を探していたね」

「え?ここにいるんですか?」


 するとおばば様は顔を曇らせた。


「いるにはいるが、墓がどこにあるのかは分からない。ラーウスの地形は変わることが多いからね」

「墓?」

「今が百年以上の未来だってのは聞いたよね」

「…」

「…そうか…」


 ヨルクにとって、ここが文明の進んだ世界だったら、未来だと納得しやすかっただろう。

ところが、かなり遅れた田舎の惑星なのだ。

 宇宙ステーションへの攻撃のショックで、未開の惑星にワープしたと思うのが普通だ。


 それでもヨルクは、子供たちと旅をしたことで、少し変化していた。

もし大人が一緒だったら、もっと時間がかかったかもしれない。

自分と同じぐらいの年頃の子たちは、助け合いながら一生懸命に生きている。

歳下の子供たちも一緒だった。

そんな子供たちに甘えられないので、ヨルクは自然に、変わらざるをえなかったのだ。


 多くの場合、人は、自分が傷つくのを恐れて、人付き合いが苦手になる。

仲良くなりたいと思いながら、傷つくのが嫌で相手を避けようとする。

もちろん、他人を傷つける身勝手な人は避けた方が良い。

そうでない普通の人となら、お互いに折り合いをつけられるかもしれない。

もしできなければ、ずっとひとりぼっちだ。


 ヨルクは、ヌンとは会話していた。

それでもヌンは人間ではないし、主従の関係なので、少し違う。


 ヨルクは、前へ進む時にきていた。



「あ、あの、何か、その、本、とか」


 おばば様は、ヨルクを見てニコリとする。


「図書室にあるよ」


 ヨルクは「それがいい」と思った。

今は、人から聞くより読むほうが受け入れやすい。


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