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未来の子供たち  作者: Naoko
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23/41

23. 下山

 下山する日がきた。

アニタと山小屋の人々に見送られ峠を超えると、雪の道は終わった。


 峠の先に雪はなかった。

森林限界地なので、岩がゴロゴロしているだけだ。

こちら側は、乾季に入ると雪が溶けるのは早い。

気温と湿度が高いのだ。


 しばらくすると植物が現れ始める。

種類も豊かで、森は鮮やかな明るい緑色になる。

明らかに、ナタリの方とは緑の色が違った。

そして、ヌンのお嫁さん探しが再開する。


 ヌンとティアは、植物を見るのに忙しかった。


 初めヌンは、新しい植物を見つけるたびに「ご主人様〜」を連発していた。

ところがヨルクが返事をしないので、声をかけるのをやめてしまう。


 ヨルクは、ヌンに構ってる余裕はなかったのだ。


 ヨルクは、下山は登山より楽だろうと思っていたが、そうではなかった。

登る時は足場を見れるのに、降りる時は、足が先に行くので見えにくい。

土や岩が濡れていれば、滑りやすくなる。


 とはいえ慎重に降りるヨルクの速度でも、夕方までにはエルナトへ着けるはずだ。


 ヨルクは、急に緊張してきた。

いよいよエルナトだ。



 ヨルクは、住んでいた宇宙ステーションが攻撃され、

ヌンの小型宇宙艇で逃れ、

惑星ラーウスの軌道を回った後に、地上へ降りた。

 未来とは思えないほど未開なのに驚いたが、住民は、楽しそうに生活している。



 ヨルクが引きこもっていた時、便利で進んだ社会に住んでいたので、さほど困ることはなかった。


 もちろん世の中には、食べるのに困る子供たちがいる。

それでもヨルクは、

「恵まれていても、生きていくことが難しいのに代わりはない」と思っていた。

すると「恵まれてるって何?」と思ったりする。


 ここの子供たちは、どこへ行くにも歩く。

食べ物も自分で取ってくる。

それなのに、不便だとか、恵まれてない、なんて思わない。


 質の良い服を着ているし、十分な食べ物があり、住む場所は簡素でも清潔だ。

自然の中で遊び、勉強したければ本もある。


 初め、ヨルクは、自然は退屈な所だと思っていた。

ヨルクのいた社会でも、自然の中で生活するのが好きな人はいたが、興味はなかった。

学校でキャンプに行ったことはあったても、設備は整っていて便利だった。

 だからヨルクが自然に触れたのは、植物のヌンが最初だ。

もしそれが自然と言えるのであればだが。



 ヨルクは、元の生活へ戻ろうとしてエルナトへ向かっている。

そして今日、エルナトに着く。


 ヨルクは、今になって、

「自分は、本当に、元の生活に戻りたいのだろうか」と考える。


 ここで友達ができたような気がするし、自然の良さも分かってきている。

とはいえ便利な生活も捨てがたい。

では「どうする」と思っても分からない。




「さて、どうする?」

 と言ったユーリスに、ヨルクは、はっとする。

(自分のこと?)と思ったのだ。


 だがユーリスの意味は、そうではなかった。


 岩と木々が崩れ落ちて、道がふさがっていたのだ。


「俺たちだけだったら降りれるけど、ティアやニケはどうかな」


 と言ったダンは、

ニケが「自分の身長が足りない(つまり小さい)から?」とヘソを曲げるのを避けるため、

ティアを付け足したのだ。

 もちろん、それにはヨルクも含まれていた。


 ヨルクは、自分が八歳のニケと同じレベルだと思われているのを知っていた。

以前だったらヨルクもヘソを曲げただろうが(その時点でニケと同じだが)

今は「仕方ない」と思えるようになっていた。

 また、彼らが、相手を傷付けないように思い合っているのも知っていた。

特に子供たちは、自然界で助け合わなければ生きていけない。


「僕が大丈夫だから、ニケだって降りれるよ」


 ヨルクがそう言うと、ニケも真面目な顔をして答える。


「平気さ」


 そのニケの言い方は、以前と違っていて頼もしかった。


 ユーリスはニコッと笑う。


「じゃあ、ここを降ろう」


 とは言うものの、崩れた岩山を降りるのは簡単ではない。

 

 ヨルクの膝はガクガクする。


 初め緊張したニケだったけれど、ヨルクより上手に降りていた。

ニケは、得意顔でヨルクをチラ見する。

ヌンも、ヒョーンヒョーンと岩の間を飛んで行く。


 ヨルクは、

「八歳の子に負けるなんて」

「植物のヌンにさえ負けてる」

 と悔しく思う。

その時、足が滑って真っ逆さまに落ちようとした。


 宙に浮いたヨルクの腕を、パシッと掴んだのはダンの手だった。

ヨルクは顔を上げる。

ダンは真剣な顔で口をキュッと結び、ヨルクを引き上げる。

ダンは、何も言わなかった。


「少し休もう」とユーリス。


 平らな所があったのでそこに座ると、エルナトの集落が見えた。

だいぶ降りてきたのだ。


 エルナトというのは、ツノのように尖った岩のことで、湖に突き出ている。

その辺りに集落はあった。


 湖の全体も見える。

かなりの水量だ。


 森の中を、毛細血管の様に流れる川の筋の様なものもある。

ラーウスは、水が豊富なのは一目瞭然だった。




「あの湖に球体が沈んでいるんだ」とワルトが言った。

「球体…?」


 ヨルクは「球体」について聞いたことがあった。


 球体は二つあり、一つは首都の宮殿の地下に置かれ、

もう一つは、宇宙の果てに運ばれていて、宇宙ステーションの先にあった。


「あっ」


 その時、ヨルクは思い出した。

球体は、惑星ラーウスに向かっていたのだ。


 ラーウスは、ワープを繰り返しても数十年かかるほど遠くにある惑星で、

ヨルクが宇宙ステーションにやって来た時は、まだ二十年ほどかかると言われていた。


 ヨルクはそれを聞いた時、

「そんなことをやってるから科学省は下に見られるんだ」と思い、

それ以上知ろうとはしなかった。


 その球体が、あの湖に沈められている。


 ヨルクは、

「それって、自分に関係あるのかな」と思った。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  謎の球体ですか……  ヨルクが時間を超えてやって来た謎に近づきますか⁈  ヨルク以上にヌンが(あ、私です。植物の方じゃなくて)ドキドキ、ワクワクしています!  
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