09 嬉し恥ずかしツーショット
「ショーマくん!」
「こんにちは〜カメラマンさん」
私はカメラマンさんがこちらに近づくに連れ、将真くんの手を握る力がどんどん強くなっていく。
とうとう目の前までその女の人はやってきた。
「あら彼女?」
「違います」
「ふーん」
カメラマンさんは私と将真くんの繋いだ手をちらと見る。
私はおかしなことに、彼女かと聞かれて否定された、それにショックを受けていた。さっきは正反対のことを将真くんに言おうとしていたのに。
ふっと脱力して手の力が抜ける。彼女でもないのに手を繋いでいるのはおかしいと改めて思う。手を離そうとしたら、将真くんの指先がそれをそっと引き留める。かろうじて薬指と小指だけ繋がっている。
「ボクが一方的に押してるだけなんで」
「ふふ。若いっていいわねえ」
私は将真くんの絡んだ指と、その言葉に真っ赤になる。
「ショーマくん、クラスTシャツで1枚撮らせてくれない?」
正門の奥で、クラスTシャツを着た子が何人かもう1人のカメラマン、これはその名の通り男性なのだけど、の前に並んでいた。
将真くんがこちらを見たので「どうぞどうぞ」とコクコク頷くと、「ちょっとだけ行ってきます」と彼は手を離して、列にゆっくりと進んでいった。
1人なった私にカメラマン女性が話しかけてくる。初対面で二人きりになるの苦手だなと思った。
「ショーマくん良いですよねぇ」
「は、はぁ」
「こないだ部活撮りがあって。その時の制服姿も良かったんですよ?」
それ私も見ましたけど?と対抗意識が湧いたが「へぇそうなんですか」と当たり障りのない返事をする。
「かっこいいのに、いつもチンピラみたいな柄シャツ着てるから、爽やかバージョンも写真に撮りたくて制服お願いしたんです」
「柄シャツもかっこいいですよ?」
将真くんを貶されたように感じで私はつい強めに返した。
「あはは、もちろん私もいいと思ってますよ? 個人依頼だったら、あんなの被写体として唆られますもん」
「そ、唆られ……って」
「でも学校のアルバムですからねぇ、お金を出すのは保護者ですし。無難が求められるんです」
無難、と言ったときに私の顔を見たので、私に言われてるのかと思った。
居心地悪いなと感じて、撮影している正門側を見ているふりをする。将真くんの番だ。何枚か撮った後、撮影していたカメラマンさんが「もうちょっとお願い」と頼んでいる。
撮影する様子を見物する人が少し集まり始めた。制服を着た女子高生もいて、私の目は虚ろになる。将真くんに声をかけようとスタンバイしているのがわかる。
「写真撮ってるとわかるんだけど」
女性カメラマンさんは、大袈裟にため息をつく。
「最近の若い娘はいじりすぎなのよ〜」
「はぁ」
「相対的に何もしてない娘はかわいく見えるっていうのはあるわね。つまり、一列に並んでるけど、勝手にみんなが一歩ずつ後ろに下がってるわけ」
「はぁ、なんか深いですね」
「浅い話よ〜」
何が言いたいのかよくわからなかったが、この人ちょっと面白いな?と思い始めていた。
「アナタ、肌もきめ細かくてきれいよ。全然日焼けしてないでしょう? 文化系の部活だった?」
「はい。運動は身体に悪いですから」
「ばか言ってんじゃないわ。運動はしたほうがいいわよ……年をとってから分かるの……」
見た目とても若く見えるカメラマンさんは遠い目をして「部屋でストレッチとか筋トレくらいはしなさいよ? あと歩くのよ? 常に」などと言ってくる。
人類が二足歩行になった弊害と、部屋でどんな筋トレをしたらいいかを一方的に語られていると、
「まどかちゃん」
と将真くんが小走りに戻ってきた。
「なんの話してたんですか?」
「筋トレ?」
「なんでそんな話になるんですか」
そう言って破顔した将真くんをカメラマンさんがすかさず撮った。
「ちょっと、いきなり撮るのナシですよ?」
「ごめんなさいね〜、だって、すごい良かったから。お詫びに二人で撮ったの後で送ってあげる」
「あざます」
またいってるじゃん、あざますとか。と思ってると将真くんが隣にきて、少し小型の別のカメラで、カメラマンさんがツーショットの写真を撮ってくれた。ちょっと見せてもらったけど、さすがプロ、自然光でものすごくいい写真だった。将真くんは見えないように手を繋いできたけど、見れば後ろで手繋ぎしてるんだろうなとわかる写真だった。なのに私は真顔だった。そういうのも含めていい写真だった。
でも後で送るってことはこの二人、連絡先を交換しているのだろうか。
カメラマンさんと別れて、いっしょに校舎の中を進む。あの人とふだんもやりとりがあるのかな、と悶々としてしまったので、それとないふうを装って聞いてみた。
「さっきの、写真撮ってくれた女の人だけど……」
「男でしょ?」
「えっ!?」
「きれいな人ですよね、ボクも今日やるんで」
「はい?えっ?何をやるって?」
急に増えた情報量が多すぎて頭の中が追いつかない。
「最初はねぇ、こっちです」
そう言って小講堂のほうに手を引かれ、古めいた扉をドアマンよろしく開けてもらったのだった。




