08 彼女かわいいじゃん
07は後からアップします。宇宙で戦争している映画的な……
将真くんの学校の駅に降り立つ。
文化祭のお客さんなのか、駅構内はすでにごった返していた。駅誘導のスタッフがメガホンで「走らないでくださーい」と注意している。
つきました、とインストで連絡してから、少しそれた道に避難してぼうっと立ってると声がした。
「まどかちゃん」
将真くんはすぐそばにいた。セルリアンブルーのTシャツを着ている。下はグレーのワイドパンツ。上はクラスTシャツだろうか。前に着ていたパーカーと同じ色だった。
「少し遠くからも声かけたんだけど」
将真くんは私の手のひらを取る。
「めちゃ混んでますね」
そう言ってするっと手をつないでくる。
混んでるからはぐれないようにという意図はわかるけど、流石に学校周辺では気が引ける。そう思って、手を引き抜こうとしたが離してくれない。
「あの、学校行くんですよね? 友だちとか、先生とかに見られたら嫌じゃないですか?」
「全然」
大学の学祭でも、ものすごく自然に手をつないできたけど、大学というのは通ってる人の頭数も多いし、いい意味でみんな周りに関心がない。しかも院生なんて研究室以外では空気みたいな存在である。それに比べて高校というのはもっと関係性が密だ。
しかも私は年齢詐称をしている。お天道様に顔向けができない気がして、私は縮こまって小さくなって歩いた。
駅の少し先からすでに列ができていて、列は止まったり進んだりだ。ちょうど止まった時に妙な視線を感じた。ガードレールに座った数人の男の人がこちらを見ている。品定めの目だったが、ふっと見られている感じがなくなった。
「なんだ、ショーマの連れじゃん」
将真くんはにこやかに会釈をする。そして、男の人たちの前を通り過ぎると少し屈んで、耳打ちした。
「あれ卒業生。卒業生は取り締まりの対象外だから」
「な、なるほど〜! これは防犯のためだったんですね」
「はは、防犯って」
私はこれ、と言ったとき繋いだ手を持ち上げた。
「招待日は卒業生もけっこう来るから。たまに大学行って羽目外してる先輩もいるので。ちょっと心配でした」
「大学デビューってやつですね〜」
「ふっ」
将真くんがウケている。
「まどかちゃんは高校のときとあまり変わらない?」
「変わりませんね……」
そう、本当は卒業して5年目だというのに。見た目も精神年齢も恋愛経験値も見事に進歩していない。
「他校の文化祭行ったことありますか?」
「ないです」
「そうなんだ」
「文化祭で他人が学校に入れるってこと知りませんでした」
「他人……」
「あああ、突き放す意味はなく。家族以外ってことです」
「はは、まどかちゃんの学校は学内参加だけだった?」
「えっと」
口を開きかけて、あれ? この辺の学校って入場自由がふつうなんだろうか。もしくは最近の傾向なのか。前にあった感染症のかねあいもあるのだろうか。だとしたら喋り過ぎるとボロがでないか。
答えにまごついていたら、また将真くんが別の先輩らしき人から「ショーマ」と声をかけられた。助かった。
「彼女かわいいじゃん」
「あざす」
彼女? 彼女ではない。勢いよく将真くんを見上げる。
「訂正したら、しつこく声かけられるよ」
そういうものなのか。でも目の前で「ショーマが彼女連れてきた」と数人で伝言ゲームが始まった。一抹の不安を覚える。
それから彼女発言の後にも恐ろしいこと言っていたような。
「かわいいですよ」
将真くんは先回りをする。
「かわいいです」
「こんなんでもですか」
私は自分の服を見る。グレーのTシャツに黒のパンツスタイルで、いつもより少しダボっとした感じだ。それと顔隠しにキャップを被っている。
「そういうの、むしろ好き」
真顔で言われて顔が熱くなり、キャップをもっと深く被る。隠密行動に備えたコーディネートで褒められてしまった。
私は白々しく話題を変える。
「将真くんでも、あざすとかいうんですね」
「あの先輩、そういうの好きだから。ふだんは使わないです」
意外と高速でいろいろ考えてるんだな、相手に合わせて。私は将真くんといると居心地がいいけれど、実はものすごく気を遣わせているんじゃないか、とちょっと心配になった。
そうこうするうちに、やっと列が進んで校門の前までくる。文化祭用のゲートを潜ったとたん、女の人の声が飛んできた。
「あっ!ショーマくん! やっとつかまった!」
見ると、スタッフ証を腕に巻き、本格的な望遠レンズをぶら下げた若い女性だった。本部テントらしき一角から、大きく手を振っている。
「あ、あの人。前に制服着てきてって頼んできた人」
カメラマンって女の人だったの?
こちらに足早に向かってくるカメラマン、もといこの場合はカメラウーマンなのか、とにかくその女性になんとなく不安を感じて、私は繋いでいた将真くんの手をぎゅっと握ってしまった。




