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15 海辺で読むならどの本を持って行きますか


 将真くんは海計画のだいたいの打ち合わせが終わると、夏期講習の入塾テストがあるからと帰っていった。「今から入るの? あいつ変態だな」と透が言った。



 将真くんがいなくなると、私はバッグから、英語論文の紙束を取り出し、机に戻した。指導教員に指定されたものだ。

 しかし、どうにも目が滑る。


「なあ、あれで付き合ってないの?」

「付き合ってないんですよこれが」


 透と寧々ちゃんの呆れたような声がした。


 そんなこと言われても。付き合ってくれとは言われてないし、私も逃げ道を残したかった。高校生を好きだなんて、反社会的な自分を認めたくない。寧々ちゃんは反社は言い過ぎって言うけど、そうでも言わないと沼に嵌りそうだった。


 それにモテそうな将真くんはふっと私に興味が失せて、どこかに行ってしまうような気もした。とくに今は男子校でそもそも知り合う女性の頭数が極端に少ない。大学に入ったらきっと。

 そもそも本当の年齢もまだ言っていない。


「まだ年も言えてないから」

「あー……円ちゃん、たぶん言っても本堂くんは気にしないと思うよ?」


「絶対年下っていう男もいるけど、1個上が大丈夫なら、2個上も3個上も大丈夫でしょ〜」

「5個上ですよ……」


 私はテーブルの上にごちんと音を立てて頭を落とす。それからすぐにハッとして頭を持ち上げた。


「あっ」

「どうした」

「寧々ちゃんってどんな水着着るの」


 寧々ちゃんと透が顔を見合わせた。


「え、何、二人とも」

「俺はふつーの海パン。ブカっとした」

「透のは聞いてないんだけど」

「あんたケチらないでラッシュガードちゃんと買いなよ? 今どきは男も着るからね?」


 そうだ将真くんはラッシュガードとか着るのかな。若いから全然着なかったりして。いや若い子ほど意識高くて着るのかも。

 などと考えて、息が止まる。今まで水着姿を見られることばかり気にしてたけど、逆に水着姿を見る、という試練があることに気づいた。


 脳内トリップから戻ると、寧々ちゃんと透はまだラッシュガードの話をしていた。透は「下は持ってないな」と言ってラッシュレギンスをスマホで物色し始める。


「紫外線見えたら人間って絶対、海とか行かないんかもな」

「じゃあ私、紫外線見えるのかも。外に出てはいけないみたいなのすごく感じる」

「円ちゃんのはただの出不精でしょ」


「ほんとに紫外線見えるとすげぇ色になるらしいよ」

「何が」

「世界が」

「へー」

「実際子どもの時だけ少し見える子いるぽい」

「あっそう言われると私、3歳くらいまで天気いい日は部屋が緑色に見えてた」

「円ちゃんそれ怪談寄りの話?」


 それで話は流れて、寧々ちゃんがどんな水着を着るのかは聞けなかったけど、魅力的過ぎないものだといいなと祈る。



 ◇



 透に合わせて私たちはLIMEでグループをつくった。透がインストをやってないと言ったからだ。かくいう私も最近アカウントをつくったばかりなんだけれども。

 でも将真くんはLIME使わないらしくて、と言いかけたら、久米先輩にアカウント無いならわざわざ繋がらせたくないからLIMEでいい、と将真くんが私に言ってきた。また私は心臓がぎゅっとなる。そういうちょっとした独占欲のようなものが私は痺れるほど好きみたいだった。



 将真くんはまどかちゃんと大黒さんで決めていいですよと自分のNG日程だけグループに投げてきた。


 (え? 俺は??) と将真くんの後に透が返す。

 (だから君はモテないんだよ……)と寧々ちゃんのゆるキャラスタンプが続く。

 (そうかわかった!)と教育系コングロマリットの広告のような透のスタンプが返される。

 (その気づきは要らないから日程よこして)と寧々ちゃんのテキストが入る。



 そうして海にいく日は8月の上旬に決まった。

 私が小学生以来の海水浴場に日々緊張して過ごしていると、将真くんは「本何持っていきますか?ふだんどういうの読むの?」とインストで聞いてきた。「濡れてもいい本がいい?」とかも。

 あんなのはあの場で消えた会話だと思っていた。それを大事に拾ってくれることに、くすぐられて、のたうちまわりたい気分になる。


「海とか夏っぽい本にする」

「いいですね」

「海坊主系のあったかな」

「怪談前提なんですか」


 将真くんは何読んでるのか聞いたら、めちゃくちゃ分野が多岐に渡っていた。驚いていると、模試や過去問の文章題に出てきた作品をそのまま図書室で借りてきて読んでいるらしい。


「たまにいい話すぎて問題とけない、みたいな」

「あったあった」

「動物ものはほんと困る」


 将真くんとのやりとりの後、私は自分の本棚から、たぶんこれのことだと思う文庫本を探し出す。将真くんの言う「過去問」は私の本番のときに出たやつだ。試験の後、私は続きが読みたすぎてこれを買ったんだ。


 私はその一冊も、旅行用バッグにそっと入れる。それからふと思いついて、ジップロックをキッチンから何枚か持ってくる。持っていこうと思った本をジップロックに入れてファスナーを合わせているうちに、私はだんだんと海に行くのが楽しみになってきたのだった。




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