13 高2のときからA判定
「次の模試でA判定取れたらご褒美ください」
そう言われて、私は最初にいかがわしいことを考えた。
「ご褒美ってどんな」
動揺して少し声が上擦った。その様子を丹念に観察した将真くんは、
「夏休みにデートしてくれますか?」
と言ってきた。なんだ、デートか。そのくらいなら、と思ってまたそのぬるい考えを私は打ち消す。
「毎日塾とかあるんじゃないんですか」
「1日くらいは大丈夫です」
「いやその1日くらい、で身を滅ぼすのが受験のセオリーであって」
「だからA判定が条件です」
今回は、将真くんも譲らず頑固だった。
自分が学部入学していて言うのはあれだが、うちの大学はけっこう入るのが難しい。でも将真くんは附属高生で、寧々ちゃんによると中高に入るほうが難しいらしいから大丈夫なのか? でもでも入学のときには良くたって、その後沈んでいく人も中にはいる。
カメラマンさんが「チンピラみたいな柄シャツ」と言っていたのを思い出した。そうなんだよなあ、たまにチンピラみたいなんだよなあ、この人。文化祭に行く途中、声をかけてきた先輩も治安悪そうな人がいた。あとなんだか友だちの反応も引っかかる。
将真くんの成績が今どのくらいなのかわからないけれど、なんだかあんまり良くできるようには思えなかった。勉強がうまくいかなくて、あんなふうに奇抜な格好をし始めたのだろうか。
将真くんの将来を考えると、私なんかいないほうがいい。でも私がご褒美を約束することで、少しでも勉強に身が入るなら、彼にとって良いことなのかもしれない。たとえA判定が取れなくても。勉強して得た学力は本人の財産だ。
思案をめぐらしたあと、私は将真くんの顔を見た。
「ご褒美の話、受けましょう」
「やった!」
「あ、日帰りですからね? うちも門限あるし」
「わかりました」
23にもなって門限など無かったが、とりあえずそういうふうに言っておいた。将真くんはそういう感じの子じゃないけど、夏はやっぱり解放的になり易いから身を引き締めていかねばならない。
「場所はボクが決めていいですか?」
「はい、お願いします」
現役高校生が喜びそうな場所を私は知らなかった。ゲーセンとか? あのゲーセンの入った複合施設に行くんだろうか。もしくはインスト映えするお店をハシゴするとか。それは女子だけなのかな。
「勉強がんばります!」
そう微笑んだあと、将真くんはポケットをガサゴソして「スマホ忘れた」と言って音楽室に取りに戻った。
一部始終を見ていたマルくんが言う。
「おねーさん、マサにしてやられましたね」
「どういうこと?」
「あいつ、高2のときからA判定ですよ」
「は??」
その言葉通り、後日、将真くんはご立派な数字を叩き出して、勝ち誇った顔で判定結果の紙を持ってきたのだった。
登場人物の名前メモ 本文短いのでご紹介
◇
円 →円
本堂将真 →ポンド
久米透 → 米ドル
大黒寧々 → クローネ(旧貨)
久留間 →マルク(旧貨)




