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アフター1-2 凡人という品種

「平坂くん、サインありがとね。それと、女装辞めないでね」

 

 それに関してはなんとも言えないですねー。必要とあらば女装はしますが。それこそ美月の為になるのであれば。

 

「は、はは……」

 

 なんか春木さんから連絡は来てるんだよね、学園祭がどうのとかで。今回は僕も部外者になってることだし、ギャランティがどうだとかって……。金額については相談だとかなんだとか。

 ギャラいくらって気になるけど、それのこのこ学校行ったら僕やることになるよね?

 

「はいはい。ま、オレらも通常業務戻んないとだ。今日はわざわざ来てくれてありがとね。平坂くんにとって、今回の経験が悪くないものであることを祈るよ」

 

 なんて言って見送りまでしてもらって、僕は帰路に着く。帰りの電車に揺られる中「久しぶりー」と声をかけられた。

 

「は、はい?」

 

 僕が振り返れば、同じようにスーツ姿の黒髪に雪のような白い肌の女の人が悪戯っ子のような顔をして笑っていた。

 

「あっ、あー……お久しぶりです」

 

 一瞬、声をあげそうになるものの、電車内ということですんでのところで抑え込んで軽い挨拶と会釈をする。

 

「スーツ似合ってるね」

「そちらこそ」

「ふふ、どうも。前会ったのって二年前だよね?」

「そうですね。夏コミの時に」

「全然会わないね。ねーねー、コミケ行ってた?」

「行ってましたよ? そちらは?」

「わたしも。ま、あんなに人がいて連絡先も知らないんじゃ会えないか」

 

 それはそう。この再会はずいぶんと奇跡的なことだ。

 

「それで仕事中だったり?」

「いや、会社見学の帰りです」

「おー……あれ? 今って」

「大学一年生です」

「進学かぁ。それにしても、ひょえええ……意識たっかいなぁ。わたしなんてつい最近になって就活始めたくらいなのに」

 

 いや、僕もぶっちゃけ魁星さんに誘われてなかったらまだ何にもやってないと思います。

 

「ということは、もしかして」

「そそ。面接帰りなわけさ。ま、今回も大惨敗とは思うんだよね」

 

 ヘラヘラと彼女は言う。

 

「わたしって人間はねぇ、自分の良いところってのがテンで分からんのよ」

「良いところ……いろいろあると思いますけど?」

「たとえば?」

「なんか、こう……話しやすいところとか?」

「コミュニケーション力かぁ。他には他には?」

 

 んー……あとは。

 

「…………」

「ど、どうしたのさ、そんな顔をまじまじと見られると照れちゃうんだけど?」

 

 顔がいい。

 

「いえ、ちょっと」

「もしかして見惚れちゃった? 顔はいいって友達にも褒めてもらってるよ」

 

 パチっとウインクを飛ばしてくる。

 

「僕彼女いるんで」

 

 僕は吊り革を掴む手とは逆の右手を軽く上げ、遠慮する姿勢を作る。

 

「ちょ、それだと、わたしフラれたみたいな感じじゃん」

 

 いやいや、そんなつもりは。

 

「……別に君に恋愛感情なんてないしー」

 

 頬を膨らませて呟いてる。

 

「もしかして僕にも同じダメージ与えようとしてます?」

 

 だが残念ですねぇ。僕には最高の彼女がいるので。

 

「君がそう思うならそうなのでは?」

 

 そこの認識を僕に委ねるのか。

 そんな話をして電車に揺られてれば「あのさ、できればで良いんだけど……ちょこっと就活対策とかに付き合ってほしいんだよね」と。

 

「僕がですか?」

「うん。わたしの自己PRのためにさ」

 

 別にそれくらいなら。でも美月以外の女の人と二人きりって言うのは…………いや、その時はその時で。ちゃんと一緒に説明してもらえると思う。してもらえるよね?

 大丈夫。全然浮気じゃないから。信じておくれ、美月さん。

 

「────それで早速なんですけど、特技とかありますか?」

 

 僕たちはテラス席のあるカフェで向かい合って座る。

 

「特技、特技かぁ…………」

 

 参考までにエントリーシートとかを見せてもらえないかとも思ったけど、あれってだいぶ個人情報だよね。さすがに遠慮した。

 

「……なんだろ」

「特技じゃなくても自分の長所とか」

「長所は…………素直なところ?」

「その長所が今までの生活で役に立ったことはありますか?」

「…………え、えっと。あっ、忍耐力も自信あります。それは……え、と」

 

 長所はいくつか挙げられるのに、それでもその長所が活かされた経験だとかが出てこない。

 

「……あの、別に何から何まで本当じゃなくても良いんですよ?」

「……だよねー」

 

 彼女は空を見上げた。

 

「ちょっと、さ。いろいろ整理したいんだ。愚痴みたいになるけど……大丈夫かな」

「僕で良いんですか?」

「君の交友関係とわたしの交友関係が被ることってそんなにあるかなぁ?」

 

 僕の交友関係内で漏れても問題ないという認識らしい。そもそもそんな話を誰かに漏らすつもりもないんですがね。

 

「……わかりました」

 

 僕がそう返すと。

 

「……わたしさぁ、お兄ちゃんと妹がいるんだよね」

 

 彼女は話し始めた。

 

「お兄ちゃんはね、すっごい優秀でさ。わたしもお母さんに優秀であることを求められちゃって。まあ、なんだかんだでできちゃったんだ」

「要領いいんですね」

「……なのかな。ただお母さんに言われるがままってだけだと思うけど。わたしはすっごい努力して、なんとかお兄ちゃんの足元に喰らいつけたって感じ」

 

 自分は凡人なんだよ、と彼女は自重する。

 

「同じ品種でも良い餌貰ったら他と比べてちょっとは出来が良くなるでしょ? 大体そんな感じなんだよ」

 

 自分は凡人っていう品種で、お兄ちゃんは優秀っていう品種だった。

 そう呟いてからテーブルに置かれていたアイスコーヒーを右手で持ち上げて一口啜る。

 

「なんとかお母さんの機嫌は損ねずに済んだんだけどね。そうそう。それで……妹はさ、天才ってやつだったんだ。お母さんは優秀なお兄ちゃんと比較しちゃって、妹を落ちこぼれだと思ったみたいでさ。でも、わたしからしたら……妹は天才だった」

 

 俯いてるせいか、声が若干暗いような気がする。

 

「どうしようもないほどに天才でね。数学が特にすごかったんだ。わたしの解いてた問題をすんなりと解いたこともあるし」

 

 優秀な兄と、天才の妹。

 

「お母さんは優秀な存在は好きだけど、天才は分からなかった。だからいつも怒ってた。お兄ちゃんはそれで心配してたみたいでさ」

「…………」

 

 なんだか、それは。

 美月の家庭とも重なるように思える。

 

「でも、ほら……わたしは君曰く要領良いみたいでさ? お母さんに怒られるってことにはならなかった。だからお兄ちゃんも心配はしてくれなかった。わたしは問題ないって思われたんだろうね」

 

 それから溜息を吐き出して「ごめんね、こんな話しちゃってさ」と謝罪を述べる。

 

「整理、できました?」

「んー……どうかな。でも、長所は見つかったよ。要領良いんだね」

「そのストーリーとかって」

「いろんなことを覚えるのに役立ちました、とか。勉強する時にどう覚えるのが良いかとか、考えましたとか?」

「良いじゃないですか」

「そう? ふふ、ありがとね。ちょっとスッキリした」

 

 そう言ってコーヒーにまた口をつける。

 

「そうだ連絡先交換しとく?」

「そうですね」


 また、何かあればということで。


「はい、これ」

 

 そうして連絡先を交換する。

 

「わたし、日織(ひおり)ね」

 

 それから。

 

「冬野日織。よろしくね、平坂くん」

 

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