第89話 恩を受け、恋を知る
冬野からロビーに来るように、とメッセージが来た。
僕は同部屋の周防たちに「ちょっと用事ができたから」と言って部屋を出て、真っ直ぐにロビーに向かった。
「お待たせ……って、冬野さん?」
どうにもロビーにあるお土産コーナーでお土産を物色してるみたいで。
「なんか良いのあった?」
「これとか良いかも。兄さんへのお土産」
そう言う冬野の視線の先を追いかけると見えたのはチョコレートクッキーの箱だ。それを一つ、冬野が徐に持ち上げた。
「もう決めたの?」
「駄目……?」
「ううん! 全然駄目じゃないよ!」
僕は冬野が選んで買ってくれたってだけで嬉しいし。魁星さんもおそらくそうだと思うね。何だったら冬野から貰えるならスーパーのお菓子でも喜ぶんじゃ……?
「駄目じゃないんだけどね?」
「うん?」
「……でも、どうせなら夏元さんたちと一緒にお土産選んだ方が楽しいかもね」
「そうだね。そうかも」
持ち上げてた箱を元の位置に戻す。
「ね、燿」
「うん?」
「兄さんへのお土産、一緒に悩んでくれる?」
「そうだね。僕も色々お世話になってるから」
ちゃんとした物買わないと。
「…………燿、聞きたいことがあるんだけど」
いよいよ本題か。
少しの緊張を覚えて、僕は唾を飲む。
「ど、どうぞ?」
そう冬野に促すと。
「女装するのって……嫌なこと?」
上目遣いで僕の顔を見つめながら、聞いてくる。女装か。女装ね。
…‥女装?
「燿にとって女装ってやりたくないこと?」
僕が唐突な質問に少し放心してると、少し言い方を変えて聞いてきた。
「女装は、その……やりたい……ってのは変な感じだし。好きか……って言うのも、うーん」
とてつもない誤解が生まれそうなんだよね。
「学園祭の時の女装は……わたしの為?」
そう聞かれても。
そうであったとしても。
それは、なかなかどうして……頷けない。
「……正直に答えて」
だって、このまま素直に『はい、そうです』って答えてしまうと、それはなんだか恩を着せてるみたいだし。
「……それは、えーと……その、お金になりそうだったらなんでもよかったんだよ」
あれ? 割と最低な言葉が出てきちゃったぞ? そ、そんなつもりじゃなかった……とは言えないっすね。
「わたしの修学旅行のため?」
ズバリ、言い当てちゃうなぁ。
「……………………参りました」
正直、このまま詰められると隠そうと思っても隠しきれないね。降参です。降参だよ。
「あ、でもね、これは僕が冬野さんと一緒に修学旅行に来たかったってのも大きくてさ」
僕の言葉に。
「……ありがと、燿」
色々気がついてるんだろう。
「燿のこと、これからも頼っていい?」
「え? そりゃ勿論」
だって。
「友達でしょ? 僕たち」
まあ、僕としては友達以上になりたい、け……ど?
「冬野さん?」
僕の服の袖を引っ張ってる。
「わたしの……人生の責任とってくれるんでしょ?」
それは……そう、言ったもんね。
だから、そのために僕は聞いておかなきゃならない。こんなの、めちゃくちゃ男らしくない話だけど。
「────い、いざとなったら女装に頼っても良いですか?」
冬野はキョトンとした顔を見せた後で、微笑んだ。
僕が嫌じゃないなら、と言って。
* * *
きっかけがどこかはよくわからない。
でも、自覚した今はちゃんと好きだって言える。




