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第87話 責任取れますか?

 

「……夜遅くに女性の家を訪ねるなんて、あなたの家の教育はどうなってるんですか?」

 

 僕を睨みつけて、冬野の母親が聞いてくる。いや、言葉的には質問という体を成してはいるものの、口調もその本日も責めるようなものだ。

 

「僕の家は結構な放任主義なものでして。申し訳ないです」

 

 放任主義的なところは割と実際そうではあるし嘘は言ってないよ?

 だって、この通り夜遅くに出かけたりとかもできてるわけだし。

 

「なら、あなたの倫理観の問題ですね」

「それを言われると……まあ、困りますね」

 

 僕だって立派な倫理観してるとは思ってないもん。さすがに他人に『自分は善人です』なんて自己紹介できるわけないし。

 

「……燿」

 

 僕の後ろで冬野は服の袖をぎゅっと掴んで怯えてるようで。

 

「でも、ほら。お互い夜も遅いですし、ね? 僕と冬野……美月さんは明日から修学旅行ですので。今日のところは解散にしません?」

 

 僕の言葉に「なら、先に帰りなさい。私もすぐに帰りますので」と返してくる。

 

「…………」

 

 それ、絶対に帰らないでしょ。

 

「……美月さんの修学旅行、行かせる気ないんですよね?」

 

 僕の質問に溜息を吐き出す。

 けど、答えは返ってこない。

 

「だから、美月さんの家にこんな時間に押しかけて。行かないように説得……説得?」

 

 いや、説得とかじゃないと思うな。

 監視だと思うね、これ。うん。

 

「美月が修学旅行に行かないことと、あなたに何の関係があるんですか?」

 

 関係は大いにある。

 

「僕は……美月さんのこと好きなんです。だから一緒に修学旅行に行きたいと思ってるんです」

 

 そんな理由を、やはりというべきか。

 否定される。

 

「そんな理由で?」

「そんな理由で、僕は美月さんと一緒に修学旅行行く方法考えたんですよ」

 

 そっちが行かせるつもりないってのは魁星さんから聞かされてたから。

 

「……あなたも一枚噛んでいたというわけですか。魁星が勝手なことを。はあ……良い子はあの子だけなのね」

 

 情報が整理できたのか、眉間を押さえてから僕を一層鋭い目で睨んできた。

 は、迫力すごくて思わず後ずさっちゃったよ。冬野もやっぱり恐ろしいのか、僕の腕をギュッと抱きしめ……あれ、役得?

 しっかりしろ、僕!

 今、真剣なんだから。

 

「魁星は妹の人生をどうするつもりなのかしらね。それにあなたも……あなた、美月のことが好きなだけで、なんなんですか? それだけで、魁星と一緒に……はあ」

 

 溜息。

 目の前のこの人は苛立ちを抑えきれてないようで。

 

「……美月の人生を滅茶苦茶にして、責任はどうするつもりなんですか?」

 

 責任。

 

「冬野さんの人生の責任は取りますよ」

 

 それほどに僕は冬野のことが好きなんだから。

 

「絶対に。冬野さんが幸せだって思えるように」

 

 けど、きっと。

 たぶんだけど、冬野の母の言いたい責任ってのは、冬野に対してだけじゃないんだろうと思う。

 

「……美月の人生がうまく行かなかったらどうするの? 言葉だけならどうとでも言えるでしょ?」

 

 僕は。

 

「冬野の人生の責任はどうやってでも取ってやる」

 

 それこそ、女装で金稼ぐことになってでも。僕の本気の覚悟で、絶対に。学園祭の時みたいに。

 

「────僕が取るべき責任は冬野に対してのものだ。その責任ってのは、冬野が幸せだって思えるようにする責任だ。その評価は親であったとしても、アンタがするもんじゃないでしょ」

 

 感情的に言い返してしまった、子供っぽく。

 

「冬野さん。冬野さんは……修学旅行に行きたい?」

 

 僕が尋ねれば、冬野は涙の滲む目をしながら母親を一度見て少し迷う素振りをしたものの、コクコクと頷いた。

 

「燿と……陽毬とも、それに里菜と旭とも、修学旅行行きたい」

 

 そう聞けたなら、僕が迷う必要はない。

 冬野だってそう思ってるっていうのなら。

 

「────お待たせ、平坂くん」

 

 僕たちの後ろから魁星さんがやってきた。

 冬野が敵に挟まれたと思ったのか、より一層強く抱きついてくる。柔らかさを強く感じるけど、若干痛いくらいです。

 

「……魁星」


 冬野がこの場で信頼できるのは僕だけと思っているからだろうか。


「はぁああ……」

 

 深呼吸をして、魁星さんが震えをできる限りに抑えて。

 

「母さん。悪いけど、オレももう立派な大人だ。だからって言うか……もう、一人立ちさせてもらうよ」

 

 魁星さんの言葉に盛大に溜息を吐き出してから、失望したというのが分かるような声色で「……勝手にしなさい」と呟いた。

 僕たちの横を通り過ぎ、出て行く寸前に。

 

「────美月、不幸になっても私はもう知らないですからね」

 

 そんな風に言い残して扉を勢いよく閉めてしまった。

 完全に居なくなったのが分かった瞬間に僕ら三人は緊張の糸が解けたように脱力してしまう。

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