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第82話 信者増加

 

 僕の女装は結局のところ、魁星さんのお眼鏡に適ったのか。

 というのも、ステージから降りた後でも魁星さんの姿が見当たらなかったから。答えは聞けてない。

 

「…………んー」

「燿、どうしたの?」

 

 帰り道、考え込んでると冬野が顔を覗き込んで聞いてきた。

 

「なんでもないよ。ただちょっと、僕の麦わら帽子を誰が手に入れたか気になってさ」

 

 流石に、冬野には魁星さんが来てたことは言わない方がいいと思う。魁星さん的にもそっちのがいいんじゃなかろうか、うん。

 だから、適当な話題で誤魔化した。

 そんな、適当に出しただけの話題でも意外に膨らむもので。

 

「……暦くん、回収できなかったんですか?」

「すまねぇ、里菜。これでも、俺も頑張ったんだ」

「手に入れたら半分この約束だったじゃないですか」

 

 麦わら帽子の半分ことは一体なんなのか。どんな分け方をするつもりだったんだ、コイツらは。ケーキじゃないんだぞ。

 ツバ部分をサンバイザーみたいな感じにして、頭頂部と分けるつもりだったのか?


「いやぁ、俺もな」

 

 周防が両手にうちわを取り出してあおいでみせる。

 

「こう、こっちに来いって。風を呼び込む感じで、な?」

「おい、バカやめろ。そのうちわを外で振るんじゃない」

 

 その無駄にキラキラした推しうちわは絶対に外で振るもんじゃないだろ。ステージのこと思い出すだろ。

 

「ねえ……そういえばなんだけど」

「ん? どうした? 夏元」

「……暦くん。いつの間にそのうちわ用意したの?」

 

 夏元の疑問はもっともだ。

 そこは僕も気になる。まあ、明らかにうちわの制作に春木が絡んでるのはわかってるけど。

 

「里菜と一緒に作ったんだよ。これで盛り上げに一役買ってくれってな。家帰ってからとか、休みの日に二人で作ってたんだよ」

 

 君、学生だろ。ヒマかよ。うちわ作ってないでせめて勉強しろよ。

 

「……いいなぁ」

 

 夏元の呟きを聞いて、春木はバッと手を取る。両手で右手を持ち上げ、包むように。同胞を見つけた! って感じに。

 

「わかりますか!」

「う、うん」

「では来年は一緒に振りましょう!」

 

 来年?

 

「あら、私も貰えるかしら?」

 

 秋山、お前もか!

 って、その。

 

「ならわたしも」

 

 冬野まで!? ……というかさぁ!

 

「いや、いやいや。待て待て。待って欲しい!」

 

 僕が声を上げると、全員がきょとんとした顔をして首を傾げた。

 

「何で来年もやることが確定してんの!?」

 

 今年のこれは魁星さんとの約束があってのことであって、来年もやるとは言ってないんだけど?

 

「え? やらないんですか? ……平坂くん。死人が出ますよ?」

 

 春木よ、目がマジだぞ。

 ……それもなんとなく、わからんでもないような。言われると若干説得力ある気もしてくるような。

 死人、出るか……?

 ……マジなヤツ?

 それはおそらく……その、ほら儀式殺じ……。


「まあ、冗談はほどほどにしまして」


 春木がパン、と手を叩く。

 あ、ああ……冗談ね。冗談、冗談。

 そうだよね。流石にそこまではいかないさ。


「……何はともあれ、平坂くん、お疲れさまです」

「ありがとね。春木さんもお疲れさま」


 僕の女装のために今回も色々頑張ってくれたし。


「いえいえ。私も楽しかったので」

 

 僕は相変わらずうちわを右手に持ってる周防の方に顔を向ける。

 あれ、もう一本あった気がしたけど?

 あ、夏元が持ってるのね。

 冬野と秋山も夏元が右手に持ってるうちわをまじまじと見つめてる。

 改めて、視線を周防に戻して。

 

「応援ありがとね、周防くん」

 

 その……若干の恥ずかしさはあったがね?

 

「応援? 応援なのか、ありゃ?」

「いんだよ、そこは。とにかくありがと」

「……ま、そうだな。受け取っとくわ」

 

 考えるような素振りを見せてから、周防は笑った。たしかに応援というかだけどさ。

 

「三人もね」

 

 僕は冬野たちの方にも声をかける。


「うん」


 三人は微笑みながら微笑んだ。

 僕も思わず笑みが漏れた。


 

 ────ちなみに後で知った話だけど、信者はちゃんと(?)増えたらしい。

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