第81話 麦わら帽子トス
僕はステージの横で出番を待ってる。
白ワンピと麦わら帽子という格好で、だ。
今は僕以外の女装男子たちがステージで鎬を削ってる。それが、こう……想像以上にレベルが高いんですけど。
「いやいや、ハードルぶち上げすぎだって」
僕、この後に出てくんでしょ?
「大丈夫です、平坂くん」
「春木さん」
そういえばずっと一緒にいるね。
もうほぼほぼマネージャーだよ。
「今の平坂くん……いえ、平坂ちゃんは世界一可愛いです」
なんでしょうね、僕としては若干複雑ですよ。
「いやぁ……でも」
魁星さんにはちゃんと見せなきゃだからね。僕の本気ってやつを。僕の生み出せる価値ってやつを。
『さあ! 女神降誕祭! ボルテージは最高潮!』
ステージ横でも会場の熱狂具合が伝わってくる。めちゃくちゃ緊張してきた。
「ふっ、平坂くん。今までの前座。全部踏み越えて、吹き飛ばしちゃってください」
……よし。
「頑張るか」
気合い入れてくぞ! これに冬野との修学旅行がかかってんだ!
『それでは、今回のメイン! 我らが女神! ヒラサカヨウの降臨です! 今回、衣装は厳正なる投票の結果……いえいえ、これは見てのお楽しみと行きましょうか! お願いします!』
僕はステージ中央に一歩踏み出して。
「あたっ……!」
コケてしまった。
「……ご、ごめんなさい!」
恥ずかしい。
めちゃくちゃ恥ずかしい。
みんなの前でコケた。
近くに居た女装男子の一人がやってきて手を貸してくれた。
「あっ、ありがとうございます」
「い、いえっ……! そ、そんな! ごくっ」
よっこらせ。
見苦しいところ見せて申し訳ない。僕は頭を下げる。
「はぁ……」
心臓、バクバクいってる。
取り敢えず深呼吸。
去年もステージに立ったのに。
「ふぅー……」
体育館、客席をざっと眺める。
夏元が手を振ってる。冬野もその隣にいて。僕はヒラヒラと手を振りかえすと、会場が一気に盛り上がる。
「うおっ……!」
盛り上がりの中、周防の姿も。
「…………なんだそれ」
両手に推しうちわ持ってる。しかも光ってる。僕が見てるのに気がついたのかめちゃくちゃ熱心に振ってくる。
それいつの間に作ったんだ!
『ヒラサカヨウ様!』
様はどうなんだとか、今更すぎる事をごちゃごちゃ考えてるとさっとマイクを渡されて、僕は反射的に自然と受け取っていた。
『は、はい。改めまして、平坂です』
『どうでしょうか、今回の催しは』
『あ、あはは。どの子も相当レベル高いと思いましたよ?』
『そうですね。しかし、その全てをヒラサカヨウ様は遥かに超えてきました。さすがとしか言いようがないです』
全然自覚ねぇー。
『最初に転んだのは……』
う、うぅ。
あれは普通に転んだだけで。
『き、緊張してしまって』
『最強ですか……?』
何が?
『皆さん! どうですか! 今回も我々の女神様は〜!? 最高に〜!?』
ステージパフォーマンスなのかマイクを観客の方に司会者の女子が向けると「かわいい」の大合唱。
なんだこの一体感。
『では、女神様より……託宣を賜りたく存じます』
託宣とか言われると本当にそういう風に感じるよね。ちっとも、他人事じゃないんですがね。春木からも言われて多少は考えてるけどね。
『え、えーと……みなさん、盛り上がってますか?』
僕の声に応えるように会場が震える。
『……よかったです。僕もとても楽しく学園祭過ごせました。今はちょっと緊張してますけど、でも……こうしてみなさんの盛り上がりを見ることができて、今年もこうやって女装してよかったと思ってます。来年、一緒にこの学園に通う仲間が増えることを祈りまして、僕からの言葉は終わりとさせていただきます』
ありがとうございました。
頭を下げると盛大な拍手が響いた。これでどうか、魁星さんにあとでちゃんと確認しよ。
『えーと、それでは……』
僕はマイクを返してステージ脇に戻ろうとすると、春木のジェスチャーが見えた。
「えー……と? 帽子を……投げる?」
僕が麦わら帽子を脱いで右手に持つと会場がざわついたような気がした。
『ひ、ヒラサカヨウ様?』
「そ、その……帽子を投げた方がいいとのことで」
『わ、わかりました! みなさん! 女神様が帽子をお投げなさるそうです! 決して怪我をしないよう、お気をつけて!』
みんなの目がマジなんだけど。
肉食獣みたいな目をしてるんだけど。
『くっ……私もそっち側がよかった! ではもう一度マイクお渡ししますね。ヒラサカヨウ様のタイミングでお願いします』
『はい……!』
よっしゃ、行くぜ!
飛んでけー!




