第80話 学園祭(二年生)
「お、平坂くん」
学園祭の最中、僕は看板を持って歩き回ってた。
え? 衣装?
まだですよ? 今回の目玉イベントで着るまでそのままらしいね。だから今はいつも通りの制服なんだよね。
「あら、平坂くんの知り合いかしら?」
「そうそう」
それで秋山と一緒に宣伝をしてた。
「あ、どうも。はじめまして。オレは冬野魁星。平坂くんに学園祭に是非来てくれと言われてね」
魁星さんがニコニコと笑みを浮かべて言う。
「そうなんですね。私は秋山旭です。いつも平坂くんがお世話になってます」
「まるで保護者みたいな口ぶりだね」
まあ、お世話になってるかどうかって聞かれたら、たしかにお世話になってるかもだけど。ご飯奢ってもらってたりしてるし。
「それで冬野さんというと……」
「秋山さんの考えてる通りかな。魁星さんは美月さんのお兄さんだよ」
「そうなのね」
秋山は魁星さんの顔を見つめて「たしかに似てるわね」と納得したように呟く。
「そう? 兄妹だからかな。兄妹、だからかなっ」
うん。魁星さんの声が嬉しそうだ。あと、なんで二回言ったんだろ。
「お兄さんということでしたら……やっぱり美月さんに会っていきますか?」
「ああ……いや、それはちょっとね」
笑みを作って、首を小さく横に振った。
「オレが用があったのは平坂くんの方だからね。……それに会いに行くと美月に申し訳ないし」
「冬野さんって、そういう思春期的な面があったのね」
秋山は家族が会いに来るのが恥ずかしいみたいに考えたのかな。
「……………………ま、いろいろあるんだよ」
だいぶセンシティブな話だろうし、進んで他人に話すようなことでもない。だからだろう。魁星さんは口を噤んだ。
「それで平坂くんに用というのは?」
「平坂くんとちょっとした約束をしてたんだ。その約束のために今日は学園祭に来たんだよね」
いやぁ、わざわざご足労ありがたいことですな。
「それにしても…………秋山さんだっけ?」
「はい」
「君は……こう、お金になりそうなニオイがするね」
魁星さんは秋山の顔を見て、自分の顎を撫でながらウンウンと頷いた。
まあ、女優だもんね。
「平坂くん平坂くん」
「うん? どうしたの?」
「この人、もしかしなくても変態かしら?」
「……うーん」
それは……なくはないかも。
「平坂くん! 否定してくれよ!?」
完全にないと言うことを証明するのは、あることを証明するよりも難しいんですねぇ。
「……まあ、類は友を呼ぶとも言うものね」
それだと、僕も……って。
あ、僕の評価も変態だったよ、そういえばさぁ! いやいや、でも秋山は優しいからね。変態でも包み込んでくれるんだよね。
「それで……変態どうこうは置いておいて」
「オレは変態じゃないよ?」
「……平坂くんがお金の話をしてきたのはあなたと関係があるんですか?」
さっきの魁星さんの発言と、過去の僕との会話からそんな考察をしたのかも。秋山は鋭いね。
「ん? ああ。もしかしたらね」
僕と秋山が交わした会話の内容は知らないから返事は曖昧だ。
「……それで」
秋山が僕を見た。
はい。それで女装なんです。
僕は思わず身体を縮こまらせる。別に悪いことはしてないけど、なんとなく居た堪れないような気持ちになりました。
「オレもせっかく来たんだしいろいろ見て回るよ。君たちも宣伝だろ? その看板。引き止めて悪かったね」
それじゃ頑張って、と魁星さんは踵を返して数歩進んだ先でぴたりと足を止めた。そして振り返って。
「そうそう。オレは変態じゃないからね?」
そう言ってから、魁星さんは今度こそ去っていく。
「ま……平坂くん。がんばりましょ?」
「そうだね」
おっしゃー! 焼きそば売って売って、売りまくるぞー。
「焼きそばだよー! おいしい焼きそばだよー!」
僕らは宣伝をがんばった。
「去年ほどとはいかないものね」
秋山の言うとおり売れるには売れたけど、去年のコスプレ喫茶ほどの大繁盛とはなりませんでした。
コスプレつっよ……。
「────平坂くん、そろそろです」
春木に呼ばれた。クラスメイトたちがみんな、僕を見ている。後方腕組み勢みたいな顔をして。
「は、はは」
乾いた笑いが出た。
遂にこの時が、来てしまった。
「燿」
僕の方に冬野が歩み寄ってきた。
「冬野さん」
「がんばって」
「ありがとう、冬野さん」
わかってたはずだろ? 平坂燿。
「ボクも応援してるよ! 燿くん」
夏元に頷きを返す。
「ありがとう、行ってきます」
僕は春木と一緒に廊下に出る。
「……あ、そうです。平坂くん」
「うん?」
「衣装、白ワンピらしいです」
白ワンピか。やった! マトモだ!




