第78話 本気の覚悟
「…………」
僕はここ最近、悩んでる。
非常に悩んでいるのだ。
「ぬぅん……」
冬野の修学旅行費どうやって稼ごうかな、と。
何が稼ぐ手段になるのかが全然想像つかない。僕が直接稼ぐってわけではないけども。
「どうかしましたか? なにか悩み事ですか?」
「……春木さん」
空いた時間があればお金稼ぎについてを考えてる。今の僕は社畜かもしれない。でも、嫌じゃない。嫌じゃないんだよ。
「……そうだね」
お金稼ぎは需要と供給。
今、何が求められてるのかの把握が必要なのだ。そう、それこそが市場分析というものである。
参考までにみんなにいろいろ聞いて回ってもいいかもしれない。秋山とか周防とか夏元とか梅宮とか。
なんで春木が入ってないのかって?
「私に話せることであれば、どうぞ」
「……う、うん」
その申し出はありがたいんだけどね。
本能的に春木に相談するのはやめた方がいいんじゃないかと思ってるんだ。ずっと警鐘が鳴り響いてるんだ。
「……それは最終手段だから」
僕は小さい声で呟く。
「はい?」
春木の耳には届かなかったらしい。
とりあえず今は授業が始まるから、どっかで隙を見つけて路上アンケートよろしく聞いて回るとしよう。
「────今ちょっと時間大丈夫?」
昼休み。
ホールで秋山に尋ねる。
「構わないわよ」
僕は「聞きたいことがあってさ」と切り出す。
「何かしら?」
「こう……具体性はないんだけど。今、お金になるようなことってのを考えててさ」
「お金に……」
「どういうのが売れそうか、世の中に求められてるかとかを考えようと思ってたんだけど、なかなか思いつかなくて」
「需要と供給ね」
いろいろ考えてはみたんだけど、素人の考えることすぎて。
「……平坂くん、会社勤めなのかしら?」
「いやいや、まだ働いてないよ」
そう思いそうになるのは仕方ないね。
「ただ事情があってね。考えなきゃならない機会を賜ったんです」
「そう」
秋山が俯き、顎を指で撫で少し考える素振りを見せる。
「私もそう言った商品開発については素人だからなんとも言えないけど」
「お金になりそうだったらなんでもいいんだよ」
「……節操ないわね」
「あ、あはは……」
だって、魁星さんがそう言ってたもん!
「やっぱり見た目もお金を稼ぐ手段の一つよ」
「…………」
…………ふむ、ええと……。
なんだろ? ちょっと雲行きが怪しくなってきたぞぅ?
「ありがとね、見た目も手段の一つ、と。参考にするよ、秋山さん!」
僕は秋山から少し距離を取る。
「あら、もういいのかしら?」
「大丈夫ですっ。またあとで話そうね。ありがとうござましたー!」
罪悪感を覚えながら逃げるようにその場を離れた。
それからまた別の授業の合間で。
「────そっか、ありがとね。夏元さん」
次は夏元にって思って聞いてみたけど、特に思いつかなかったみたいで「ごめんね、燿くん」と謝られてしまった。
「いやいや、大丈夫だよ」
「あ、でも。需要の話なら、ほら……ここ最近だと女神がどうとかって」
「……マタアトデー」
女神需要だと!?
「あ、うん。またあとでね、燿くん」
そして放課後。
「……それで、周防くん。なんかお金になりそうなモノとか話とかない?」
学園祭の準備の最中、手が空いたタイミングで周防にも聞いてみる。
「俺、そういう怪しいことやってるヤツに見えるか?」
「いや、そういう意味はなかったよ?」
そういう闇的な意味は。
「なら、普通のバイトとかってことか? 今学園祭準備で忙しいだろ?」
「そういうことでもなくてね。僕は商品とかを考えてるんだよ。どんなのに需要があって、供給が足りてないのかとか」
「それ、学生がやることか?」
あ、そう思う?
でも、僕はやってやるって決めたんだ。
「────ありますよ」
そ、その声は!?
「もしかして、それで最近悩んでたんですか? 平坂くん」
春木だ。梅宮にはまだ聞けてないのに、もう春木が来ちゃったよ!
「いいですか、平坂くん。万民の声を聞き届けてください」
「…………っ」
……そう、だ。
春木の言う通りだ。
僕は耳を塞いでいた。目を背けていた。たしかにそうなんだろう。事実だ。
「みんなが望んでいます。つまり、それこそ需要ではないのですか?」
周防も春木の言いたいことを理解できてるんだと思う。目を見開いて、春木を見つめてる。
「り、里菜……お前、まさか」
僕は。僕は……。
「……それしか、ないか」
お金になりそうな商品はどうにも考えられない。それがお金を生み出すという説得力を持たせられない。
けれど、僕のそれはどうしてか求められるほどの価値があると見えてる。みんなから崇められてしまうほどに。
「…………言ってたもんな」
魁星さんも。
僕の本気を見せろって。本気だとか言ってたのに、僕は手段を選ぼうとしていたんだ。
だから、僕にできる本気というのをやってやる。
「────春木さん、準備を」
僕は深呼吸ひとつ。
覚悟を決めて春木を真っ直ぐに見る。
「はい。任せてください。全力でサポートします」
冬野の修学旅行のためだ。冬野の笑顔が見たいから。僕は自分の意思で女装することを決めた。




