第77話 求められたのは
学園祭の準備も順調に進んでるようで、今日は放課後の作業もそこまで長引かなかった。そんなわけで、僕はいつもと同じように冬野と夏元と一緒に下校する。
「バイバイ、燿……また、ね」
「うん。バイバイ、冬野さん」
小さく手を振った冬野を見送ってから、僕も自宅に向けて再出発。しばらく歩いたところで。
「────やあ」
例のお兄さまが僕を見つけ、九十五点くらいのスマイルを浮かべ声をかけてきた。
「君、かわいーね。どう食事でも一緒に」
ナンパ師みたいな口ぶりだ。
「あの、仕事は……?」
「終わりだよ、終わり。それよりちょっとお話ししない?」
僕が「ご飯は家に帰るとあるんで」と答えれば。
「頼むよ、平坂くん。オレだって無駄話するためにここに来てるんじゃない」
と、真剣な目をして言われたものだから。
「……その、大事な話なんですか?」
そんな風に確認をすれば「そうだね。大事な話だよ。君が美月の友達だってなら」と気になるような答え方をされた。
「……あの、ちょっと待ってくださいね」
僕は『夕飯、友だちと食べてから帰る』と母さんにメッセージを送るとOKとスタンプが返ってきた。お、大丈夫みたいっすね。
僕は視線を魁星さんに向け直す。
「大丈夫?」
「はい。家族にも伝えたんで」
「いやぁ、ごめんね。迷惑かけて」
「冬野さ……美月さんのことなら僕は全然平気ですよ」
僕は冬野のことが好きだからね。
「……ははっ」
二秒ほどの間を置いてから魁星さんが笑った。それから。
「頼もしいな、君は」
と口にする。
「じゃ、どこで話そうかな。公園のベンチ? それともカフェ? 夜景の綺麗なレストラン?」
「その三択なら断然、夜景の綺麗なレストランが興味ありますね」
普段だとあんまり縁がないもんで。
「そっか、うんうん」
腕を組んで、魁星さんはこくこくと首を縦に数回振る。
「よし、カフェにしよう」
「え? レストランは?」
「実はオレ、今そんなにお金持ってきてないんだよね。それと食事って言ったのに公園のベンチもあれだし。ほら行くよ、平坂くん」
選択肢は最初からなかったんだ。
最初からカフェのつもりだったんだ。カフェも良いんですけどね?
「────さて、と」
注文もし終わったところで、魁星さんがテーブルに両腕を置く。
「こういう話って食前、食中、食後……どこでするのがいいんだろうね。悩みどころだ」
「そんなお薬みたいに……」
ちなみに食事直後とか、食事直前とかもあるらしいですよ。いや、どうでも良すぎるぞ。この話は。
「ほら、今がチャンスですよ。ささ、始めちゃってください」
「でもさ、こう言うのって大事な話してるタイミングで注文したのが来るでしょ? カラオケで歌ってる最中に店員さん来ると気まずい的なの……分からない?」
なんとなくその気持ちはわかるけども。
「あの、今のところ無駄話ですよね? これ」
僕が指摘すると、魁星さんは深呼吸してから。
「……美月、修学旅行に行けないかもなんだよね」
そう呟いた。
「修学旅行に……」
行けない?
「行けないかも。いや、このままだと確実に行けないんだよ」
「どう言うことですか?」
「簡潔に言ってしまえば、家庭の事情ってやつだよ。オレたちの母さんはさ、中々厳しい人でね……そのこと美月は君に話してるかな?」
それは知ってる。
冬野から聞いたってわけではなくて、ゲームの知識だけど。
「どうも……ね。成績が悪いから、修学旅行に行ってる場合じゃないとかなんとか。母さんは美月のために修学旅行のお金を出すつもりがないらしいんだよ」
修学旅行って、学生の思い出だよ?
冬野自身が決めたなら、ともかく。それに、冬野家の生活がそんなに困窮してるってわけでもないと思ってるんだよね。
「あの、それ」
僕が口を開いたタイミングに料理が運ばれてきた。これは食前に話し始めたからだな。
店員さんが戻っていってから、僕は改めて。
「……それ、なんで僕に?」
「言ったろ? 君が美月の友達なら大事な話だって」
たしかに大事な話だけど。
「僕に、その話を聞いてどうしろと」
「平坂くん。君はどうしたい?」
「どうしたい、って」
それは。
「……冬野さんと、修学旅行行きたいですよ。僕は」
僕はそう思ってる。
「ならそれでいい。オレも美月には楽しんでほしいし」
魁星さんは僕を見つめてくる。
「……それで提案なんだけどさ、平坂くん」
「……なんでしょう?」
「オレも美月の修学旅行のお金は出してあげたいけど、無償でお金を出せるほどオレは裕福じゃない」
うんうん。
「だから、君がお金になるような話とかモノを持ってきてくれたなら……オレがなんとかしてあげるよ」
そんなこと急に言われても……。
「なんでもいいんだよ。商品の話とか、どう言うのが売れるかとか」
「……それ、学生に求めます?」
「でも、君は美月と修学旅行に行きたいんだろ?」
「ぐ、ぬぬっ」
「ただし、オレはこう見えて厳しいからね。よく考えることだよ」
そう言って魁星さんは食事を始めた。
僕もスプーンを手に食べ始める。話が長かったからか、料理は少し冷めてしまってた。
「オレに君の本気を見せてくれ、平坂くん」
食事が終わり、魁星さんはそんなバトル漫画みたいなことを言って帰っていった。




