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第75話 失恋ではなくて

「平坂くん。夏元さんたちとは大丈夫なのかしら?」

 

 ある日の昼休み。生徒ホール。秋山からの問いかけ。

 

「大丈夫だよ」

 

 僕はジュースを買いながら答える。

 

「なら良かったわ。夏祭り、平坂くん大変そうだったから」

「……そう見えた?」


 ジュースを手に取って、僕は秋山の左側に移動する。


「ええ。私の見当違いだったかしら?」

 

 そう見えるのは仕方なかったか。僕は特に頷くとかも、首を横に振ったりとかもしないで黙り込む。

 

「…………」

「平坂くん?」


 沈黙は…………。


「いや、待ってほしい。秋山さん、この沈黙は肯定の意味じゃ……!」


 大変か大変じゃないかで言えば、ちょっと大変かもだけど……でもそう言ってしまうのもなんだかなぁって感じで。


「別に私は何も言ってないわよ」

 

 あ、そう?

 

「まあまあ。ともかく、もう大丈夫なんだよ」

 

 まだ、いろいろとあるけど。今のところはなんとかね。変わったのは、そりゃあるけど。それでも。

 

「というか、秋山さんも気にしてくれてたの?」

「ええ。私は二人とも平坂くんとも友達だもの」

 

 そう言ってから「友達とか、自分の話を聞いてくれる人が落ち込んでたら、それは気にするでしょ?」と続けた。

 

「そしたら聞いてあげたくなるの。どうしたの話聞こか? みたいに」

「え……傷心の時にそんな声かけられたら軽率に心許しちゃいそう」

「あなたね……肉食系女子には気をつけなさいね」

「大丈夫だよ。僕、これでも一途だからさ」

 

 身持ち固いよ?

 冬野から告白の返事もまだもらえてないんだけどね。


「一途、ね」

「そうそう」

 

 秋山はしばらく何も言わなくなって。

 

「…………そろそろ昼休みも終わりね」


 ようやく口を開いて、そう呟いた。


「そうだね」

 

 僕は教室に戻ろうと歩き始める。

 

「秋山さん?」

「何かしら?」


 僕だけ歩いてて、秋山はさっきと全然変わんない場所に立ってる。


「戻んないの?」

「ちょっとトイレに寄ってくわ」

 

 先に戻ってなさい、と秋山が言う。


「それとも待ってるのかしら?」

「先に戻らせていただきます」


 女子のトイレ待ちは流石にね。

 

 

 

* * *




「…………別に、失恋じゃないわよね」


 一途だとか、なんだとか。

 その言葉が向けられたのは、私じゃないってわかってる。


「恋とかじゃなかったわよ」


 嫌いじゃなかっただけ。

 自分の努力を認めてくれてるような気がして、平坂くんと話してると楽しくて。気が緩んで。一緒に居たいって思うようになって。


「はあ……別に、好きじゃ」


 嘘、ね。


「…………好き、だったのかも」


 かもしれない。

 好きだった。


「ま、友達としてね」


 今も。

 これからも。


「そう、友達として」


 トイレの個室に声が響く。


「…………友達として」


 何度も、言い聞かせる。

 

「……遅いのよ」


 そんな文句が口から漏れた。

 遅い。あんまりにも遅すぎる。遅すぎて呆れちゃうわね。


「ふぅ」


 授業、出ないと。

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