第74話 初心者狩りの主人公
「平坂、相手いるか? よかったら一緒にやろうぜ」
今は体育の授業中。
今日の授業はバドミントンです。
特に断る理由もない僕は周防の誘いに乗ることにした。先生にもそう伝えた。
僕と周防で試合決定だと。
試合前に僕は周防に言う。
「一応言っておくとだね、周防くん」
「ん? おう」
「僕はバドミントンはほぼ未経験に等しいぞ」
ちょっとはやったことあるけど、経験者と言えるようなレベルじゃない。僕は全然強くないんだからね?
「ふっ……わかったよ、平坂」
「周防くん」
「俺の全身全霊、全力でボコボコにしてやる!」
なんでだよ!
手加減してくれないのかよ!
手加減してくれよ。
僕はほぼ初心者なんだがね?
いや、まさか。
これがあれか。あれなのか? スポーツマンシップってやつなのか? どんな相手にも全力で。絶対に手を抜かない。それがスポーツマンの礼儀ってやつなのか。
「くっくっく……自分よりも絶対に弱い素人相手を倒す。これほど愉快で旨いことはない」
いや、まったく違ったよ!
スポーツマンシップのかけらも感じられない発言しやがったぞ、こいつ。
「邪悪がすぎるぞ、周防くん!」
誰かこの人通報しといてくれないかな? こいつ初心者狩りだ。それにほら、今なんて主人公らしからぬ顔してるんですけど。
ああっ。でも、もう試合始まっちゃう!
「────中々。俺が思ったよりもやるな、平坂」
ぬぁああっ! もうっ。
結局負けちゃったよ。この邪悪を打ち砕けなかったよ!
「悲しい。悔しい。こんなモラルのない人に負けるなんて……」
「ふははははは! 何を吠えても、負け犬の遠吠えでしかないのだよ!」
「……僕は、弱いっ」
僕側のコートに落ちた羽を拾い上げる。
「あ。でも……もうちょい練習したら、僕、周防くんに勝てるんじゃない?」
それなりに接戦だったし。
「……ああー、俺も素人に毛が生えたようなもんだしな」
だよね。
なかなかいい勝負しちゃったあたり、そうだとは思ってたよ。
「頼むから今のまま、弱いままで、バドミントンだけは俺に勝利を献上する側でいてくれ」
「周防くんの口から相当なカス発言が飛び出してきたね。驚きを隠せないよ」
本当に。
「今回の無念を忘れずに、次は僕がボコボコにしてやりたいや」
次以降は全部、ね。
「は、はは……そういや、平坂って結構運動できるよな」
僕と周防はコートから出る。
体育館も広さに限りあるから、一気にできる人数も限られる。ので、僕らはしばらく二人で喋ってることにした。
「まあね。僕もちょっとだけ自信あるよ、運動は」
「おお。そりゃモテそうだ」
「なにそれ、子供かよ」
足早くてモテる時代ってだいぶ幼いころだと思うね。とんでもなく速いとかじゃないとモテの要因にならないんじゃないかな、十代後半以降は。
「でもね、一番モテるのはやっぱり顔だよ」
「……はぇ〜、説得力あるな」
まじまじ見つめてきちゃって、どうしたのさ?
「どうりで平坂はモテるわけだ」
「モテるってね…………」
「夏元も冬野もよく一緒にいるのにモテてないってのはないだろ。それに、ほら。秋山とも仲良さそうだし」
「お。僕モテモテか?」
はたから見ればそうなのかも。ただ、僕は一途なんだけど。
「あー、やだやだ。俺も里菜が幼馴染じゃなかったらヤバかったかも」
「なにそれ。周防くんが僕に惚れちゃうって話?」
春木のおかげで理性を保ててる的な?
春木さんのおかげで、僕も助かってる?
「お前の女装はとんでも……って違う違う。そっちの意味じゃなくて、里菜がお前に取られるかもって話だよ」
それは想像できないね。周防の幼馴染じゃない春木のことが、そもそもでさ。
「────二人ともなに話してるんですか?」
おや。
「噂をすればなんとやら。君は春木さんじゃないか」
「はい。私ですよ、春木です。それで授業中だってのに何してるんですか?」
僕は「ほら」と体育館を見るように促す。
「広さ的にやれるスペースもないし。僕らは試合が終わって満足したから」
「そうそう」
ちょっと駄弁ってたんだ。
「そうでしたか」
「そうなんだよ」
「平坂くん。冬野さんたちの試合は見なくていいんですか?」
ふっ。愚問だね。
「春木さん」
僕は当然見に行くよ。行くに決まってるじゃないか。
僕らは見えやすい場所に移動する。
夏元の試合も始まるみたいだ。
一人にされるのは嫌だったのか、周防も一緒に来た。
「平坂くん」
「うん?」
「夏元さんとは仲直りできました?」
春木は隣の席だから夏元に避けられてたのがバレててもおかしくないか……。
夏元のバドミントンの試合が現在進行形で行われてるコートを見ながら、春木が聞いてくる。
「……そもそも僕たち、喧嘩はしてないよ」
喧嘩なんかじゃない。
「そうでしたか」
「なんか、変に心配させちゃったかな」
そんな話をしてると夏元の強烈なスマッシュが決まった。試合も決まったのか、僕を見つけて笑顔でピースを送ってきた。
僕はサムズアップを返して、笑う。
「たしかに、大丈夫みたいですね」
うん。
たぶんね。
夏元と僕を交互に見て、春木も納得したみたいだ。




