第73話 残酷であったとしても
結局、夏休み中、僕は夏元とも冬野とも話すことはなかった。
そして夏休みが明けた今日、僕はいつも通りの待ち合わせ場所にいつも通りの時間で立っていた。
「……燿」
冬野はいつも通りに来た。
「冬野さん、おはよ」
「来てくれたんだ」
「うん」
それは冬野もだと思うけど。
「陽毬の方は?」
僕は口を閉じる。
「……二人は付き合ってないの?」
首を横に振ってから。
「夏元さんの告白は……断ったんだ」
僕の言葉に冬野は目を見開いて。
「そう、なんだ」
と、ちょっとだけホッとしたような顔をしてから、それがいけないことだと思ったのか冬野は目を伏せる。
「……どうして?」
去年の学園祭でここがゲームの世界ではないのだと理解して、夏元からの告白があって。だから、僕も冬野のことが好きになってもいいんだと思えた。
「僕は……」
冬野をまっすぐに見つめる。
「冬野さんが好きなんだ」
告げる。
「……ごめん」
……振られた、か。
ああ、そっか。まあ、でも絶対に大丈夫だって思ってたわけじゃないんだ。別にいいとかじゃなくて。
「突然ごめんね、冬野さん。ほら、学校行こっか。あ、それとも別々で……」
いきなり告白してきた男と一緒に登校ってのも、心理的にどうなんだろうとか考えたりして。
「その、違くて……わたし、燿のこと好きだよ。でも、よくわかってないから。だからもうちょっと待ってほしい……だけだから」
僕は頷く。
まだ終わりじゃないんだ。
「今はまだ友達のままで」
「……ありがとう、冬野さん」
「ごめん。燿」
ぎこちないながら歩く、朝の登校路。
いつもの場所で夏元と合流することはないまま。僕と冬野だけ。二人きり。
「陽毬は大丈夫なの?」
僕の口から言えることじゃないとは思うけど、それでも夏元とも友達でいたいんだよ。
「なんとかするよ」
夏元の好意をどうしようかなんて悩んでたけど、今はまた別の不安が出てきてるなぁ。
「────避けられてるよね」
学園に着いてから、授業の合間とか夏元は僕と極力話さないようにしてた。昼休みさえも。夏休み前の通りに僕と冬野のところには来なかった。
夏元を探しにいってくると冬野に伝えて教室を出た。
「……あとは、あそこかな」
学校内を探し歩いてれば「燿センパイ」と呼びかける声が聞こえて、振り返る。
「水瀬さん」
怒ってるって感じでもなさそうだ。
「はい。どもっス……陽毬センパイの告白に答えは出したんスよね?」
「そうだね」
「別にそれを責めるつもりはないっスよ。というか、そもそもで陽毬センパイの想いを知ってたのに何も言わなかった時点であたしも気づくべきでしたね」
言われるとね。
僕は夏元が友達として好きだって言ったときから、本心はなんとなく理解してたし。夏元の想いに向き合うべきだと思ったから、こうやって待つことにしてたんだ。
冬野のことを好きな僕からは、告白については掘り返せないから。
「で、今は何してんスか?」
「夏元さん探してるんだよ。どこにいるかはなんとなく見当はついてるけど」
たぶんだけど、四階にいるはず。
四階は一人でいるにはいい場所だから。
「何しようとしてるんスか」
「……友達だからね」
僕は水瀬に「じゃ、またあとで」と言って四階に向かう。
「……やっぱりここだったね、夏元さん」
僕の声に彼女は肩をビクリと震わせた。
「燿、くん」
「……ごめんね。自分でも酷い人間だっては思うけど。僕はさ、夏元さんと友達でいたいんだよ」
でも。
「僕のこと嫌いになったんだったら」
無理にとは言わない。
「ならないよ……っ。なれないんだよ」
夏元は涙を溢れさせる。
「……ずっと、まだ。燿くんの、こと……好き、だから。だからっ」
僕は。
「……君を一人にしないって言った」
約束を持ち出した。
「僕は夏元さんの想いには応えられないけど。それでも友達として、これからと一緒にいてほしい」
我ながら言ってることが酷いとは思うよ。
「ボク……燿くんのこと、諦めてないよ」
「大丈夫だよ」
「だから……もっと好きになっちゃうかもだよ。これから、もっと」
「……うん」
僕が応えられないだけで、僕は僕を好きでいる夏元を否定したいんじゃない。
「ほら、冬野さんのとこ戻ろう」
「……うん」
夏元も顔を袖で拭って僕の後を付いて、階段を降りる。




