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第72話 後悔はなくとも


 去年とは何もかもが違ってる。

 いや、一人になっちゃったのは同じなんだけど。

 それでも違うと思う。花火が打ち上がるタイミングで一人になっちゃったし。

 

「……水瀬さんの方は」

 

 どうなったんだろう。

 無事に冬野が見つけられたならいいんだけど。僕はスマホを取り出して『大丈夫?』と水瀬にメッセージを送る。

 

「平坂くん、もしかして一人なのかしら?」

 

 僕は声のした方に身体を向ける。

 

「秋山さん」

 

 スマホをポケットに戻す。

 

「あはは……たまたま一人になっちゃってね」

「冬野さんは?」

「いやぁ、ちょっとね」

「なら、夏元さんは?」

「……ちょっと、ね」

 

 秋山は「そう」と呟く。

 さすがに夏元に告白されたなんて話も、僕がそれを振ったなんて話もしたいとはならない。

 

「迷子になったわけではないのね」

「……そう、だね」

 

 そこも去年と違うわけだ。

 ここで待ってても、去年と同じにはならないってのは分かってる。夏元はたぶん戻ってこないだろうから。

 

「あ、水瀬さんからだ」

 

 メッセージには『美月センパイ、今日は帰るそうです』と。僕は『水瀬さんもコンビニまで戻ってこなくて大丈夫だよ』と送る。

 

「…………」

 

 今日は僕ももう帰ろうかな。

 

「ごめんね。秋山さん……夏休み明けもよろしく」

「もう帰るの?」

「うん」

「残念ね。話し相手見つけたと思ったのに」

「何話すのさ」

「くだらない話でもいいのよ。ほら、玉こんにゃく分けてあげるから。どうかしら」

 

 秋山が串を僕に差し出してくる。

 

「……去年は貰えなかったと思ったけど」

「気分の問題よ」

「なら、気分が変わらない内に……ありがたくいただきます」

 

 僕は串を受け取って、さっそく一口食べる。

 

「おいしいね」


 僕は空を見上げる。


「そうね」

 

 花火はまだ上がってる。


「おでんとはちょっと違うかな」

「そうよね。でもこれはこれで悪くないわよ」


 なんて、こんにゃくの味の感想を少し言い合って。

 

「────あれ、平坂? それに秋山か?」

 

 カップルも来てたか。

 

「秋山さんと一緒に来てたんですか?」

「違うよ。たまたまだよ。たまたま、ここで会ったんだ……ふぅ」

 

 食べ終わったし。

 

「ごちそうさま。僕、そろそろ帰るよ」

 

 それから「また学校で」と言って三人と別れる。夜道、スマホを見る。メッセージには水瀬からのが一つ。

 

『ありがとうございました。燿センパイ』

 

 すぐに電源を落として、ポケットに突っ込んだ。




* * *




 後悔しないと思った。

 

「…………ああ」

 

 焦ってたんだ。

 後悔は、してない。でも。

 でも……こんなのは見せれないから。

 お祭りの賑わいから抜け出して。

 

「…………」

 

 遠くに花火の音が聞こえる。

 もう周りには誰もいない。

 

「うぁっ…………ゔぅ、っす。うぐっ」

 

 涙が溢れた。

 止まらない。止めれない。

 ボクの意思なんか無視して出てくる。

 浴衣の袖で涙を拭いながら家に向かって歩く。


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