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第69話 僕だけが知っている

 

 海に行ってからしばらく。

 いつも通りの夏休みを過ごして、今日も気がつけば夜であったとさ。


「ふー……」


 僕はベッドに倒れ込む。

 大丈夫、夏休みは長いさ。

 明日があるよ。明日もあるよ。

 まだ焦る時じゃないよ。ちゃんと時が来れば僕だってね。今はまだその時ではないのだよ。

 そんな今は午後十時過ぎ。


「どっこいせー」


 仰向けに体勢を変える。ベッドに横になってるけど寝る気はまだない。ふふっ、夜はこれからさ。

 スマホをいじってるとメッセージが。

 

「あり……? あ、秋山さんだ」

 

 内容は『この前、付き合ってくれるって言ってたわよね』とのこと。

 

「…………」

 

 僕は『いつのまに恋人に? 僕、告白されましたっけ?』と送り返す。すぐに返信が来た。

 

『遊びよ遊び』

『僕との関係は遊びだってこと?』

 

 あ、既読ついた。

 

『その遊びじゃないわ』

『分かってるって』

 

 僕は体勢を変えてうつ伏せになる。

 

『それでもしかして遊びの誘い?』

『もしかしなくても最初からそう言ってるでしょ?』

 

 今日のトーク履歴を見直す。

 うん。

 たしかにそうかも。

 

『私、次の月曜日暇だから。遊びに行きましょう』

『え? 僕の予定は?』

『どうせ暇でしょ? 夏祭りもまだだし』

 

 ふっ、秋山はよく分かってるね。

 それに冬野たちとの約束も海とお祭り以外は今のところ特にないからね。

 

『秋山さんのおっしゃるとおり、暇ですよーだ』

 

 そう送ってから続けて。

 

『それでどこに遊びに行くんでしょうか?』

『平坂くん。身体動かすのって好きかしら?』

 

 それから少しして写真とかサイトのURLとかが送られてきた。

 ほうほう、スポーツアスレチックだね。

 

『いいね。僕も身体動かすのは得意だし、嫌いじゃないよ』

『ならよかったわ。適度な運動は精神的にも健康的にもいいもの』

 

 それにしても。

 

『秋山さん。仕事で忙しいのに行き先とか考えてくれたんだ』

『私から言ったんだもの。それくらい考えるわよ』

『ありがとうね』

『それ、私のセリフよ?』

 

 そうかもね。


『ありがとう、平坂くん。私の行きたいところに付き合ってもらって』

『まだ行ってないけどね? とりあえず、どういたしまして』

『それじゃ月曜、よろしくね』

 

 それから『駅に午前九時集合でいいかしら?』と集合時間と場所についても提案してきた。

 

『了解です』


 僕が他に誰か呼んだりするかを確認すると『呼ばないわよ』と短く。


『秋山旭の正体はあなただけが知ってるのよ?』


 そうですね。


『くれぐれも寝坊して遅刻しないように。これは私の貴重な一日なのよ』

『うん。当然だよ』


 僕はそういうのはちゃんとするんだから。


『平坂くん。寝坊したら』

『寝坊したら?』

 

 秋山からのメッセージが止まった。

 あれ、寝落ち?

 

『大丈夫? 秋山さん?』

 

 既読はつく。

 でもアプリ開いたまま寝落ちした可能性もあるし。なんて数分待ってれば『ごめんなさい』と送られてきた。


『ちょっと考えたのだけど特に思いつかなかったわね』

 

 なんだ、思いつかなかっただけか。

 

『もう。寝ちゃったかと思ったよ』

『私にそんな特技はないわよ』

 

 そんな早くは寝れないか。

 

『でも眠くなってきたわね。明日も仕事だしそろそろ寝るわ』

 

 僕はスマホに表示されてる時刻を確認する。

 わ、十一時なるところだ。

 

『おつかれさまです』

『ありがとう』

『ぜひ、秋谷凛の出てる作品を見させていただきます』

『お願いするわ、平坂くん』

『任されました。じゃあ、おやすみ、秋山さん。ゆっくり休んでよ』

 

 これ以上にメッセージを送っても秋山が困るだろうし、ここら辺で。

 

『ええ、おやすみ、平坂くん』

 

 今日のメッセージはこれで終わり。

 僕はベッドから起き上がって、部屋の電気を消した。




* * *




 あっという間に月曜日がやってきた。

 昨晩『明日よ、明日』と確認のメッセージが届きました。しっかりアラームをかけて、寝坊も遅刻もしてません。

 僕が駅に着くと、動きやすいような長袖の白いパーカーに黒のパンツスタイルの秋山が待ってた。

 

「時間通りよ。私もあなたも」

 

 それから「おはよう」と僕に挨拶をくれる。

 

「おはよ、秋山さん」


 そうだ。


「昨日はメッセージありがとうございました」

「ええ。大丈夫だとは思ったけど、念の為ね。それじゃ行きましょ、平坂くん」

 

 そう言って秋山は歩き出した。


「イエッサーっ」


 僕らはさっそくホームに向かう。


「いやぁ、楽しみだね」

「そうね。平坂くんの必死な姿を見させてもらうのが待ち遠しいわ」

「そういう楽しみ方もありかぁ」


 少しして電車が到着した。

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