第68話 海からの電車
海からの帰りの電車。
僕たちは仲良く並んで座ってる。
左から水瀬、夏元、冬野、僕の順に。
「……癒されますなぁ、この光景」
海ではしゃいで疲れたのか僕以外はみんな寝ちゃってるし。こうなると、僕だけは寝るわけにもいかないよね。乗り過ごしたら大変だもん。
「あら、視姦かしら?」
とある駅で停まったタイミングで乗り込んできた同い年の女性客が僕に一言。
「いやいや。僕の曇りなき純粋な目を見てほしい」
「寝ている女の子にそんな欲望に満ちた目を向けるなんて。まさか、寝ているからこそってことかしら? 視姦と睡眠姦のコンボかしら?」
「失礼な。僕はどこまでもピュアなのに」
可愛いものを可愛いと思えるほどのピュアな心の持ち主な僕にそんなことを言うなんて。
「それで……秋山さんは仕事帰りかな?」
僕の右隣に秋山が腰を下ろした。
「ええ。ふわぁ…………」
あくびは僕に見えないように掌で覆い隠される。
「今日もお疲れ様、秋山さん」
僕が労うと「ありがとう」と秋山が微笑んだ。
「そっちはどうなの?」
「僕らは遊び帰りだよ。海に行ってきたんだ」
秋山は「へぇ、楽しそうね。なにより相変わらずの贅沢三昧みたいね」と僕の左隣にいる三人を眺めて言う。
「あはは」
「贅沢は敵よ?」
「秋山さんはいつの時代の人間なのさ」
「私はどんな時代のどんな人間にもなれるのよ」
さすがは女優だ。
言葉の説得力が違いますなぁ。
「なら現代のいつも通りの秋山さんになってほしいね」
ジェネレーションギャップ感じたくないから。
「私もそれが気楽だわ。できれば眼鏡も外してしまいたいけど」
眼鏡だって変装だろうから、心も体も休まるのは部屋くらいなのかも。
「……秋山さん」
「どうしたかしら?」
「疲れてるよね。ほら、寝てもいいよ」
「いえ、遠慮するわ」
「そう? 駅に着いたら起こしてあげるのに」
「だって平坂くん……海臭いのよ」
「ひどっ……!?」
そりゃ海で遊んできたけどね!
「もし、僕が海臭くなかったらよかった?」
「さあね、どうかしら」
秋山はクスクスと笑う。
「それで……海、どうだったかしら?」
「そうだね」
そりゃあ、決まってる。
「楽しかったよ」
秋山の言う通り贅沢三昧だったんだから。楽しくないわけないんだよね。
「そう。それだけ海のにおいがするなら泳いだのよね?」
「ん? そうだね。せっかく海に行ったんだもん。ばっちり泳いできましたとも」
「水着、どうだったかしら?」
「……似合ってたよ、みんな」
夏元のは見れなかったけど。でもそれはそれで良いんだよ。
「平坂くんも?」
「そうそう。冬野さんに褒められたから」
僕も似合ってたってさ。
「へぇ……私も見てみたかったわね」
「そう?」
「ええ。見たいわね、平坂くんのワンピース水着」
僕はそんなの着てないぞ!?
「僕が着たのは一般的な男性用の水着だからね? ワンピースじゃないよ」
「本当にそうだったかしら?」
「な、なんだって……?」
「その記憶、本物かしら?」
そんなバカな……僕のこの記憶が偽物だって? そんなはず……そんなはずないよ!
「まあ、冗談は程々にしましょうか」
そうだね。僕の記憶は間違いないんだから。
「ともかく……秋山さんの水着は見てみたいね、ぜひ」
秋山、プール授業でも水着着ないんだもん。
「私の水着が見たい?」
「うん」
「なら、事務所を通しなさい」
「えー……友達なのに」
水着を見るのにそんな手続きが必要だなんて。
「ふふ」
秋山が笑った。
「……ねえ、平坂くん」
「うん?」
「私が誘っても、あなたは一緒に遊びに行ってくれるかしら?」
秋山が遊びに……?
「全然いいよ」
「あら? そう?」
「それにしてもどうして?」
「あなたたちが海に行ったって聞いて、私もどこかに遊びに行きたくなったのよ」
「なるほど……羨ましいんですね」
「あら、何よ? 悪いかしら?」
「いえいえ。滅相もないです」
どこに行くか決まってるか聞いてみれば「決まったら教えるわ」とのこと。楽しみに待ってます。
「────そろそろ冬野さんたち起こしてあげたら?」
電車に揺られることしばらく。
「そうだね」
とりあえず初めに隣に座ってる冬野を起こす。
「ほら、起きて。冬野さん」
「んぅ……燿? おはよ……?」
冬野は目を擦る。
かわいいなぁ、冬野はもう。
「おはよ、冬野さん。そろそろ着くよ」
「うん……起きてたの? ごめん」
「大丈夫だよ。暇はしなかったから」
僕はチラッと秋山を見る。冬野も気がついたらしい。
「旭もいたんだ」
「ええ。私も出かけてて、今帰りだったのよ。他の二人も起こしてあげたら? 冬野さん」
「うん」
冬野は夏元と水瀬を起こした。
「……おはようございますっス、美月センパイ」
「おはよ……美月さん」
五人で電車を降りて、駅を出る。
薄暗い中を僕らは帰る。




