第65話 冬野魁星は邪魔をしない
期末テストも終わり、終業式の日の放課後。現在は真っ昼間。そして僕は一人である。
夏元とも冬野とも別れた後なのである。
「や、平坂くん」
そんな僕の前に魁星さんがふたたび姿を見せた。
「……どうしたんですか?」
「そろそろ夏休みだろ?」
「何で把握してるんですかね」
「オレ、美月のお兄ちゃんだよ?」
うーん、そう言われると納得するしかない。
「一応平日ですよ? お仕事はどうされたんです? あれ、それとも大学生でしたかね?」
「社会人だよ。今日は休みを取ったんだ。私用のためってね」
有休取るときによく使う理由だ。便利だよね、私用のためって。とりあえずこれで大体なんとかなるんだもん。
「なるほど……魁星さんがここにいるのはいいんですけど。それで、冬野さ……美月さんには会わないんですか?」
「……ま、その代わりに君に会いにきたんだよ」
その代わり?
「はい……?」
いろいろ分からなくて、僕が首を傾げると魁星さんが「まあ、こんな暑いトコで話すのもなんだし……どっか入ろうか」と提案してくる。
「どう?」
たしかに暑いな。
「そうですね。なら、どこ行きましょうか?」
僕もここで立ち話とかよりだったら冷房効いてる場所に入って話をしたいです。
「────ほぅら、平坂くん。何でも好きなの頼みたまえよ」
テーブルに立てかけられてるメニューを手に取る。
「わぁい! 魁星さん、イッケメーン!」
「はっはっは」
なに頼もっかなぁ。
「えーと……それじゃあ、クリームソーダですかね」
「それだけ? オレ、カレー頼むけど。平坂くんはお昼いらないの?」
「頼んでいいんですか?」
「いいよいいよ。気にしないでいいんだよ」
「なら、僕も……カレー、に」
あ、オムライスもあるじゃんか。
「いや。やっぱりオムライスお願いします」
「オムライスかぁ。オレにも一口もらえる?」
「いいですけど、僕もカレー貰いますよ?」
「オッケー。あ、すみませーん!」
魁星さんが慣れたように僕の分も注文する。その後で僕に目を向けてくる。他にまだ注文するかの確認だろう。
「大丈夫です」
「あ、じゃあ以上で」
店員さんが復唱してから戻って行った。
「それで僕に会いたかったのって、なんでなんですか?」
僕は魁星さんを見つめる。
「本当はオレだって美月に会いたいよ? でもオレが美月に会いに行っても、困るだろうし。なら美月の友達の君に話を聞けばいいって思ったんだ。どう? 名案だろ?」
「……僕に話聞いた後はどうするんですか?」
「……母さんたちに報告ってことにはなるかな。それだと平坂くんは心配かな?」
魁星さんは「ちゃんとうまく伝えとく」と付け足した。
「ま……そんなわけだから、美月とは直接会わない。平坂くん、オレに今後も美月の情報を流してくれ」
なるほど。
「僕にストーカーの共犯になれと……」
最近、ストーカー味あふれる人多すぎないかな?
「人聞きの悪いことを言わないでくれるかな……! それにオレは美月のお兄ちゃんだぞ! 断じて犯罪者じゃない!」
過ぎたるはなんとやらと言いますからね。
「まあ、それは冗談として……魁星さんがそれでいいなら……まあ。でも僕の見たままになっちゃいますよ?」
魁星さんは「いいんだよ」と頷く。
「お待たせしました」
注文のカレーライスが到着する。
その後にオムライスが来た。
「僕のも来ましたね」
「それじゃいただこうか」
それから食べてると、クリームソーダと魁星さんの頼んでたコーヒーも。
オムライスを食べ終えて、僕はクリームソーダをストローで啜る。
「────いやぁ、おいしかった。それと美月のいろんな話聞けてよかったよ」
食事中、僕らの間で盛り上がるのなんて冬野の話くらいだ。だって、お互いにできる話がそれくらいしかないし。
「ごちそうさまです、魁星さん」
「うん?」
え? なんで不思議そうな顔するの?
「うん?」
「え? オレ、奢るって言ったっけ?」
「は?」
「自由に頼んでいいっては言ったけど」
「え…………?」
嘘、だろ。
待って待って、待ってくださいよ。
そんな。
「なんてこと。あんな思わせぶりな態度を取って……僕の純情を弄ぶなんて」
「いやいや冗談だよ。ここは奢ってあげるよ。美月と仲良くしてるみたいだし、これはそのお礼だって」
なんだぁ、そっかぁ。
「別に払えないことはないですけど、ちょっと裏切られた気分になりましたよ」
僕にはまだゴールデンウィークのバイト代が残ってるからね。
「ごめんごめん」
魁星さんが笑いながらに謝罪を口にする。
単なる悪ふざけだったんだと思う。
それから会計を終えて、僕らは店の外に出る。
「ありがとうございました、魁星さん」
それと。
「お願いしますね」
これできっとわかってくれる。
「こちらこそ、よろしくお願いするよ。平坂くん」
それもきっと同じなんだろう。
「それじゃ、魁星さん」
「あ、ちょっと」
一応、連絡先を交換しようと別れ際に魁星さんが言ってきた。




