第63話 冬野魁星という兄
体育祭が終わった。
冬野とも別れ、一人帰り道を歩く。
僕の目の先。
「…………え?」
ニコニコと笑ってる魁星さんが立ってる。しかもこっちに向けて手を振ってる。後ろ……うん、誰もいないね。
「君だよ、君」
あ、やっぱり?
「……僕、ですか?」
僕が自分を指差しながら尋ねると、魁星さんがこくこくと首を縦に振った。
「そ。話してみたくなったんだよ、君と」
立ち止まった僕に魁星さんが近づいてくる。
「美月の友達なんだろ?」
「あ、はい」
借り物競走の時にそう言って、魁星さんと一緒にいた冬野のこと連れてったね。
友達ってのは間違いないけど。冬野もそう思ってくれてるから。
「そうだ。ごめんごめん、自己紹介してなかったね。オレは冬野魁星、美月のお兄ちゃんだ。よろしくね」
うーん。
……あんまり知らないんだよなぁ、この人。
というのも、魁星さんってストーリーにそこまで関わってきてなかったから。
僕が知ってるのって出来のいい冬野の……。
「……お兄さん」
ってことくらいだ。
「君にそう呼ばれる筋合いはない!」
「あ、すみません」
「あはは、いいよ。別に」
なんて言ってから「ただ、一回くらい言ってみたかっただけだから」と。
それから咳払い。
「……それで、早速なんだけど美月は学園だとどう? 元気にやってる?」
「元気ですよ。クラスにもそれなりに友達いますし」
僕とか、夏元とか、秋山とか、春木とか、周防とか。
「楽しそうに過ごしてます」
「楽しそうに……そっか。そっかそっか……それが聞けてよかったよ。それじゃ」
そう言ってから、魁星さんは僕に背中を向けた。
「え? それだけ、ですか?」
ずいぶんあっさりと終わった。
もうちょっとなんかあると思った。
「ん? 君はオレともっと語りたいことあるの?」
顔だけを向けて聞いてくる。
魁星さんと語りたいこと……?
いきなりそう言われてもなぁ。
「いや、特にないですけど」
「ないのかよ!」
魁星さんは体を完全にこっちに向け直して、オーバーなツッコミを入れてきた。
「あー……でも、確かにそうだよなぁ。いくら友達の兄でも初対面だもんなぁ」
魁星さんが腕を組んでつぶやく。
「……とにかく、美月のことよろしく頼んだよ」
優しさを感じる声で魁星さんが言う。
「言われなくたって仲良くしますよ。冬野……美月さんと僕、友達なんで」
僕の返答を聞いてから。
「……オレも、仲良くしたいんだけどね。なかなか上手くいかないもんさ。それにオレは邪魔者みたいだ」
魁星さんは肩を竦めて、ため息を吐き出した。
「邪魔者、ですか?」
魁星さんは考えるような顔をして。
「そう。だって、ほら……オレがいると美月は気にするだろうから」
ああ、たしかに。
「……ともかく、いろいろとありがとう。君、名前は?」
「平坂です。あ、悪用しないでくださいね?」
「しないよ!? オレ、別に犯罪者とかじゃないからね?」
ならいいんだけど。
「────じゃあね、平坂くん。オレは君を信じるよ」
そう言って魁星さんは去っていった。




