第62話 二年の体育祭
テストも終わって、あっという間に六月。
体育祭当日。
競技も順調に進んで。
「平坂、借り物競争頑張れよ」
「頑張るって話なの?」
なかなか運要素強めじゃない? アレ。
「とんでもないのが来ないといいなぁ」
無茶振りとかされるとね。
僕はゴールできずに時間まで彷徨うことになるかもしれない。
「そこらへんはほらコンプラとかあるし、大丈夫だろ」
そこらへんもある程度は意識するよね。
「……そういえば、去年は周防くんに助けられたんだったね」
「助けられた? 俺、何かやったか?」
「危うく春木さんにチアコス着させられそうになってね」
「……何やってんだ、去年の俺!」
おい、それはおかしいだろ。
そんな悔しがるなよ。魂の叫びみたいなレベルの悔しがり方するなよな。
「────いいんですよ、暦くん。人は反省を糧にして次に繋げるのです」
慈母のような顔をした春木が話に入ってきた。
「あの日があったから学園祭があったんです」
反省を活かしたみたいないい感じのこと言ってる風で、その中身はだいぶひどくないかな?
「里菜……」
「それに暦くん。今はまだその時ではありません」
だから黒幕っぽいんだよ、春木さんや。
実質、僕にとってはそうなんだけどね?
『借り物競争に出場する────────』
ああ、時間だ。
「とりあえず二人とも行ってくるよ」
借り物競争も始まるし。
ちなみに冬野も夏元も秋山も周防も競技は終わってる。あとは僕なんだけど。
「頑張ってくださいね、私たちも協力しますから」
それはありがたいね。
「頼る時は頼らせてもらいますわ」
僕は二人に右手を軽く振って、受付に向かう。
「あれ、燿センパイも借り物競争っスか?」
「水瀬さんも?」
「はい。あたしはなんでもよかったんスけどね。余ったんで」
水瀬は僕に一つ提案してきた。
「一緒にゴールしましょうよ」
「長距離走みたいなのを借り物競争で言うことある? しかも最後に大体裏切るやつだよね?」
「燿センパイはあたしのこと信じてくれないんですか?」
「水瀬さんのこと、信じてもいいの?」
僕が尋ね返せば。
「…………え、いやぁ。そのですね」
視線を逸らして口籠る。
「言い切ってよ……!」
水瀬は息を吐いて、僕を見つめる。
「ふぅ……燿センパイ。真剣にやりましょう、お互い」
……そうだね。
「わかったよ」
勝ち負けとか別になんだっていいんだけどね、僕としては。
「────よーい!」
借り物競走のスタートを知らせるピストルの音が響いた。
「よしっ! これだ!」
何が出るかな〜……って。
「……去年の周防くんと同じじゃん」
お題は『同じクラスの異性』とな。
冬野か、夏元か、秋山か、春木か。
うん。
「春木さんはちょっと……」
協力してくれるっても躊躇うや。
彼氏の周防に申し訳ない気がするし。
まあなんにせよ、ひとまずはクラスの方に行かないとだ。
「…………それで、付いてくるの? 水瀬さん」
いったいどんなお題引いたんだか。
「仕方ないっスよ。あたしの知ってる中で話せる人限られてるんで」
「僕ではないよね?」
「違いますよ。全然ないです」
そっか……。そこまでキッパリなんだ。こう、微妙に胸にぐさっと来るよ。
「……あ、冬野さんいた」
あれ、夏元はいないのか。
飲み物買いに行ったのかな?
「おーい、冬野さん」
僕が声をかけると、潤んだ目が僕を見つめる。
「……冬野、さん?」
どうしたんだろう。
なんで、そんな目をしてるのか。
苦しそうで、つらそうで。
「────君、美月の友達?」
それがどうしてなのかを僕はその声で理解できた。その人を目にした。どことなく冬野に似てる年上の男の人。
「はい。ちょっと、借り物競走中で。冬野……美月さん借りていきますね」
僕は冬野の手を取る。
止めることはなくて、僕たちを見送った。
冬野魁星。
この人は、冬野の兄だ。僕が振り返ってチラリと見れば、微笑みを浮かべて僕らを見つめてる。
「…………燿、ありがと」
「大丈夫だよ」
冬野の僕の右手を握る力が強くなった。
「ところで夏元さんはどうしたの?」
「トイレだって」
そうだったか。
「旭センパイ、眼鏡を……! 眼鏡だけでいいので」
あ、水瀬のお題はメガネだったか。
それは僕はあり得ないわけだ。僕、眼鏡じゃないもんな。体力がちょっと回復した気がする。
「それは無理よ」
頼みこまれてる秋山はそう答えた。
「そ、そんな……!」
「眼鏡だけというのは無理だけど、ほら一緒に行きましょう、水瀬さん」
秋山旭として必須装備の眼鏡を外せないからこそのこの判断か。
「は、はいっ!」
水瀬と秋山は僕と冬野を見つけて。
「結局一緒になったっスね」
「だね」
四人でゴールに向かう。
「秋山さん、お疲れ様」
「これくらいは応じないとね」
普通に話をしながら。
特にそこまで急ぐというわけでもなく。
そこそこの順位で借り物競走を終えて、僕たちはクラスの待機場所に戻る。
水瀬も自分のクラスのところに戻って行った。
「────あ、燿くん! 美月さん! 旭さんも!」
夏元も戻ってきてたみたいだ。
「陽毬……」
冬野は夏元を見てから、あたりを確認してほっと息を吐き出した。
「ただいま、夏元さん」
僕に続いて冬野と秋山もただいま、と告げる。




