第61話 褒め属性攻撃に弱いヒロイン
ゴールデンウィークが明けた。
「あ、あー……」
カバンを机に置いて、隣の春木を見る。なんか、むすっとしてる。
たぶんゴールデンウィークで何かあったんだろう。
「おはようございます、平坂くん」
僕の方を見て、挨拶をくれる。
「お、おはよ、春木さん」
それから春木は溜息を吐き出した。
「どうしたの?」
「…………平坂くん、知ってましたか?」
「な、なに? ゴールデンウィークの命名者とか?」
「それは私にはわかりません。関係ないですし、蘊蓄をたれたいわけじゃないです」
そうだよね。
蘊蓄たれたくて、こんな顔する人とかいないよねっ……!
「あのですね。私はゴールデンウィークに期待してたんですよ」
連休だもんね。誰かと遊ぶ約束とか入れるにはうってつけだし。
春木は「はぁー……」と今度は長いため息を吐き出して、僕を半目で見てきた。
「とりあえず座ってください」
「う、うん」
僕は言われるがままに椅子に腰を下ろす。
「隣町のお祭り」
バイトの話か。
それが今の春木とどういう関係があるんだろうか。
「……行ったらしいですね。暦くんと、後輩の女の子と。現地では冬野さんと夏元さんとも一緒に、と。女の子ばっかりじゃないですか」
「おーっと? 落ち着いて、春木さん。ちゃんと事実を確かめよう。お互いの認識をすり合わせよ、ね?」
認知が歪んでない?
「────それで平坂くん、私に何を聞かせてくれるんですか? 弁明ですか? 釈明ですか? 懇願ですか?」
机に肘をついて、顔の前で両手を組む。
「……まず、僕らは確かに隣町のお祭りに行った。メンバーは確かに僕と周防くんと、後輩の水瀬さんだったよ」
そこは間違ってない。
「でも、それはお遊びとかじゃなくて……」
「遊びではない? では真剣にお付き合いしているということですか?」
「いやいや、恋人的なお付き合いはしてないよ……ほら、僕たちバイトしに行ったんだから」
「バイトという名目でデートをしていた可能性も…………」
「大丈夫! その辺りは大丈夫だから! 周防くんのことはずっと見てたし」
周防にそんな余裕はなかったと思う。
「ずっと……」
顔の前で組んでいた春木の手が解けて、右手は顎先に。
「それはつまり、平坂くんが暦くんとデートをしていたという確たる証拠では……?」
「春木さんは何を言ってるのかなぁ!?」
なんで僕が周防とデートしなきゃならないのか。
「僕と周防くんは単なる友達だよ!」
デートとかする間柄じゃないです。
そして僕も周防も恋愛対象は女性なので、そんなことにはならないです。
「知ってますよ? むしろ平坂くんの今の言い方で怪しくなったんですが」
「特に含みとかはないからね?」
「わかってます。暦くんが浮気してないこともわかってます」
「うぅんっ!」
知ってたんだったら、今までの全部茶番だよね!?
「それはさておいて……」
「もう良いんだ」
「はい。でも欲を言うと、私もそのお祭り行きたかったですね。そのあたりはちゃんと不満ですよ」
「あ、不満は不満だったのね」
「当たり前です」
でも、周防もバイトで春木と一緒にいられるってわけでもないからね。誘うわけにもいかなかったろうし。
「あとで暦くんに埋め合わせはしてもらいます。ゴールデンウィークに私という大切な彼女を放置したので」
「あはは……うん、それはぜひしてもらうといいよ。たぶん周防くんも喜んでやると思うよ?」
バイト代も入ったことだし。
活動範囲とか広がったりするんじゃないかな。
「まあ、でもテスト終わってからですね」
「あ、そっか。テストもそろそろだったね」
秋山にいつも通り、範囲のノートを送ってあげないと、かな。
今夜にでも伝えておこうかな。
* * *
『こんばんは』
夜分、秋山にメッセージを送る。
『どうしたのかしら?』
『そろそろテストだから、いつも通りにノートの写真を送ろうと思って』
途端、電話がかかってきた。
秋山から電話って、今まであったっけ?
なかった気がする。
「はい、もしもし? 秋山さん?」
『平坂くん。ありがとうなのだけど、ありがとうなのだけどね』
あれ? タイミング悪かったかな?
『はぁ……仕事があって疲れてるのよ。テストのこととか忘れたかったわ』
「僕は忘れてたけど」
今日の朝まで。
『もう……』
しばらく、秋山が黙り込む。
「秋山さん?」
『もう、褒めて欲しいものだわ。私、こんなに頑張ってるんだから』
揺れるような声。疲れが溜まり込んでるのがよくわかる。
よし、秋山が望むのなら。
「そうだよ。秋山さんはすごいよ。すごい頑張ってるよ」
『あら? ……ふふふ。ありがとうね、平坂くん。できれば……もっと、こう具体的に褒めてほしいわね』
「秋山さんは仕事もしながら、学園生活も一生懸命で。それに、いろんなことできてカッコいいよ!」
『ああ、ダメね……褒められすぎて死んじゃいそう』
「え!? こ、これで?」
全然まだまだ褒めれてない気がするのに。
これで秋山は褒め殺せちゃうの?
『……変なこと言ったわね。はあ、もう疲れてるのよ。寝言でも聞いたと思ってほしいわ』
「……秋山さん。無理しすぎないようにね」
『それ、前にも平坂くんから聞いたわね』
秋山は『ノートの写真はありがたくいただくわ。それじゃ、おやすみ』と。
「お疲れ様、秋山さん。ゆっくりおやすみ」
そして通話が切れる。




