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第60話 恋愛対象外

 

「周防くん、お疲れ様」

「暦センパイ、お疲れ様っス」

 

 午後五時半を回った。

 バイトが終わった。周防と水瀬と二日間に渡るバイトの終了を労りあう。

 

「おう、平坂、水瀬。お疲れ」

 

 お祭りも終わったことだし、特にすることもないから帰りましょうね。

 僕はバイトが終わった旨を僕と冬野と夏元のグループに送信する。それからバス停に向かうとも。すぐに既読がついて『了解』と冬野から返ってきた。

 

「────三人ともお疲れ」

 

 バス停に着くと、先にバス停にいた冬野が僕らにそう言う。夏元も「お疲れ、みんな」と。

 

「お疲れ様、冬野さん、夏元さん」

 

 僕に続いて周防も「お疲れ」と口にする。

 

「お疲れ様っス」

 

 水瀬も二人にそう挨拶する。

 

「蓮ちゃん、お疲れ」

「……陽毬センパイ」

 

 僕は水瀬の背中を軽く叩く。

 

「燿センパイ……うっス」

 

 なんてやってるとバスが来たみたいだ。

 

「ほら、乗るぞー?」

 

 周防がそう言って、先に乗り込んだ。

 さて、ここで問題になるのはどう座るかだ。僕としては水瀬と夏元にはちゃんと話してほしいから隣で座ってほしい。

 水瀬と目が合う。

 それで水瀬もそうするべきだと思ったのか。夏元に「隣、いいすか?」と誘って、了承を貰ってた。

 

「燿、隣いい?」

「もちろんさ!」

 

 よし一人で座ってくれ、周防。

 座席は二人ずつだからね。


「俺一人か……まあ、しかたないよな」


 いや、すまないね。でも彼女持ちの君を女子の隣に置くのも、春木への裏切りになりかねないから。

 それに唯一、周防の隣に座ってもいいだろう僕も冬野に誘われちゃったし。わざわざそれで周防の隣は行かないよ、僕は。

 

「燿」


 バス停から発車して、五分ほど。

 冬野が僕に話しかけてくる。


「うん?」

「…………燿って好きな人いるの? 恋愛的な意味で」

「え? どうして?」

「あの子が燿と付き合えてないって言ってたから。他にいるのかなって」

 

 あー……。

 うーん、どう言えばいいんだろ?

 

「むむむ…………」

 

 待ってよ。これ、なかなか難しいね。

 

「好みの問題?」

「…………まあ……恋愛対象じゃないってだけなんだけどね?」

 

 冬野が納得してくれるなら、これでいいかな。まあ、それなりに事情もあるんだけど。それをしっかりとは説明できる気がしない。

 

「ねえ……燿って恋人作る予定ある?」

「うん? ……今のところはないですかね」

「そっか」

 

 冬野がちょっと嬉しそうに頬を緩める。

 

「燿に彼女できたら、夏に一緒に海に行けなくなるかもだから」

「あー……そうだね」


 彼女持ち(それ)で他の女の子と海行くのはまずいよね。


「……って、そういえばまだ夏元さん誘ってない?」

「あ、そうだった」

 

 冬野は前の席にいる夏元に声をかけようとして少し身を乗り出す。

 

「陽毬、と…………」

「水瀬蓮っス」

「わたし、冬野美月」

「よろしくお願いしますっス、美月センパイ」

「うん、よろしく。それで……蓮。今、わたし陽毬と話しても大丈夫?」

「あ、大丈夫っス。全然いいっスよ」


 水瀬の許可を得てから、冬野は改めて「陽毬」と名前を呼ぶ。


「どうしたの? 美月さん?」

「夏休み、海行かない?」

「う、海?」

 

 夏元の唸る声が聞こえた。

 

「海。行きましょうよ、陽毬センパイ!」

「で、でも……蓮ちゃん」

「行くっスよ、陽毬センパイ。もったいないっス」

「う、ううっ」

「で、一応確認なんスけど……それって誰が来るんすか?」


 水瀬が冬野に聞く。


「燿とわたし」

 

 悩んでるところに「それで陽毬は来ないの?」と聞かれて、夏元は意を決したように。

 

「……ボ、ボクも行く!」

 

 そう宣言した。




* * *



 

 家に着いて、僕は水瀬に電話をかける。バスの中ではなんとかなったように見えたけど。午後十時、正直出てくれるかはわからない。

 

「あ、もしもし? 水瀬さん?」

『はいっスー。こんばんは、燿センパイ』

「夜遅くにごめんね」

『全然いいっスよ。どうせ明日もまだ休みですし』


 水瀬の笑い声が聞こえる。


『それでどうしました?』

「えーと……水瀬さん、夏元さんとは大丈夫だったの?」

『はい』

「そっか。良かったよ」

『……バスの中で陽毬センパイ盛り上がっちゃって』

「そうなの?」


 声はそんなに大きくなかったけど。

 内容に関しても僕も冬野と話してて、そこまで意識いってなかったからなぁ。


『あたし、燿センパイには全然興味ないって言ったんスよ。別に好きじゃないって』

「……ゔっ!?」

 

 今、胸が痛くなったよ?

 ドスって鋭い何かが突き刺さったような気がするんだけど。


『あ。そうは言っても、燿センパイのこと嫌いじゃないっスよ』


 水瀬、フォローありがとう。嬉しい……よ?

 

『まあ……そしたら陽毬センパイってば、たっぷりと燿センパイの魅力を語りはじめちゃいまして』

 

 それって僕が知っちゃいけない話な気がするなぁ。

 

『その話も美月センパイから海に行くって話されて中断になったんスけど』

 

 ああ、あれね。

 

『で、そのあと一緒に買い物行くって話になったんスよ』

「買い物って、もしかして水着買うって話?」

『はい』

「あんまり夏元さんに無理させないでね?」

 

 露出度高い服とか着れないんだから。

 海行くって決めたのもだいぶ勇気必要だっただろうし。

 

『分かってます。ラッシュガードもちゃんと用意するっスよ。そのことも陽毬センパイにはちゃんと説明したっス。それなら大丈夫そうかも、って言ってましたよ』

「おおっ、水瀬さんはなんてできた後輩なんだろう。うんうん、それなら大丈夫かな」

『はい。安心して任せてくださいよ。それに、燿センパイに言われたんで』


 言ってやったみたいな声。


『陽毬センパイのことちゃんと考えますよ』


 そして水瀬が笑う。

 

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