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第59話 水瀬蓮のポリシー


「燿くん、探したよ〜!」

「あ、いらっしゃい夏元さん。冬野さんも」

 

 二人とも言った通り来たね。

 お祭りっても、今日はさすがに浴衣じゃないか。

 

「燿、おすすめは?」

「おすすめって言われても、飲み物売ってるだけだからね?」

 

 特にオリジナリティあふれるのは取り扱ってないんですよ。

 

「ま、喉渇いてるならここでなんか買ってってよ、二人とも」

 

 冬野は売ってる飲み物を確かめる。

 

「あれ? そういえば暦くんもいるんだっけ?」

「ここじゃないけどね」

 

 一応はバイトで一緒に来てるから。

 

「じゃあ、暦くんも探してみよっかな」

「ヒントとかいる?」


 夏元は首を横に振って「ううん、大丈夫」と答える。


「まあ、案外すぐ見つかるかもだね」

 

 僕も見つけられたんだし。

 

「そうかもね。……あ、そうだ」


 うん?


「燿くん、終わったら一緒に帰ろ?」

「うん。ありがと、夏元さん、冬野さん」


 断るわけないよね。


「とにかく、楽しんでってよ」


 冬野が「燿も頑張ってね」と言ってくれる。


「うん。またあとで、冬野さん、夏元さん」


 そして、飲み物を買った二人は人混みの中に戻っていった。

 帰りも楽しみだなぁ。

 またしばらく仕事に打ち込んでると。

 

「────燿センパイ」

 

 ん?

 

「あれ、水瀬さん? 仕事は?」

「休憩中っす」

 

 僕のところに水瀬がやってきた。


「平坂さんも休憩どうぞー」 

「えーと……じゃあ、ちょっと休憩入ります」

 

 それから水瀬と一緒に祭りを回ることに。

 こうしてこの祭り回るのは今くらいしかできないよね。バイト終わるのは祭りも終わるころだから。

 

「バイト大変っスね〜」

 

 屋台の並ぶ中を水瀬と歩く。

 

「大丈夫?」

「昨日よりは、はい」

 

 うんうん、よかったよ。


「……そういえば、僕のところに来たのはどうしてなの?」

「それはセンパイのあんなことやこんなことを知りたいからっスよ」

「僕のあんなことやこんなこと……」

 

 どんなことだろ?

 

「たとえば……そっスねぇ。好きな人とかどうスか?」

「友達的な意味で?」

「そんなのわざわざ聞くと思います?」

 

 だよね。

 

「うーん……」

「いないんスか? ほら、陽毬センパイはどうなんスか?」

「……夏元さんは、僕のこと友達だって思ってくれてるから」

「…………」

 

 水瀬が無言で僕を見つめてきた。

 

「というか、そういう水瀬さんはいるの?」

「あたしは恋愛とかどうでもいいんで」

 

 えー。

 

「なんかもったいない気もするけど」

「そうですか?」

「学生の恋愛は学生の間だけだよ」

 

 制服デートとかもね。

 

「あはは、そりゃそうっすよ。でも本当にいないんスよね。よかったら紹介してくださいよ、燿センパイ」

 

 あはは、僕に紹介できる人とかいないね。

 

「ごめん、僕は水瀬さんの期待には応えられないよ」

「いや、本当に紹介されても困るっスけど」

 

 期待されてなかった!?

 そんなひどいよ、水瀬さん。


「あー……というか、燿センパイ。そろそろお腹空いてきません?」

「言われるとたしかにね」


 僕と水瀬は歩き回って、休憩を楽しむ。

 屋台に立ち寄りながら。

 

「────あれ、燿くん? それに蓮ちゃん?」

 

 夏元と冬野に出くわした。

 

「蓮ちゃんも来てたの?」

「はい! あたしも燿センパイと一緒にバイト参加してるんですよ、陽毬センパイ」

「そうなんだ……って、あれ? 燿くんと蓮ちゃんはバイト終わったの?」

 

 僕は「違うよ。休憩中なんだよ。それで一緒に回ろってね」と言うと。

 

「……そっス。デートっすよ、デート」

「んぇ?」

 

 何を……って。

 

「燿センパイと休憩がてらのデート中なんスよ」

 

 水瀬が腕を組んでくる。

 その、胸が当たってるのですが……?

 

「そう、なんだ」

「そうなんスよ。まだ燿センパイとは付き合えてないんスけど」

「蓮ちゃんは……燿くんの、どこに惹かれたの……?」

「優しさですよ。陽毬センパイ、教えてくれたじゃないスか」

「そっか……へへ、うん。納得、だね」

 

 夏元が笑みを作った。

 

「燿センパイと付き合いたいっスね、あたし」

 

 ……これ嘘吐いてる。

 

「水瀬さん」

「そろそろ休憩も終わりっスね! ほら。戻りましょ、燿センパイ」

 

 水瀬が腕を引く。


「ほら! ほらっ!」

「ちょ、ちょっと痛いんだけど!?」


 チラリと夏元と冬野を見る。けど、人混みですぐに見えなくなった。

 

「……水瀬さんねぇ」

「なんすか?」

「さっきのどう言うつもり……?」

「あ、痛かったスか?」

「それじゃないよ!? いや、ちょっと痛かったけども!」


 あと、ちょっと気持ちよ……いや、そうじゃなくて!


「…………別に、あたしが燿センパイのこと好きって言うのおかしくないっスよね?」

「水瀬さん、恋愛興味ないって言ってなかった?」

 

 それも今さっきの話だし。

 

「……水瀬さんが、夏元さんに幸せになってほしいのはわかるよ」

「……なんだ、わかってるじゃないすか」

 

 わかるよ。

 

「あたしがどうしたいのかも。陽毬センパイのことも」

 

 わかってる。

 

「それで、あんなことしたの?」

「そうです」

「……水瀬さん、やり方変えなさい」

「なんでですか? あたしは悪いことしてないっスよ」

 

 それは、まあ。


「そう、かもだけどさ……でも、水瀬さん。夏元さんとの関係保とうとしてないよね?」

「……………………」

「それで、夏元さんの気持ちがどうなるか。水瀬さんは考えた?」

 

 水瀬は少しの間を置いてから、目を見開いた。


「…………あ」


 水瀬は夏元の幸せだけを考えてる。

 たった一点の幸せだけを。

 

「……わかったっスよ」


 水瀬が呟く。

 

「……それに前も言ったけど、水瀬さん」

「はい?」


 僕は水瀬に笑顔を見せる。


「ちゃんと自分の都合も考えてよ?」

 

 スケジュールだけじゃなくて、心のこととかも含めて。

 

「燿センパイのお言葉、肝に銘じるっス」

 

 水瀬がふと微笑みを返してきた。

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