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第58話 この先のこと

 

「もしもし、冬野さん?」

 

 四月下旬、午後九時過ぎ。


『もしもし、燿?』


 食事やらいろいろと済ませて、自室で寛いでるところに冬野から電話がかかってきた。

 

『時間大丈夫?』

「全然問題ないよ。まだ九時だし。それにほら、こうやって電話出てるんだから」

『……それもそっか』

 

 また何かあったのかな?

 それともゴールデンウィークで僕と遊びに行く予定でも考えてくれたって感じかな。

 

『実は、燿にちょっと相談したいことあって』

 

 あ、どうもゴールデンウィークの予定の話って感じじゃなさそうだ。

 

「どうしたの?」

『……進路のこと』

 

 それは当然に考えなきゃならない話。

 

『やりたいこと、なくて。この先のこと考えて……不安になった』

 

 そして、僕も通った道である。

 今また通る道でもあるんだけど。


「……そっか」

『どうしたらいいかわかんない……大学に行くのがいいのか。そのまんま働いた方がいいのか。それに…………学園出たら、燿も、陽毬も────────』


 学園に入る前みたいになるって思ってしまったのか。ただ、そこに関しては自信をもって言える。


「いるよ。僕たちはちゃんといる」

 

 突然いなくなったりしない。

 僕は冬野との関係を断ち切りたいとは思ってないんだから。それは夏元も同じだろうし。

 

「会いたくなって、冬野さんが呼んでくれたら会いに行くよ。この前みたいにさ。それに電話してくれたらちゃんと出る」

 

 それでどうかな。

 

『うん……ありがとう』


 少しの静寂があってから、冬野が口を開いた。


『わたし、信じるよ。燿のこと』


 なら、僕はちゃんと応えないとね。


『だから……もし、学園卒業して。それで大人になっても……わたしと一緒にいてくれる?』

「当然だよ。僕は冬野さんと一緒にいる。ちゃんと話し相手にも、遊び相手にもなるよ」

『うん』

 

 冬野が少ししてから笑う。


「どうしたの?」

『その、もしかして……燿って暇なの?』


 そんな年中暇してるみたいな言い方されるなんて。


「失敬な。冬野さんに呼ばれたら、暇を作るんだよ」


 でもよかった。

 少しは不安が紛れたんだろうから。


『そう?』

「そうだよ。誰だって楽しい時間は作りたいでしょ? そうじゃないと苦しすぎるもん」


 誰かと関わる余裕くらいは持って生きようと思うんだ。


「だから気軽に話しかけて、遊びに呼んでよ、冬野さん。これからもさ」 

『…………うん』


 僕は冬野に呼ばれたら、会いに行く。

 

『大学行ってても、会社で働いてても燿のこと呼ぶよ』

「……仕事中とか、講義中はさすがにすぐには無理かもだけどね?」

『燿はわたしのこと、どうでもいいんだ』

「違うよ……!?」


 すぐには無理ってだけだからね?


『冗談だよ』


 あ、よかった。


『でも一緒にいてくれるって発言に、責任を持っていただかないと』

「責任、かぁ」

『うん。責任』

 

 責任取るからって勢い余って告白しちゃいそうなんだけど。

 それもできないけど。

 

「分かった約束するよ」

 

 冬野は『よろしく』と呟く。


『あ。それで進路、どうしよう……』

「あぁ……僕も全然決まってないからなぁ」

『そうなの?』

「将来の見通しは全然立ってないんだよ」


 前もそんな感じだったんだけど。


『燿も?』

「そう。だから、僕もまだまだ時間かけて悩んでくつもりだよ」

『……わたしも、もうちょっと考える』


 冬野が言う。


『今日もありがとね……燿』

「いやいや、僕もありがとうだよ。冬野さんと話せると楽しいんだから」

『わたしも燿といると楽しい。学園来てから、変わってった』

 

 きっと、今、冬野は笑ってると思う。

 

『陽毬とも友達になれた。旭とも里菜とも、暦とも。あの日のクリスマスパーティーは楽しかった』

 

 いろんな思い出が冬野の口から語られる。


『遊園地にも行ったし。今までできなかったことできるようになった』

「じゃ……今年は、これからはどうする? 冬野さん?」


 ゴールデンウィーク、バイトが入ってる日以外なら空いてますよ。


『うーん……海?』

「海」


 海かぁ。


「……海!?」


 な、なんですと!

 海だって……?


『ダメ?』

「ダメじゃないよ。大丈夫、大丈夫だよ」


 それまでにだいぶ時間あるよね。

 行くとしたら夏休みだろうし。

 あとほら、水着とか買わないと。


『陽毬も誘って、みんなで行こ』


 少し先の予定ができた。

 まだ春だっていうのに、夏の予定が。

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