第55話 夏元陽毬の後輩
「どうしたの?」
恐らくは一年生と思われる青髪の女子に声をかける。
夏元と別れ、冬野といつもの場所まで送ったあとの放課後。
僕は一人だった。
そんな僕の帰り道、キョロキョロと辺りを見回して、肩をガックリと落としてた女子がいたもんだから。
「大丈夫?」
「ピッ!?」
あ、いくら同じ制服でもいきなり声かけられたら怖いよね。
「ご、ごめんね?」
怖くなーい、怖くなーい。
「落ち着いて、ね?」
「…………あっ! 陽毬センパイと一緒にいた男の方のセンパイ!」
あれ。
知られてる……って。
「夏元さんの知り合い?」
「はい! どうもっす! あたし、水瀬蓮と言います。学園入る前は陸上部でしたっ」
となると、夏元も学園入る前の知り合いか。
「夏元さんの後輩かぁ。それでどうしたの?」
「その……ずっとタイミングを伺ってたんすけど、陽毬センパイ見失っちゃって。今日のところは諦めて帰ろうと思ったところっス」
それで元気なかったのか。
タイミングって……ああ、僕たちずっと一緒だったもんね。さすがに知り合いの先輩がいても、知らない先輩と話してるところには行きにくいもんね。
「僕のこと知ってるみたいだし、タイミング伺ってたって言ったけど……それっていつから?」
「それは……学校に着いてからですかね」
そっか。ずっと待ってたんだね。
「授業の合間とか。昼休みとか。そして放課後とかっスね」
ストーカーかな?
いや、口には出さないよ。
「それで、夏元さんに用事があったの?」
「はい、陽毬センパイに少し聞きたいことあったんスよ」
「僕から聞いておこうか?」
明日も一緒に登校するし。
と言うか、夏元の連絡先知ってるし。
僕はスマホを取り出す。
「それには及ばないっス! ちゃんと自分から聞きますんで!」
「そっか」
そう言うなら。
「でも、水瀬さんが夏元さん探してたことは伝えておくよ。夏元さんからもタイミング取りやすくなるだろうし」
「ども、ありがとうございます!」
水瀬とやらは走り去っていった。
「────見境ないのね、平坂くん」
秋山、いったいどこから。
「違うよ?」
ナンパとかじゃないんだよ?
本当だよ?
「あなたはそういう人よね」
どういう人なの、僕。
「それで、何の話をしてたのかしら?」
なに話してたかは聞こえてなかったんだ。
「えーっと……さっきの子、水瀬さんって言うらしいんだけど。水瀬さん、夏元さんと話したかったみたいなんだよね」
秋山に水瀬の事情を説明する。
「それで、まあいろいろあって。夏元さんには水瀬さんが話したがってたことを伝えておくって」
「そういうこと。何の話なのかしらね」
「僕にも詳しいことは分からないね。陸上部の後輩だって言ってた、けど…………」
あ、もしかして。
……可能性としてはだいぶあるけど。
「…………ひとまずは夏元さんに伝えなきゃだよね」
それから秋山と別れて、僕は歩きながらスマホを操作する。夏元に『水瀬さんって覚えてる?』とメッセージを送る。
『あ、蓮ちゃん!』
水瀬蓮って言ってたからあってるね。
『その水瀬さんが話したいことあるみたいだよ』
『そっか。ありがとね。あとで蓮ちゃんに話にいく』
水瀬との約束どおり、夏元には伝えといたし。これで大丈夫かな。
「部活、なんでやってないのかって話だよね」
たぶん。
その話だったら、水瀬が求める通りに本人と話す場所がいるはずだ。人伝なんかじゃ信用できない。
* * *
週明け、月曜日。
昼休み、いつも通りに三人で食べようとしてると夏元が「ごめん、ちょっと行ってくるね」と僕らに断ってから廊下に歩いてった。
「…………居るなぁ」
僕が廊下を見ると、そこには先週会った水瀬が立っていた。
夏元もそれを見つけたから、今行ったんだろう。
「ごめんごめん、お待たせ」
しばらくして夏元が戻ってくる。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ、燿くん」
冬野が「燿は知ってるの?」と聞いてくる。
「ボクも燿くんに、話したがってる子がいるって聞いたから。それで、その子はボクの知り合いだったし」
「そうだったんだ」
それよりご飯食べよ、と夏元がタッパーを開いた。
お昼にしてると、青髪が視界に入った。
「…………」
「あ、あはは」
夏元も気がついたのか、笑ってる。
水瀬が廊下にいる。
そして、あんぱんを食べてる。
もぐもぐと。
「…………?」
僕が自分を指差して首を傾げると、水瀬は目をわずかに見開いてコクコクと頷いた。
「陽毬の知り合いって、あの子?」
冬野も気がついたらしい。
「今度は燿くんだって」
みたいだね。
「冬野さん、ごちそうさまです。大変おいしかったです」
「うん、どういたしまして。いってらっしゃい」
「いってきます」
僕は席から立ち上がって、教室を出る。
「……こんにちは、水瀬さん」
「どうもです。燿、センパイであってます?」
あんぱんの他に牛乳も持ってるぞぅ。
この子、張り込みのつもりかな。
「あってるよ。そうそう自己紹介してなかったね。僕は平坂燿だよ、よろしくね」
「燿センパイ」
「うん」
「その……陽毬センパイのことは聞きました」
「部活のこと?」
「はい」
そっか。
やっぱり、それだよね。
「すみません……いろいろあったんスね」
「水瀬さんは…………」
「あたしは、まあ……そっすね。陽毬センパイがやんないなら、やんないっス」
「え? そ、そうなの?」
てっきり一緒に部活やろう的な感じだと思ってたんだけど。
「あたしは陽毬センパイが好きなんです。陽毬センパイいないならいいんです。それに自分がして欲しいからって、そういうことしようなんて思わないっスよ」
水瀬が笑う。
「燿センパイ、陽毬センパイのことありがとうございますっス」
水瀬は深々と頭を下げる。
「これからもよろしくお願いします」
そしてようやく頭を上げた。
「うん。水瀬さんもね」
「……そう、っすか。お願いしますっス、燿センパイ!」




