第54話 春に染まったんだ、彼は
二年生、春。
朝の通学路を歩いてれば、僕の後輩の姿も見受けられる。彼らとの関わりなんてのは今のところ全然ないけど。だって、同じ栄聖学園の学生の二年と一年ってだけだから。
「栄聖学園だろ? 一緒に行こうぜ」
「まあ、一人だからね」
これが友情の誕生、か。
ははっ、微笑ま。
僕にもこんな時代があったよ……つい去年のことだったね。今でも昨日のことのように思い出せる。
みんなとの出会いを。
ああ、懐かしい。
「って……微笑ましい光景だけど、早く冬野さんのとこ行かないとだ」
僕は新一年生たちの話し声から離れていく。
「おはよ、燿」
いつも通りに冬野と合流する。
「おはよ、冬野さん」
そう挨拶を交わしてから、歩き始めた。
今日から本格的に二年生になったわけではあるけど、まあ何かがそんなに変わったって感じもしない。
相変わらず、教室に行けばみんな居るし。
「二人ともおはよー!」
夏元も合流して。
「夏元さん、おはよう」
「陽毬、おはよ」
いつもの三人で学園に向かう。
「陽毬、宿題大丈夫?」
「大丈夫! 問題ないよ。ちゃんと終わらせたから」
「そっか。よかった」
宿題の話だったり。
春休みの話だったり。
そんなたわいのない話をしながら。
「────おはようございます、平坂くん」
隣の席はやっぱり春木だ。
同じクラスだし全然おかしくないよ。そりゃ、まあ。
「おはよう、春木さん」
僕は席に着く。
進級に伴って、夏元は離れてしまったけど。
「平坂くんは二年生でも変わりませんね」
「それ、春木さんも人のこと言えないよ?」
お互い全然見た目変わってないし。
それは冬野も夏元もそうなんだけど。それに秋山もだね。
「そうでしょうか?」
「そうだよ。いくつになっても見た目はいつも若々しいままだね、春木さん」
「学生の私が言われてもあまり嬉しくありませんが、ありがとうございます……と言っておきましょう」
僕はいろいろと準備をしながら「どういたしまして」と返す。
「二十年後くらいにまたお願いしますね」
それくらいが適齢か。
「覚えてたらね」
自信はないけど。
「それで、変化の話なんですけど。私ではありませんが……多少は変わることもありましたよ」
「ほう? 何が変わったのかな?」
「実はですね、暦くんに私の趣味のこと話せたんです! それで受け入れもらえて……!」
「ははっ……そりゃ良かったよ」
好きな人とは好きなことで盛り上がれるのが一番楽しいからね。
「布教もしっかりして、春休みは暦くんと一緒にドラマとアニメ三昧です」
「なかなか満喫したみたいだね」
「はい、暦くんも立派なエンタメ好きになりましたよ」
変わったとは周防のことか!
春木が立ち上がり、できあがった周防を連れてきた。
「ドラマ……アニメ、素晴……ラシイ」
あら? なんか洗脳されてない?
それか改造手術でも施されたかな?
「春木さん、いったい周防くんに何をしたのかな?」
周防の少し後ろに立つ、春木を見る。
「さっきも言った通りです。ドラマとアニメを一緒に鑑賞してもらっただけです」
「それだけでこんなになるんだ」
壊れた機械みたいになってるんだけど。
「ラァヴ・エーンドゥ・ピーィス……」
「それだけでこんなになるんだ」
春木は「冗談です」とくすくす笑う。
「さすがにドラマとアニメだけでこんなことにならないですよ」
「おお、そこを否定してくる?」
春木はまた「冗談です」と言う。
「もう良いですよ、暦くん」
「はっ……俺は、一体……何を」
周防が僕を見つめて「平坂……?」と名前を呼ぶ。
「もう完全に洗脳じゃん」
「ははっ、冗談だっての」
「知ってるよ」
春休み明けて、仲良し感増してるね。
一緒に僕にこんなこと仕掛けてくるとか。僕も嫌いじゃないけど。
「里菜といっしょにいろいろ観てな。もう、どっぷりハマったんだよ」
特にハマったのが何かとか周防が語り出したのをしばらく聞いて、僕は「楽しそうな春休みだこと」と呟く。
「おう。なかなか良い春休みだった。それで平坂の方はどうだったんだよ」
僕はそこまで特別なことはしてないし。
「僕は……うん、冬野さんと夏元さんと一緒にマスト行ったくらいだね」
それも一回だけなんだけど。
「相変わらずだな、お前」
周防が腰に右手を当てて、ふと笑った。
「わかります。できることなら、友達と過ごしたいですよね」
春木の言葉に僕は頷く。
「春木さんもわかる?」
「わかりますよ。まあ、私は暦くんが幼馴染兼友達兼彼氏ですが」
わ、兼業大変ですね。
まあ、それは春木もお互い様か。
「二人とも末長くお幸せに」
「その言葉ありがたく貰っておく」
「よかったら、結婚式には呼んでね」
恥ずかしがることもなく、二人は笑みを浮かべる。
「おう」
「では、平坂くん。友人代表スピーチ考えておいてくださいね」
ははっ、今から考えとこ。
なんて話してると、チャイムが鳴る。
さ、ホームルームだ。
「ま、これからもよろしくな。平坂」
「うん、周防くん。よろしく」
自分の席に戻る周防を見送って、春木も椅子に腰を下ろした。
そしてホームルームの開始を待つ。




