第53話(一年生編最終話) 三月の終わり
春休みの最中。
平日午前十一時すぎ、僕は椅子から立ち上がった。
「よし、そろそろ買い物行こう」
部屋を出る。
どうせ暇なんだからとおつかいを頼まれているのだ。今日の夕飯は天ぷらの予定らしいです。
「お昼なるし」
おつかい代という臨時収入もありまして。残った分はお昼に回してもいいとのこと。
「行ってきまーす」
誰もいないけどね。
家を出てスーパーに向かう。
「おお、桜も咲いてるね」
もうそろそろ四月になるもんね。
そりゃ桜も咲くよね。
「うんうん、いい天気ですなぁ」
まあ、若干の肌寒さはありますが。
「────お、あったあった」
無事、山菜を確保いたしました!
頼まれてたのは、あとは天ぷら粉だね。
「あれ、燿?」
僕が山菜コーナーから離れようとしたところ、声をかけられた。
「ん、冬野さん?」
僕と同じように買い物カゴを持ってる冬野が立ってる。
「うん。燿もお買い物?」
「そうそう。今日の夕飯は天ぷららしくて、天ぷら粉と山菜を買ってこいって」
「そうなんだ」
「冬野さんは何買いにきたの?」
「適当に」
「適当に」
「うん」
特には献立とか決めて買いにきたわけじゃないらしい。
「鶏肉安い……親子丼もありかも」
親子丼か。
いいね、食べたくなってくるよ。お腹空いてるし、メニュー聞いてるだけでも食べたくなるね。
「……そうだ。お昼どうしよっかなぁ」
どこかに食べに行こうかな。
それともインスタントラーメンとかカレーとか買って満足しようか。どっちもアリなんだよね。
「燿、お昼決まってないの?」
「おつかいのついででお昼も決めようと思ってたからね」
冬野は僕を見つめ。
「どうする?」
そう聞いてきた。
どうする……って、どうする?
「うーん。食べに行こっかなぁ…………冬野さんも来る?」
僕が誘えば「うん」と冬野が頷いた。
「じゃ、マストにしよっか」
「マストだ」
冬野もそれで良いみたいだし。
まあ、マストなら僕の臨時収入でも全然足りるね。
「あ、でも一回家帰っていい?」
鶏肉カゴに入れてたもんね。
さすがにマストに持ってくのは憚られるか。
「────燿、行こ」
会計を終えて、スーパーを出たところで冬野が言う。
「燿のもわたしの部屋に置いてっていいよ。わたしの部屋、貸してあげる」
「ありがたいこと、この上ないです」
僕らはひとまず冬野の部屋に向けて歩き出す。
「それにしても……マスト、なに頼もっかな」
メニューの種類が多いから、悩んじゃうな。
「わたしはまずポテト」
やっぱり冬野はポテト好きだよね。
「燿にも分けてあげる」
冬野が言う。
「何から何まで、ありがたき幸せにございます」
冬野は僕からレジ袋を受け取って、部屋の中に入って行って一、二分で戻ってきた。
「これで燿は帰りもわたしの部屋に来なきゃならない」
そして「ちょっとでも長く一緒に居られる」と楽しそうな顔をして言う。
「そりゃ僕も嬉しいね」
冬野と居られるんだから。
「そうだ。陽毬も呼ぼ」
冬野はそう言ってスマホを取り出す。
「ん。陽毬も来れるって」
「そっか。よかったね、冬野さん」
「うん」
僕らは話しながら歩き出した。




