第51話 お返しは買わないと
三月に入ってしばらく。
『平坂くん、休日ホワイトデーのお返し買いに行きませんか?』
ある平日の夜中、春木から買い物の誘いがあった。
「ホワイトデーのお返し……」
バレンタインからもう一ヶ月が経とうとしてる。バレンタインにもらった冬野と夏元からのチョコ、どっちもとてもおいしかったです。
ちなみに夏元からもらったのは生チョコでした。
「そうだね。僕もそろそろ買いに行こうかとは思ってたけど」
そのお返し、まだ買えてないからね。
『ちょうどいいですから、一緒に行きませんか。同じ返す側ですし』
僕の方も予定はない。時間的には全然問題ない。
「いや、僕はいいんだけど……でも、周防くんは大丈夫なの?」
春木にはほら、周防っていう彼氏がいるわけじゃない?
それをさ。他の男とお出かけとか、彼氏としてはどう思うものなのかなと。
『大丈夫だと思いますよ』
「そう?」
『平坂くんなら、周防くんも問題ないと言ってくれると思いますし』
一応確認してみるとのこと。
「なら、よろしくね」
あ、僕の方にも周防から連絡きた。
春木からのメッセージ見たのかな。
『里菜のことよろしく頼む』
と。
『あの、周防くん、大丈夫なの?』
『平坂なら大丈夫。里菜も信頼してるみたいだし』
なんだなんだ。僕のことすごい信頼してくれてるじゃん、このカップル。
『ただ。もし、なんかあったら……』
『わかってるよ』
僕はそんなことしないよ。
「周防くんも大丈夫だってさ」
『ほら、でしょう?』
ビデオ通話でもないのに、得意げな顔が見えた気がする。
『そういうことでお願いしますね、お兄ちゃん』
「お兄ちゃんってね……とっくにあの日に魔法は切れてるよ、シンデレラさん」
『ふふ、ごめんなさい』
ま、慕われるのは嫌いじゃないから。
* * *
「いやー、クリスマスプレゼント買う時も来たけど、品揃え豊富だね」
ポップアップもあって、ホワイトデーがすごいアピールされてる。この機会にいろいろ売り出したいんだろう。
「その時は暦くんと来たんですよね?」
「そうそう」
今回は春木と、か。
「暦くん、私と、ときたので。じゃあ次は三人で来ますか」
「それ僕、邪魔すぎない?」
カップルのデートに関係ない人が一人混ざっちゃってるんだけど。そうなると僕としても気まずいよ?
「まあ、そんないつかの話はともかく……さて、何を買いましょうか」
「無難に行くならチョコじゃないかな」
「そうですよね。私もチョコがいいと思います。チョコ、美味しいですよね」
それじゃお菓子コーナーに。
「おお……」
さすがの品揃えだ。
チョコもいろいろあるね。他にもいろいろと。
「わっ、見てください」
「んー? どれどれ」
出たな、高級チョコレート。
「このサイズで数千円もするんですね」
「中にはそういうのもあるんだよ」
「三千円のチョコ…………ゴクリ」
心惹かれるよね。
一度は食べてみたくなるよね。
春木の気持ちはすっごい分かるよ。
分かるんだ。
「でも……春木さん。残念だけど、僕らにはこれは買えないんだ」
学生の財力はこのチョコを買えるほどじゃないんだ。
「そう、ですよね。でも、大人になったら……いつかは買ってみせます!」
それから、いろいろチョコとかクッキーとかのお菓子を見てるけど。
「……そう言えば春木さんは自分で作ろうとは思わなかったの?」
「それはほら。私が作るよりも買ったものの方が美味しいですから。そういう平坂くんはどうなんですか?」
僕も、まあ。
うん。
「僕、料理そこまでできないからね」
なら、こうやってお店でちょっと立派なの買えば間違いない気がするんだよ。
手作りしてもらったのに、冬野たちにはちょっと申し訳ないけど。
「なら、手作りできないなりに一生懸命考えて喜ばれるもの買いましょう」
「……そうだね」
それからいろいろとモールを歩き回って良さげなお菓子を買って後にする。
ちゃんとお互いいい感じのが買えたぞ。いい感じのだ。僕も春木も、いい感じの。
「今から楽しみですね」
紙袋を持って満足そうな顔の春木が鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気で言う。
「周防くんが喜ぶのが?」
「それもですが……このチョコも、です」
「あれ、それって周防くんにあげるんじゃなくて?」
「暦くんは優しいので、私からあげたはずなのに結局私にも分けてくれるんですよ。チョコ好きだろ、遠慮しなくていいぞって」
周防、春木にめちゃくちゃ優しいな。
「あー…………」
まあ、でもそれも仕方ないね。僕も周防の気持ちはよく理解できるよ。
「ふふ……」
「どうしましたか?」
「いや、二人は仲良いんだなって」
春木も笑って「そうなんです。私たち、仲良いんですよ」と自慢そうに。
「実にいい買い物でした」
「僕もだよ」
これで冬野たちが喜んでくれるといいな。
* * *
ホワイトデー。
お返しはちゃんと三人に渡せた。
冬野と夏元からは「ありがとう」と笑顔で言われ、秋山も「別にお返しは良かったのに」と言いながらも笑ってた。
「…………喜んでもらえたってことでいいんだよね?」
三人の笑顔を自分の部屋で思い出す、三月十四日の夜。




