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第50話 幸せなバレンタインデー


 新年から一ヶ月と少し。

 本日は二月十四日。

 

「燿。はい、これ」

 

 月曜日ではないけど、僕は冬野から包みをもらった。

 

「こ、これは……!」


 まさか。


「ガトーショコラ、作った」

 

 バレンタインのチョコを冬野からもらっちゃったぞ! しかも手作りだ!

 

「あ、ありがとうございます!」

「結構自信作だから味わって食べてほしい」

 

 そ、そこまでなのか。

 それにしてもいつ食べよう。

 そうだなぁ……よし、お昼のご飯の時にデザートで食べようかな。

 

「おはよ! 燿くん! 美月さん!」

 

 僕は大事に持っていた冬野からのチョコから顔を上げて、近づいてくる夏元を見る。

 

「おはよ、夏元さん」

「陽毬、おはよ」

 

 夏元の僕の手にある袋を見つめて「美月さんのチョコ?」と聞いてくる。

 

「そうだよ。さっき貰って」

「ガトーショコラ作りました。陽毬の分も、ほら」

 

 僕と同じ袋を渡す。

 

「三人分あるからシェアハピ? ってことで」

 

 それはなんか違うお菓子だと思うんだけども。まあ確かに幸せになれたんだから間違いではないですね。シェアハピ最高。

 

「そうだ。ボ、ボクからもあるんだけど……」

 

 そう言って夏元も僕と冬野にそれぞれ、小さな紙袋を確認してから手渡してきた。

 

「ありがとう、夏元さん」

 

 二人から貰えるなんて、僕幸せすぎるぞ。

 

「ありがとう、陽毬。それで、これ中身は?」

 

 冬野の質問に夏元は「食べる時のお楽しみ!」と

 

「ほら! 早く行こ!」

 

 夏元はそう言って早足で歩き出した。


「…………」


 僕、後ろから刺されないかな?


「どうしたの、燿?」

「いや、ちょっとね」


 僕が後ろを振り返ったからか、冬野が聞いてくる。特に危ない感じの人はいない。

 ほっ、よかった。

 

「行こ?」

「……そうだね」

 

 僕と冬野も一緒に歩く。

 バレンタインでそわそわする男子諸君、僕は一つ上に行くぞ。

 

「おはようございます、平坂くん。夏元さん」

 

 教室でいつも通りのやり取り。

 

「今日はバレンタインですね」

「僕は夏元さんと冬野さんに貰ったよ」

 

 春木がチラリと夏元を見てから、僕に視線を移した。

 

「あの、冬野さんと夏元さんから貰ったものはなんでしょうか?」

「ひ、秘密!」

 

 夏元が少し大きな声で言う。

 

「そうですか」

「冬野さんのはガトーショコラだってさ。自信作って言ってたよ」


 そうだ。


「……そう言えば春木さんはチョコ、周防くんに渡したの?」

 

 幼馴染だし、彼氏彼女の関係なんだし。

 登校中に渡しててもおかしくないけど。

 

「ああ、はい。貰いました」


 貰ったのね。

 貰った。


「貰った……?」

 

 バレンタインって女の子から男の子にチョコを渡すのが一般的なのでは?

 

「毎年、この日になると暦くんがチョコレートを買ってきてくれるんです」

「普通、逆じゃない?」

 

 あ、夏元もそう思ったんだ。

 僕だけじゃなかったぞ。

 

「私も最初のうちは渡してたんですよ? でも、暦くんが『チョコ好きだろ?』って買ってきてくれるものですから」

 

 受け取るのが恒例行事になったと。

 

「でも、ホワイトデーのお返しはちゃんとしてますから」

 

 あ、そうだね。

 ホワイトデーがあったね。

 貰えたのがあまりにも嬉しすぎて、僕の頭の中から完全にホワイトデーのこと抜け落ちてたよ。

 ちゃんと覚えておかないと。

 

「────平坂くん、少しいいかしら」

 

 僕が春木と夏元と話してると秋山から呼ばれる。

 

「ごめんね、二人とも。ちょっと行ってくる」

「わかった。行ってらっしゃい」

 

 なんだろう、秋山に呼ばれるなんて珍しい。

 いつも通りのホールで秋山は僕に向き合った。

 

「平坂くん、手を出して」

「うん?」

「ほら、バレンタインでしょ? 今日は」

 

 ま、マジか!

 秋山からも貰えるなんて。


「そうだね!」


 僕は両手で皿を作って待ち構える。わーい、何が貰えるのかな。

 

「はい」

 

 箱がポン、と僕の手の皿におかれる。

 それはだいぶメジャーなチョコレートのお菓子。冬になるとCMがよく流れるチョコレートだ。

 

「…………なるほど。あ、サイン書いてある」

「それは申し訳程度よ。冬野さんと夏元さんでだいぶハードルを上げられた感あるわね……思うのだけど、順番って大事じゃないかしら?」

 

 秋山は溜息を吐きながら言う。

 

「…………私もCMに出てるのだし、こうして貢献するのも必要よね」

「ありがたくいただきます」

 

 企業努力の結晶だよね。


「ちなみにホワイトデーのお返しは…………そうね。三倍にして返してちょうだい」

「てなると、千円前後と」

「冗談よ、お返しは要らないわ。庶民のものなんて知れてるもの」


 思わず吹き出しちゃいそうになった。


「なんて嫌味な女優さんなんだか」

「嘘、嘘。クリスマスに貰った栞のお返しと思ってもらえればいいのよ」

 

 いや。多少なりとはお返しさせてもらおう。


「ありがとね、秋山さん」

「ええ、大事に食べてちょうだい。そしてもっと食べたい、こんなんじゃ足りないってなったらスーパー、薬局。そしてコンビニなんかで買えるわ」


 ばっちり宣伝されちゃったよ。


「なんとなく特別感薄れるなぁ……」

「あら? サイン入りは一個限定よ」

「ふっ……こちらは家宝にします!」


 あの写真集と一緒に。


「お菓子なんだからちゃんと食べなさいよ」


 呆れたように溜息混じりで。

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