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第38話 ハイクオリティ

 

「ふぅ……」

 

 僕は放課後の学園祭準備の休憩がてら飲み物を買いにホールに来た。

 

「平坂くんも休憩かしら」


 この空間ではよく聞く声。


「お疲れさまです。料理係の秋山さんじゃないですか」

 

 ホールに秋山。

 うん、よくあるシチュだね。

 

「ええ、お疲れ様。それで休憩かしら?」

「そうだよ。中々順調に進んでるけど、やっぱり休憩も大事だよね」

「それはそうね」

「それで秋山さんの方はどんな感じ?」

「それなりに順調よ」

「そっか。あ、飲み物買ってもいい?」

「どうぞ。私も買うから」

 

 僕と秋山は飲み物を買ってから、横に並んで話を再開する。

 

「秋山さん、味見係で大活躍みたいだね。お願いされてたの前に見たよ」

「私もここまで役に立てるとは思ってなかったわ」

「そう?」

「そうよ。でも、良かったわ。私も力になれて」


 なら、今度はお昼を一緒に食べても問題なさそうだね。


「それで平坂くんはクラスでどんな大活躍をしてるのかしら?」

「ええ……大活躍って。僕は特にそこまでの貢献はできてないかな。そんな百人力とか、一騎当千みたいな人間から程遠いからね?」

 

 みんなと同じくらいやれることやってるだけだね。別に絵が上手いとかもないし。プロモーションとか戦略面で役に立つとかもできないだろうし。

 

「そうなの? 制服好きの平坂くんのことだからコスプレについても一家言あると思ってたわ」

「僕の印象が制服を語った頃から一歩も前に進んでない気がする!」

 

 どういうことなんだ!

 あれからもう数ヶ月も経つってのに。

 

「進んでるわよ」

「え? 本当?」

「ええ。変態から贅沢者の変態に」

「なんか悪化してる!?」


 というか、やっぱり変態が付いてるじゃん!


「クリームパンをくれた優しい不審者が第一印象だったわね」

「それって明確な退化だよね」

 

 優しいが消えてるんだもん。

 不審者ではなくなってるけども。

 

「退化だなんて。自分を責めないのよ」


 哀れみの目を向けられてもね。


「僕は自分を責めたつもりないんだけど?」

「あら、そうだったの?」

「そうなんだよ。退化してるのは僕の印象なだけであって」

 

 僕は息を吐く。

 

「平坂くん、それで……学園祭の出展は全体的に大丈夫そうなの?」

「うん? あ、そっか」

 

 秋山は相変わらず忙しいもんね。

 

「たぶん大丈夫だと思うよ。看板とか装飾とかの方は順調。看板も完成見えてきてるし。メニューの方は秋山さんの方が分かると思うけど」

「こっちも問題ないわね。カレーとか自信作よ」

「秋山さん監修のカレーか」

 

 そりゃすごいね。

 秋谷凛が監修してるってことでしょ?

 これはとんでもない価値がつきそうだ。でも秋山はそんなの望んでないだろうけど。


「どんなカレー?」

「そんな特別なことはないわよ。普通のチキンカレーよ」


 普通って言われても気になるなぁ。

 そんなふうに話してると。

 

「────燿」

 

 冬野が僕と秋山を見つけて近づいてくる。

 

「あれ、冬野さん?」

 

 どうしたんだろ。

 

「中々、燿が戻ってこないから来たけど……旭と話してたんだ」

「あ、うん。ここで偶然会ってさ。もしかして作業再開した方がいい感じ?」

「うぅん。別に、大丈夫。わたしが燿を探してただけだから」

「夏元さんは?」

「里菜と話してたよ。なかなか盛り上がってた」

 

 うんうん、近所付き合い良好そうで。

 

「冬野さんももうちょっとここでゆっくりしない?」

「うん」

 

 秋山は冬野を見る。

 

「旭?」

 

 キョトンとした顔で冬野は秋山を見つめ返した。

 

「ねえ、冬野さん。冬野さんはどうして料理係に入らなかったのかしら……? 私、冬野さんの料理、とてもおいしいと思ったから。てっきり料理係に来るものだと思ってたけど」

 

 冬野がふるふると首を横に振った。

 

「わたし料理は好きだけど、どん臭いから。それでみんなに迷惑かけるかもだし」

「……そう。それで夏元さんは? 夏元さんも料理が上手だったけど」

「陽毬はわたしが料理係行かないなら、自分も……って」

 

 秋山がふ、と笑う。

 

「なら仕方ないわね」

「ごめんなさい?」

「冬野さんが気にすることなんてないのよ。責めるつもりなんてないんだから」

 

 冬野と夏元が料理係じゃなかった理由に秋山も納得したんだろう。

 

「……さて、と。それなりに休んだし。そろそろ教室戻ろうかな」

 

 僕は深呼吸してから言う。

 

「そうだね」

 

 僕と冬野が教室に戻ろうとしたところ。

 

「ねえ……平坂くん、冬野さん」


 秋山に呼び止められる。


「どうかしら、二人とも。カレー味見していかない?」

 

 うん、気になってたし。

 秋山から誘われたから、せっかくだから。

 

「────おいしい」

 

 冬野はカレーを一口食べて呟いた。

 

「……これ、おいしい。お店で出てきてもおかしくない」

 

 そこまでなの?

 僕もすごい気になるな。

 

「はい、平坂くんも」

「ありがとう。いただきます……おぉ」


 これはたしかに。

 すごいぞ、このカレー。

 とてつもなくクオリティが高い……!

 冬野の感想にも納得だよ。ここまでのものができるんだ。


 え、学園祭でこれ出てくるの? 凄っ。

 

「二人がそう言うなら大丈夫ね」

 

 秋山は深く頷く。


「じゃあ、秋山さん」

「そうね」


 うん、そろそろ戻ろう。


「みんな、ありがとうね。失礼しました」

「ありがとう。失礼します」


 僕と冬野は調理室を後にした。

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