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第37話 空気感

 月曜日昼休み。


「ボク、旭さん誘ってくる!」


 夏元はそう言って秋山に話しかけに向かう。

 四人で食べるってなると、夏休み前に一緒に食べたぶりかな。


「旭さんっ」

「どうしたの、夏元さん?」

「ね。よかったら、今日ご飯一緒に食べよ? ボクお弁当作ってきたんだ」

 

 夏元が誘うものの「その、ごめんなさい……今日はちょっと」と秋山は遠慮した。

 

「そっか。なら、今度大丈夫だったらさ! その時はよろしくね」

「ええ」


 秋山は教室を出ていってしまった。


「────ごちそうさま。今日もおいしかったよ、夏元さん」

「うん。今日も完食ありがとうね」

「当たり前だよ」


 冬野も当然、と頷いてる。


「……よっ、と」

 

 僕は夏元のお弁当を食べ終えて立ち上がる。

 

「ちょっと飲み物買ってくる」

 

 それと。

 

「あ、そうだ……夏元さん。秋山さんの分のお弁当…………その、預かってもいいかな?」


 夏元が一瞬、不思議そうな顔になる。


「できたら秋山さんに渡してくるよ。飲み物買いに行くついでに。夏元さんがせっかく作ってくれたんだから、秋山さんにもちゃんと食べてほしいしさ」


 僕がそういうと納得したのか。


「そっか」


 嬉しいというような顔をして、夏元が秋山の分のお弁当を取り出した。


「うん。秋山さん、食べてくれたらいいな。よろしくね、燿くん」

「うん。任された」

 

 僕は夏元からお弁当を預かる。

 

「途中で食べちゃダメだよ、燿」

「心惹かれるけどやらないよ……!?」

「そう?」

「そうだよ」


 食べようと思えば食べれるけどね?

 夏元の料理も冬野の料理もいくらでも食べれるから。

 けど、そんな配達員として失格なことするわけないんだよ!

 夏元が秋山に食べてほしいって作ったお弁当なんだから。僕はちゃんと責務を遂行します。


「もう、とりあえず行ってくるね」

 

 ホールに行けばやっぱり秋山が立ってる。

 他には誰も居ない。

 

「や、秋山さん」


 僕は秋山にいつものように声をかける。


「あら、平坂くん?」

「今大丈夫? 秋山さんにちょっと話があってね」

「何かしら? ナンパかしら?」

「いやいや、そんなつもりじゃないんだけどなぁ……」


 というか、僕たち友達だよね?


「……それで、今大丈夫かな?」

「まあ、構わないわよ。それで……どんな話、どんな用よ?」


 話をする時間はあるみたいだし。今は忙しいってこともないのか。

 それも僕の推測を補強する。


「んー、あのさ……」

 

 夏元に誘われたのを断ってたから。

 この前は誘ったら応えてくれてたし。それに、夏祭りも一緒に回っても良いか聞いてくるくらいだったのに。


「……秋山さん、今教室に居づらい?」


 なんとなく、そう思った。

 僕の質問に秋山は間を置いて。

 

「…………そうね。平坂くんの言うとおり、私は教室に居心地の悪さを感じてるわ」

 

 翳りのある表情を見せながら、秋山が肯定する。

 

「ほら、私って忙しいじゃない」

「あ……はい、存じております」


 しっかりと。


「……それに、今って学園祭準備期間でしょ? けど、仕事があって全然手伝えてない」

「うーん……仕方ないとは思うけど」


 学園祭みたいに行事となると、手伝うか手伝わないかとかでいろいろあるんだよね。


「……やっぱり、秋山さんはクラスメイトに自分が女優だって知られたくないんだよね」

「……ええ」

 

 誰にも明かせないから、クラス内でよくない評価が出てきてもおかしくない。そういう雰囲気があると思った秋山は相変わらず、ここで昼にしてると。

 

「もうちょっと前ならお昼の誘いにも応じたのだけど」

「タイミング悪かったって感じ?」

「……そうね。まあ、私も学園祭の準備手伝えてないことに関しては申し訳ないと思ってるのよ? 本当に」


 それなら。

 

「秋山さん」

「何かしら?」

「そのこと、実行委員の梅宮さんに話してみた?」


 秋山が首を横に振った。


「……話してないわ」

「なら、話してみようよ」


 それだけでもいろいろ伝わるのはあると思うし。


「梅宮さんも考えてくれるんじゃないかな、秋山さんにできること」

「…………そうね」


 秋山の居心地の悪さがこれで解消できたらいいんだけど。

 そしたら、また四人でお昼できるかもだ。


「ありがとうね、平坂くん」


 学園祭についての話はひとまずいいとして。


「そうそう。それで、僕からはもう一つ大切な用事があって」

「…………?」

 

 首を傾げた秋山にお弁当を差し出す。

 

「これは」

「秋山さんの分のお弁当だよ。夏元さん、言ってたでしょ? 作ってきたって」

「……本当にいいのかしら?」

「いいのかしら……って。むしろ、もらってくれなきゃダメなんだよ、これは」


 夏元が秋山のために作ったんだから。


「僕からも伝えるけど、秋山さんからもちゃんと夏元さんに伝えるように」

 

 受け取った秋山は「まさかお昼断っちゃったのに食べられるなんて……いただきます」と言ってからゆっくりと食べ始める。

 

「おいしい……わね」

 

 秋山の箸は止まらない。

 食べ終えた秋山が手を合わせて「ごちそうさま、おいしかったわ。ありがとう」と。

 

「夏元さんにも伝えてよ。今度会う時にでも」

「……夏元さんには悪いことしたわね」


 それは秋山にも事情とかあったから。


「あとでちゃんとお礼を言うわ」


 



* * *




「秋山さん! 今日だよね!? 味見お願いします!」

「わかったわ」


 気がつけば秋山はメニューの試作味見役に着任していた。

 秋山はいい舌を持ってる。


「さすが、秋山さんだ……一流だね」


 僕は調理係が秋山に手を合わせて頼み込むのを見て、自然と言葉が漏れた。

 

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