第35話 最終日と登校日
「もう夏休み終わりかぁ」
いろいろあったなぁ。
うん。いろいろ。
「ん?」
夏休み最終日、午前九時。
僕と冬野と夏元の三人のグループチャットに、一つのメッセージが投下された。
『助けてください』
と。
「え?」
送り主は夏元である。
「夏元さん? なんかあったのかな……?」
ちょっと不安になる。
僕が聞く前に、冬野から夏元に『どうしたの?』と用件を確認するメッセージが送られた。
『宿題、終わってないよぉ! 二人とも、手伝ってくれませんか?』
夏休みの宿題か。
「なんだぁ……」
もう、心配しちゃったよ。
「そっか。夏元さん宿題溜め込むタイプだったか」
僕もそこまで計画的にやるタイプってわけじゃないけども。まあ、なんとか昨日までで終わらせましたよ。
僕もね、余裕を持つことの大切さを学ぶことがあったんだよ。
『それでどうやって手伝えばいいかな? 通話とか?』
『燿くん! あ、その。ごめんだけど一緒に図書館で。ダメかな?』
図書館ね。
僕は早速、出かける準備を整える。
その間に冬野が『わかった』と返信していて、僕も図書館に行くことを二人に伝える。
「────うぅっ……ありがとう二人とも」
僕と冬野は夏元の救援要請に応じた。
一応、宿題はちょっとは進めてはいるらしいし、全部そのまま真っさらな状態ではないようで。
そして今は図書館から出て、近くの公園でお昼にしていた。
「陽毬。大丈夫、今のペースなら夕方までには終わるから」
「うんっ」
冬野が夏元を励ましてる。
「ほら、戻ろ?」
「はい! 頑張ります!」
夏元のやる気は続いてる。
まだ大丈夫らしい。
今は午後一時ちょっと前。夕方って言ったら、五時とかそれくらいかな。
「…………」
図書館に戻ると夏元は午前と同じく、真剣な顔してシャーペンを動かしてる。
僕と冬野はそれを黙って見つめる。時間の都合でわからなかったらどんどん飛ばしていこうという方針だ。
「陽毬。あともうちょっと」
「うん」
集中力すごいや。
もうお昼から二時間以上はぶっ通しだよ。時々手が止まることはあるけど、それは問題で考えたりしてるってだけでやる気が途切れたとかではない感じだ。
「……おお。ここに来てペースが上がってるね」
わかるわからないの判断が早くなってってる! 瞬間的に判断してる気がするぞ。
もはや、それ問題について考えてるのか疑問ではあるんだけどね?
夏元からは、とにかく宿題を終わらせるって意思が見えるね。
「お、終わった?」
現在時刻、だいたい午後四時三十分。
「陽毬…………終わった。終わったよ」
五時前までに夏元の残っていた宿題が全て片付いた。見守っていた冬野も喜びを覚えてる。
「や、やったぁああああ…………」
へなへなと夏元の上半身が力なく図書館の机に倒れた。
「もしかしてだけど……ランニングより疲れてないかな、夏元さん」
「うぅ……勉強苦手なんだもんっ」
苦手なこと続けるのって辛いよね。
「あはは。でも結構早く終わったね。お疲れ様でした、夏元さん」
「うん……二人にこれ以上の迷惑かけたくないから。それに……せっかく二人と会えるんだからさ。ちょっとは遊びたいと思ってね」
そのために頑張ってペースアップしたんだと。夏元はなんて健気なんだろう。そういうところ、夏元のいいところだと思います。
「ねえ、それで……さ」
夏元は身体を起こす。
「今もう五時なっちゃうけど……遊びに誘って、大丈夫かな?」
「わたしは大丈夫。一人暮らしだから」
となると、僕ね。
「連絡すれば大丈夫だと思うよ。それで何時くらいまで?」
「えーと。じゃあ、六時……かな? それなら、大丈夫?」
晩ご飯は家で食べれるね。
僕は遊びに行くということと、帰宅予定の時間をお母さんに伝える。返信を確認してスマホをズボンのポケットに戻す。
「大丈夫だってさ」
僕たちは図書館を後にする。
やっぱ、全然夏だね。空はまだ明るい。
「うーん、どこ行こっか」
特に行き先とか決めてなかったか。
一時間だけだもんね。
「じゃあ……二人ともいいかな」
「うん? 行きたいところあるの?」
「明日のお弁当の材料買いに行きたい」
「いいね、美月さん! 行こ行こ!」
僕たちは揃ってスーパーまで移動する。
* * *
そうして、夏休みが明ける。
冬野と夏元といつも通りに登校し、学園に着くと。
「おはようございます。平坂くん、夏元さん」
「ん、おはよう。春木さん」
隣の席の春木と夏休み前と同じように挨拶を交わす。
僕の後ろの席の夏元も「おはよう、里菜さん」と言いながら机にカバンを置いた。
「どうでしたか、夏休み」
「楽しかったよ。昨日も燿くんと美月さんと一緒に勉強したり、遊んだりしてさ」
「そうでしたか。夏元さんも、とても楽しそうですね」
春木はニコリと笑って。
「夏元さんに劣らず、私の夏休みも楽しかったですよ」
春木がチラリと僕を見てきた。
「……それはよかったよ」
聖地巡礼のことかな。それと、夏休み中も春木とはいろいろと電話で話してたりしたから、それもある感じかな?
「平坂くんはどうでした?」
「僕も二人と同じ。楽しかったよ」
まあ夏休みもよかったんだけどね。
でも、春木と秋山にも会えるし。夏元と冬野と登校できるから。
「今日からも楽しみだよ、僕は」
夏休みが終わっても、まったく絶望感ってのはないんだよね。




