第34話 夏祭り、当然のように迷子になる
「…………うん」
端的に今の僕の状況を言い表すとだね。
「迷子ったね、こりゃ」
僕は今、一人である。
夏祭りの会場は人が多いし、はぐれるなんてことは普通によくあると思う。人波に押し流されてとか。
まさか僕がそうなるとは。
「ま、大丈夫か」
夏祭りとかではぐれてもスマホあるから、合流なんて簡単にできるし。
僕は早速、冬野と夏元に『コンビニにいるよ』とメッセージを送る。
「これでよし」
ひとまず、ね。
「あら、平坂くん。夏祭り来てたの?」
紺色の浴衣に身を包んだ秋山が声をかけてきた。
「おっ……どうも。秋山さんもね」
手には食べかけの玉こんにゃくの串。
「一人なの?」
「秋山さんこそ」
「そう見えるのね、あなたには」
どう見ても一人だよね。
「……こっちも今は一人だけど」
「私が一人なのがあなたの中では確定したのね」
「秋山さん、一人でしょ?」
「……ええ。そうよ」
「うん、だよね」
そうじゃなかったら若干ホラーなんだけど。
「まあ、それで……僕も今は一人だけどね。一緒に来てた冬野さんたちとちょっとはぐれちゃったんだよ」
「そうなの?」
「そうなんです」
「今度からは飼い主に首輪とリードつけてもらいなさい」
「僕を犬みたいに言わないでよ!」
それと僕にそういう趣味はないんだよ!
「ふふ」
クスクスと秋山が笑う。
それから息を吐いて。
「────……ねえ、平坂くん」
なんだろ、改まって。
「どうしたの、秋山さん?」
「……もし二人と合流したら、私もそこに一緒しても良いかしら?」
僕は「うん」と頷きを返す。
「秋山さんも一緒なら、冬野さんと夏元さんも喜びそうだしさ。それに、僕も大歓迎だから」
スマホを確かめればちゃんと既読がついてる。もうすぐ来るだろうから、秋山が一緒にいることも伝えておこう。
「……それにしても、ちょっとお腹減ったなぁ」
「あら。私のはあげないわよ?」
僕から串を遠ざける。
「そんなつもりで言ってないよ!?」
「そう?」
秋山がたまこんにゃくを噛んだ。
「秋山さん。たまこんにゃく、好きなの?」
口に入れた分を飲み込んでから、秋山が答える。
「ええ。たまこんにゃくっておでんっぽいじゃない」
「たしかに」
たまに入ってることあるよね。
「私、おでんが好きなの」
「ほうほう……秋山さんはおでんだと何が好きなの? やっぱりこんにゃく?」
「まあ……こんにゃくもいいけど、練り物もいいわよね。でも大根も捨てがたいし……コンビニのおでんだとうどんもおいしいのよ」
何が一番好きかは決められないけど、おでんが好きなんだと。
「うぁー……おでんか。僕も食べたくなってきちゃったんだけど」
たまこんにゃく良いなぁ。
「そう? 今から買ってきたら?」
「えー……でもさ。でもだよ? その間に冬野さんと夏元さん来たらどうするのさ」
「そうなったら……私が冬野さんたちと夏祭り楽しむわ」
「待ってくれるって考えはないの!?」
笑顔でそんな残酷なこと言わないでよ!
「だって、時間がもったいないじゃない」
「それやられちゃったら、また僕がはぐれるんだけど」
僕と秋山は同時に笑う。
お互いに全部冗談だって分かってるから。
「いたいた! 燿くーん! 旭さーん!」
白に水色のストライプと花の散りばめられた浴衣を着た夏元が僕たちを呼んでる。隣には白色に花柄の浴衣の冬野がいる。
「あら、行かなくてよかったわね」
秋山が悪戯っぽく言った。
「お待たせ、燿」
冬野と夏元と合流する。
「ずいぶんと……うん、楽しんでるね」
夏元の手にはステーキの串が握られてる。そして左腕にはビニールの袋。
「燿くん。これはここで待ってくれてた燿くんの分も買ってるんだよ!」
「え、本当? やった! ありがとう。それで、いくらしましたかね?」
僕は夏元に貰った食べ物の分のお金を払う。
「燿くん、毎度あり〜」
買ってきてもらえたのは焼きそばと焼き鳥。お祭りの焼き鳥とか、焼きそばっておいしいんだよね。気分的なものかもしれないけど。
「二人とも、私も一緒で良いかしら?」
「ん、もちろん」
冬野の答えに夏元も頷いた。
「なら、どうしましょ……移動する?」
秋山が聞いてくる。
「んー……どうしよっか。僕、二人が買ってきてくれたの食べたいんだけど」
お腹すいちゃったし。
「じゃあ、もうちょっとここでゆっくりしよ。ボクたちも歩き回ってさ。ほら、浴衣って動きにくいから」
「たしかに。それはそうね」
あ、ご迷惑おかけしました。
本当、二人には慣れない格好で歩いてもらって。
「はい、燿」
「え、いいの?」
「うん」
僕は冬野から差し出されたポテトを何本か貰って口にする。
「…………そういえば里菜も来てたよ。暦と一緒だった。これ買う時にちょっと話した」
「春木さんも来てたか」
「うん。わたしもちょっとしか話してないけど」
やっぱり僕モブじゃない?
運命的に迷子なった気がしてきちゃう。
「────あ!」
僕が焼きそばを食べてると、夏元の声が響いた。
「ほら、花火上がったよ! ほら、燿くん! 美月さんと旭さんも!」
「ふぉおう……!」
夜空を見上げる。
「んっ……これは、焼き鳥の方がいいかな」
串に刺さってるやつの方が花火見ながらは食べやすい気がする。うん、焼きそばは一旦しまおっと。
よし、僕も焼き鳥に持ち替えて。
「そだ……冬野さんと夏元さんも食べる?」
「いいの?」
冬野は僕の持ってる、焼き鳥の乗ったパックを見ながら聞いてくる。
「いいよいいよ。いやぁ、僕が迷子になったせいで迷惑かけちゃったからね。ほら夏元さんも」
「じゃ、お言葉に甘えて。もーらいっ」
僕は焼き鳥を食べながら、あらためて花火のうち上がる空を見上げた。
「……秋山さんもいる?」
「私は大丈夫よ」




