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第33話 遊園地

「ふうせん……! ふうせん売ってる」

 

 冬野が僕の隣で目を輝かせてる。

 それが一番楽しみだったみたいだからね。

 

「冬野さん。僕も買いたいんだけど……でも、買うにも帰りの方がいいと思うなぁ」

 

 今買っちゃうとアトラクション乗るのに手間取ることになるだろうし。


「ん、わかった」


 冬野が小さく首を縦に振る。


「ねえねえ……燿くん、美月さん! 最初どれに乗ろっか!」

 

 夏元が遊園地の案内地図の前から僕らを呼ぶ。案内地図の中から冬野はジェットコースターに人差し指を向けた。

 

「わたし、ジェットコースター……乗ってみたい。遊園地って言ったらジェットコースターって見た」

 

 気持ちは分かる。

 いやぁ、ジェットコースター。ふふ、冬野と夏元のリアクション楽しみだな。

 

「じゃあ、まずは……ジェットコースター、レッツゴー!」

 

 夏元を先頭に僕らはついて行く。

 

「────ジェットコースター、もうっ……二度と、乗らない!」

 

 ジェットコースターを降りると冬野は足を震わせ、夏元にしがみつきながらそう言った。

 冬野のリアクションはそこまで激しくなかった。絶叫もなかった。

 あれは、そう。

 本当にダメな人のやつ。

 

「冬野さん……大丈夫?」

「大丈夫、じゃない。みんなは……アレが楽しいの?」

「あ、あはは。まあ、人によるよね」

 

 全員が全員楽しいって思うかは、うん。

 人によりけりだね。

 夏元はしっかり絶叫して楽しんでたけど。

 初の遊園地で冬野にしっかりトラウマが刻まれることになるとは。

 

「ふうせん……ふうせん、買って帰るっ」

「ほ、他のが楽しいかもだよ? ね、美月さん!」

 

 夏元は涙が出そうな目をしてる冬野を必死に説得する。

 

「そうだね。ジェットコースターが無理ってことは……まあ、フリーフォールも無理だろうし。じゃあ……お化け屋敷とか?」


 たしか、この遊園地はお化け屋敷もうりだったよね?


「そうだね。美月さん……お化け屋敷は大丈夫そう?」

 

 夏元の質問に「もう、ジェットコースター以外なら……」と頷く。

 

「…………夏元さん、なんか思ったより怖くない?」


 僕の想像の数十倍くらいのホラーなんだけど。これだと僕も二人のリアクション楽しむ余裕は全くないんですけど。


「う、うん。でも、すごい怖いって書いてたし」

 

 僕たちは恐る恐る進む。

 これはやばいかも。明らかにレベルが高すぎるよ?

 

「…………よ、燿? 陽毬?」

「冬野さん。こっちだよ」

 

 この遊園地やばいって!

 遊園地初心者が来るレベルのじゃないんだけど! 僕らが慄きながらゆっくりと慎重に進んでると、ガタンと何かが落ちる音がした。

 それは僕らの目の前を転がる。

 

「な、なに? ボール……?」

「夏元さん。ここはお化け屋敷だよ?」

 

 僕らはそれを見てしまった。ボールなんかではない。首である。


「ひっ!?」


 夏元の声に重なるように、後ろから「バンッ!」と音が響いた。

 

「…………!」

 

 首のない男が現れて、僕たちに近づいてくる。というか、追いかけてくる。


「うぁあああああああああッッッ!!!」


 僕たちは全員同時に悲鳴を上げながら、お化け屋敷を走って抜け出した。

 

「……もう、こういうのはやめよう」

 

 ジェットコースターとか冬野が無理だし、お化け屋敷は僕たち全員からして怖すぎるし。もうちょっと心臓に優しいのにしよう。

 

「メリーゴーランドとか、コーヒーカップとかにしよう。そうだよ。うん、心臓に優しいのにしよう」

「う、うん……そうだね。ね、美月さん。それで良いかな?」

 

 冬野は「さ、賛成」と頷く。

 それから言った通りに、心臓に優しいアトラクションでほどほどに楽しんだところで。

 

「燿、陽毬……そろそろご飯にしよ?」

「んー、どこが良いかな」

 

 冬野の提案に、夏元はスマホで調べてくれてるみたいだ。

 

「じゃあ、あそこはどうかな? ボクが気になるってだけだけど……」


 夏元が指差した先にあるレストランを見て、僕は頷いた。


「そこにしよっか。冬野さんも大丈夫?」

「うん」


 全員オーケーってことで、夏元が歩き出す。


「あ、ポテトある」

「美月さん、ポテト好きなの?」

「うん」

「ボクはお肉〜。今日はチキンの気分かな」


 店員さんに注文を伝え、僕らは席に向かった。


「あ、そうだ。燿くん、美月さん」

 

 メニューができあがるのを待つ間、夏元は僕たちに「夏祭り、一緒にどうかな?」と聞いてくる。


「あ〜……あったね」


 そういえば、夏祭りか。気がつけばもうすぐかな。

 

「夏祭り?」

「冬野さん。僕たちが住んでるところだとね、八月九日から十日にお祭りがあるんだよ」

「……お祭り」

 

 夏元は改めて「どう、かな?」と確認する。

 

「わたし、そのお祭り行きたい」


 冬野に続いて、僕も夏元に答える。


「……うん。僕も大丈夫だよ」

 

 さて、僕の夏祭りはどうなるんだろう。




* * *




「────ふうせん、買えた」


 帰る直前、ちゃんとふうせんを忘れずに買って僕らは遊園地を後にする。


「今日……燿と陽毬と来れてよかった。やっぱり二人となら、どこでも楽しい」


 帰り道、冬野は嬉しそうに。

 それから、僕たちは今日の思い出話に花を咲かせる。電車の中でも、駅に着いても。

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