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第32話 秋山さんとの帰り道


「春木さん、体調気をつけてね」

「……はい。ありがとうございます、平坂くん」

「家に帰ったらゆっくり休むんだよ?」

「心配性ですね」

「……おやすみ、春木さん」

「はい。平坂くんも気をつけてくださいね。疲れてるでしょうから」


 春木は駅前からタクシーに乗って帰って行く。春木の乗るタクシーが見えなくなってから、僕も帰ろうと振り返った。

 

「奇遇ね、平坂くん」


 秋山が僕の後ろに立ってた。

 いつの間に!? ……というか。


「秋山さん。なんてタイムリーな」

 

 さっきまで秋山……というか、秋谷凛の出演してたドラマの聖地巡礼してたものだから。まさか、当の本人に会うとは。

 

「もしかして、駅にいるってことは撮影帰りかな?」

「ええ」


 お、合ってた。今度はなんの撮影してるんだろ。


「そういう平坂くんは?」

「僕はちょっと出かけてたところだったんだよ」

「そう。ちなみにどこまで?」

「こっから電車で一時間くらいのところだよ。秋山さんもドラマの撮影で行った事あるところなはずだけど」

「ああ……あそこね」

 

 思い当たったらしい。

 

「……そうね。タクシーで帰ろうと思ってたけど……平坂くん、一緒に帰りましょ」

「んぇ? ……まあ、よろこんで?」

「平坂くんの家はどっちかしら」

 

 それから家の方向は途中まで同じであることを確認して、僕たちは並んで帰る。

 

「それでどこで何を見てきたのかしら」

「そうだねぇ……まずは大きい橋でしょ。それから公園。そして、あれはちょっと違うかな……でも、秋谷凛のサインも見てきたよ」

「サイン……あぁ、あの料理屋ね。おいしかったかしら?」

「そうだね、おいしかったよ」

 

 昼に食べたご飯の味を思い出す。

 

「そうよね。あそこのご飯おいしかったのよね」


 秋山も覚えてるらしい。


「それで、平坂くんは一人で行ってきたの?」

「いやいや。友達とだよ」

「そう。平坂くん……楽しかったのね」

「わかる?」

「顔にそう書いてあるもの」

 

 僕は秋山の顔を見る。

 

「秋山さんは……うん。見た感じだと疲れてるね」


 顔にそう書いてある。


「ええ、撮影帰りだから」

 

 それもそうだね。仕事帰りで疲れてないわけないか。

 

「秋山さん、ちゃんと休めてる?」

「心配ありがとう。でも、問題ないわよ。ちゃんと休んでるから。それにあなたみたいに応援してくれる人もいるのだし」

「…………応援してるけど、やっぱり倒れたら心配するよ。活躍は嬉しいけどね」

 

 そんなのは当たり前だ。

 秋谷凛のファンも、秋山旭の友人も。

 彼女が倒れたら彼女のことを大切に思う人なら誰だって不安になると思う。僕だって、今日は春木の事で不安になったんだから。

 

「正直僕と歩いて帰るより、タクシーで早く帰って休んだ方が良かったんじゃ……」

「そうかもね……でもせっかく、夏休みに平坂くんと会えたんだから話したくなったのよ。なんとなく、そういう気分だったの」

 

 夏休みは秋山の仕事は普段以上に忙しいのか、こうして会えるのは奇跡的な事らしい。学業優先の話ってどこに行ったんだろ。

 

「忙しい秋山さんが、わざわざ僕に」

「まあ、友達でしょう? 私たち」

「そうだけどね?」

「友達と話すのは心の潤いなのよ」

 

 一人になりたい夜もあるけど、どうしようもなく誰かと話したい日もあるよね。僕にもその気持ち……分かるよ。

 

「秋山さんが僕との会話に潤いを感じてるなんて」

「テストの時、ノートの写真も見せてくれるし。私の人生の潤滑油よ」

「そう? よし、今後面接の時はそれ使わせてもらうよ」

 

 僕はモノに例えると潤滑油だって。

 

「言っても良いけど……私、責任取らないわよ?」

「……まあ、その時が来たらもっと真面目に考えようかな」


 会話が盛り上がってる中、秋山は「私、こっちなの」と僕の家のある方とは違う方向を指す。


「そっか。僕はこっちだから」

「さよなら、平坂くん。またね」

「うん、また。秋山さん、疲れてるだろうから気をつけてね」


 夏のまだ明るい空の下、一人になった僕はぐっと伸びをする。


「大変だったけど……楽しかったな」


 帰り道、さっきまで話し相手がいたのに。

 少し寂しくなったかな。

 

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