第30話 子守唄マスター
テストが終わり、一週間くらいが経った。
『今回もありがとうね、平坂くん』
『いえいえ。テスト大丈夫でした?』
『問題なかったわ』
『それは良かったよ』
『そっちの方は?』
『こっちも問題ないよ』
『そう。おやすみなさい』
『はーい、おやすみ』
なんて、夜中に秋山とテストが終わってのメッセージのやり取りをしていたところで電話がかかってきた。相手は春木だ。
『あ、平坂くん?』
「もしもし、春木さん?」
だいぶ慣れつつある春木との長電話。今回はなんの話だろ。夏休みだから水着の話でも来るのかな、とか身構えていたら。
『突然ですが、一緒に出かけませんか?』
「へ?」
予想外なのが来たよ。
「春木さんと?」
『はい。あ、夏休みにですよ』
「いや、うん。そこら辺は大体察してるけど」
僕が気になるのはスケジュールよりもどうしてのところだ。
「それって周防くんとじゃダメだったのかな?」
『ダメです。暦くんとはダメなんですよ』
あ、迷うそぶりすらなかったね。
「一人は……」
『私は良いんですが、家族が心配してしまいますから』
それもそっか。
『友達と一緒なら大丈夫だろうと』
「それで僕に白羽の矢が立ったと」
『…………そういう事です』
僕としては出かけるのは嫌いじゃないし、予定さえ合えば問題はないんだけど。
「まあ良いけど。僕にも一応都合とか予定とかあるからさ、そこら辺も加味してもらえると助かります」
『はい……無理を言っている自覚はあります。平坂くんの予定を優先してください』
僕は冬野と夏元と一緒に遊びに行く日のことを伝える。
『……なるほど。この日はどうでしょう?』
「ん。その日なら大丈夫かな」
『それではよろしくお願いします! お礼は必ずしますから!』
お礼かぁ。何がもらえるんだろ。
一食分奢ってもらえるとかかな。
「あ……というか、待って待って。ちょっと待ってね、春木さん」
『あ、はい。どうしましたか、平坂くん?』
「日程だけでオーケーしたけど……僕、肝心のお出かけの理由と場所を聞いてないんだけども」
『あ、そうでしたね。その、今回はせっかくの夏休みで。しかも、頼める相手もいた事ですから』
頼める相手。
言い草からして、最初から僕をアテにしてたのか。
で、もし僕が断ってたら、春木は…………たぶん、断念してたのかな。
「…………うんうん」
『それで、聖地巡礼に赴こうかと思っておりまして』
「聖地巡礼……?」
『はい。秋谷凛が出演していたドラマの聖地巡礼です。そこまでの遠出にはなりませんから安心してください』
「ほうほう」
聖地巡礼。
面白そうだね。
僕の夏休みスケジュールもいろいろと楽しげになってきてるね。
『当日はよろしくお願いします』
「よろしくね、春木さん」
『はい。今から計画考えないとですね』
春木は電話越しでも分かるくらいにテンションの高い声で『それでは失礼します。おやすみなさい』と言う。
「…………あ」
春木との通話が終わってから、僕は新着のメッセージがあることに気がついた。
冬野から着信があったっぽい。
「…………」
僕に通話をしてきたってことは何かあったんだろうか。僕は急いで冬野に折り返しの通話をかける。
ワンコールの途中、冬野はすぐに電話に出た。
「────もしもし、冬野さん。大丈夫?」
冬野から細い声で『あ……もしもし、燿?』と返ってくる。
「そうそう、僕だよ。平坂燿です」
『……ありがとう。ちょっと話がしたくて』
「うん、わかった。今からでも大丈夫? 結構遅いけど」
『大丈夫』
それから冬野は僕に電話してきたわけを教えてくれた。
『……燿は不安になったら電話してもいいって言ったから』
「そうだったね」
言った覚えある。
前のテストが終わった時だったかな。
『うん……でも、ちょっと落ち着いた』
「そうなの?」
『……うん』
冬野は少ししてから。
『ねえ、燿……子守唄歌ってみない?』
「うぇ? 子守唄? 子守唄かぁ。歌詞うろ覚えだけど……」
『寝るのには子守唄。これ定番』
本当に効果あるのかなぁ?
まあでも、やってみよう。
「では、歌います。聞いてください」
僕が子守唄を歌っていれば、いつのまにか冬野からの声が聞こえなくなってて。
「冬野さーん……?」
僕は子守唄の天才だったのか……!?
僕にこんな才能があったなんて。
「あれ、冬野さん? もしかして本当に寝ちゃった……?」
『集中してた』
「子守唄に?」
『子守唄に』
子守唄に集中しちゃったかぁ。
『燿に子守唄マスターの称号を授けよう』
「ありがたや〜ありがたや〜」
貰えるものは貰っておくよ、僕は。嫌なもの以外ね。
『じゃあ早速……マスター、いつもの』
「そういう感じのマスターだったか……!」
まさかの喫茶店みたいな感じだったとは。
『ふふ……』
冬野の笑い声が聞こえてくる。
『ありがとう、燿。燿のおかげで今日はちゃんと寝れそう』
「良かったよ……冬野さん。またいつでも電話してね」
『うん、ありがとう……おやすみ』
「おやすみ、冬野さん」
冬野はそれから数秒くらいしてから通話を切った。僕もそろそろ寝ようと思う。
椅子から立ち上がってベッドに向かう。




