第29話 ふうせんの約束
夏休みが近づく。
と言う事は、だ。
もう一つ。
期末テストが近づいている。五月下旬に行われたテストの時より、冬野の顔色は安定してるように見える。気負ってる感じには見えない。
「期末テスト終わって夏休みなったら、ちょっと遠くに出かけようよ」
帰り道、そう言い出したのは夏元だった。
「プチ旅行的なヤツかな」
「そうそう! 燿くん、美月さん。どっか行きたいところとかある?」
旅行はいいよね。
僕も前世だとよく旅行とかしたもんだよ。イベントとかで計画練って行くのもいいし、行き当たりばったりも中々良い。
ぷらーっと行って、ぶらぶらして帰ってくる。ラーメン食べたりとか。その場所でしか食べれないご飯食べたりとか。
行った先でお風呂に入ってみたりとか考えるけど、泊まりじゃないとどうしてもね。
「んー……どうしよ」
非常に悩ましい。
「流石に泊まりがけってわけにもいかないんだけどさ」
僕もそこまでのお金は捻出できないかな。ホテル代とか結構バカにならないし。
「冬野さん、行きたい場所とかある?」
「…………そう聞かれると困る。遊園地、とか……水族館、動物園とか?」
冬野は考えながら呟く。
「わたしは……全部行った事ないから、行ってみたい気持ちはどこもあるから」
「あ。遊園地、良いね! ボクも遊園地行きたいかも!」
遊園地ね。
たしかに良いかも。いろいろとアトラクションあって、二人のリアクションも見れそうだし。
「電車で二時間しないくらいのとこに遊園地あるってさ!」
夏元が早速スマホで調べたみたいだ。
「ジェットコースターとかフリーフォールとかもあるし、すごい怖いお化け屋敷もあるんだって!」
なんだよなんだよ、最高に面白そうじゃないか。ジェットコースターもフリーフォールも、お化け屋敷も。
「面白そう……! 燿……燿は、どうかな?」
上目遣いで見上げられるまでもなく、僕は賛成に決まってるのだよ。こんな楽しそうな話、乗らないわけないのだよ。
「僕も賛成。遊園地行きたいなぁ。いやー、考えてみれば……僕も久しぶりかもね、遊園地」
「おお……ということは経験者?」
「そうだよ。そんなに回数は行ってないけど経験者なんです、僕。冬野さんも初遊園地楽しもうね」
夏元が腕を組んで、自信満々に。
「ふっふっふ。今回はボクが経験者だからね。遊園地の先輩……料理は教わったけど、遊園地はボクが教えてあげる!」
「おおっ……頼もしい先輩が二人」
僕は思い出して注意しておく。
「二人とも。遊園地には飲み物は大丈夫だと思うけど、食べ物の持ち込みは禁止してるところがほとんどだからね」
「そうなの?」
冬野が首を傾げた。
「そうなんだよ」
夏元もスマホで公式サイトを見てるのか「そうだね」と呟く。
「そういうところも注意するんだよ」
「燿くん、引率の先生とかお父さんみたい」
まあ、僕転生者ですから。精神年齢的には冬野たちよりも年上だとは思うよ、たぶん。
「うん。夏休み近づいたら、またいろいろ考えようね!」
そう言って夏元が帰って行った。
冬野と二人きり。なんだか冬野の口角が少し上がってるように見える。
「冬野さん、楽しそうだね」
僕の言葉を噛み締めるようにしてから、頷き。
「…………うん。楽しいよ」
と、肯定する。
「……遊園地、行ったことないんだ」
「さっきも言ってたね」
「水族館も、動物園も。あまり出かけた事なくて。だから憧れてた」
昔の事を思い出してるのか、冬野は少しだけ暗い顔になってしまう。
「子供の頃、みんな遊びに行ったって話を夏休みが明けるころにずっと聞いてた。行ったことないところの話……聞いてるだけだったから、ずっと羨ましかった」
「そっか」
「うん。学園に来てよかった。この前、遊んだ時も楽しかったし。今だって、テストの不安よりも楽しみが勝ってる」
「……しっかり楽しまないとね」
がっかりしたってことにはならないで欲しいな。
「陽毬と燿と会えて……わたしは今が一番楽しいかも」
「なら、楽しい思い出の一番がこれからも更新されることを祈るばかりだよ」
今だけじゃなくて、この先にも。
もっともっと楽しいことがあって欲しい。そう思って欲しい。僕と関係のないところでも、冬野には。
「そうだね。燿の言う通り、更新され続けてほしい。楽しい今を、ずっと。だから」
冬野は僕の右腕を指先で突いて。
「アプデ、お願い」
「……よしっ。誠心誠意、全力を尽くします」
「よろしく、燿」
不肖、平坂燿……推しのため、友達のため。全力で頑張りたいと思います!
「そうだ、冬野さん」
「ん?」
「冬野さんは遊園地に行ったら一番なにがやりたい?」
「…………ふうせん」
ジェットコースターも、フリーフォールも、お化け屋敷もあっただろうけど。でも、冬野の口から漏れたのは。
「ふうせん欲しいかも」
「うん、忘れないようにしないとね」
買うにしても帰りかな。
回ってる時はふうせんは少し邪魔になるかもだし。
「僕も、遊園地行ったら……ふうせん買おっかな」
冬野が「なら、みんなで買お?」と笑う。
僕は「良いね」と頷いた。




