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第28話 そこまで変わらない日々

 春木は僕を見つめてくる。


「……平坂くん、離れていても覚えていてくださいね」


 少し切なそうな顔をしてた。


「春木さん」

 

 六月も下旬。

 春木との付き合いも三ヶ月になりそうな、このタイミング。ここまできて、僕らはどうしようもない事情で離れ離れになる。

 

「そうだね。僕は忘れないよ、たとえどんなに離れても。春木さんのこと、忘れない」

「私も覚えてますから。きっと……覚えてますから」

「春木さん」

「平坂くん」

 

 僕と春木はドラマのワンシーンのようなやり取りを終えてふっ、と笑い合う。

 まあ、ただの席替えだ。


「平坂くん、中々の演技力ですね。結構練習とかしてるんですか?」

「いやいや。というか、むしろ春木さんこそ」

「ふふふ……私、ドラマ好きですから。女優さんは憧れなんですよ」


 春木は演技もそれなりに興味があるらしい。 


「私は平坂くんのお電話知ってますから、離れたところでお話できますし。問題ありませんね」

「そうだね。それに今生の別れとかでもないからね」

 

 同じ教室だし、話そうと思えば話せる距離なんだよね。悲しさとかあんまりないのはお互い様。別に席替えをしなくても良いって感覚もあるにはあるけど。

 

「────それじゃ、新しい席に動いてくれ」

 

 くじ引きが終わって全員が動き出す。僕の隣に。

 

「あれ、平坂くん。また隣ですね」

「だね……まったく、さっきのはなんだったのさ」

 

 またしても春木が隣にきた。

 隣は隣でも、右隣から左隣になったけど。

 

「まあまあ、よろしくお願いしますね。平坂くん」

 

 退屈なんて事はなさそうだね。

 後ろの席も。

 

「わっ。前、燿くんだ」

「夏元さん。よろしく」

 

 こうして夏元も居るし。

 後ろは夏元。隣に春木。冬野と秋山は少し離れてるね。

 

「……春木さん、お願いします」


 僕は早速、春木にお願いする。


「どうしました?」

「お願いですから、夏元さんの前で変な話はしないでください」

「変な……あ、制服とかの」

「そうそれです。それをやめてください」

 

 お願いだから、勘違いが引き起こされるのは勘弁して欲しい。

 

「大丈夫です、弁えてますから。それに近所付き合いも大事ですよね」

 

 弁えてるってのが、ちょっと心配なんだけど。

 

「里菜さん、よろしくね」

「はい、平坂くんのお隣の春木です。お願いします、夏元さん」

「……………………席替えの前も里菜さん、隣だったんだっけ?」

「そうなんです。これからも退屈しなさそうです。平坂くんの隣なので。これまでもよく話してくださったので」

「そっか」

「やっぱり友達の近くだと安心しますよね」

「そうだね」

 

 二人とも仲良くなれそうで良かったよ。春木もずいぶんマトモなやりとりしてくれて。

 

「どうですか? 完璧じゃないですか?」


 自信ありそうな感じでこそっと聞いてくる。


「うん、完璧だよ。夏元さんとはその調子でお願いするよ。くれぐれもね」

 

 とんでもない勘違いを引き起こさないように。

 

「任せてください」

 

 この調子なら問題ないでしょ。

 

「てなわけで、夏元さん。席近いからさ、春木さんとも仲良くね」

「あ…………うん」

 

 頷いた夏元を見てから、僕は身体を正面に向け直す。先生が適当に締め、席替えは終わった。

 

「────わたしだけ離れてる」

 

 冬野が帰り道に呟く。

 

「燿も陽毬も席近いのに」

 

 僕たちの近くが良かったと。

 え。冬野ってば、すっごい嬉しい事言ってくれるじゃん。まあ、それもこれも春木の言った通り友達の近くがいいってことなんだろうけど。

 

「燿の隣は……」

「里菜さん」


 僕が答える前に夏元が言った。


「そうそう……前もだったよね?」

 

 あ、覚えてたんだ。

 僕は「そうだよ、前もだよ」と冬野に答える。

 

「その時からの付き合いで友達でね」

「わたしも陽毬と燿の近くに行きたかった」


 僕は「ご飯の時は今まで通り一緒に食べようよ、冬野さん」と誘う。


「燿、ありがとう。それにしても席変わっても、あまり変わらないね」

「僕はそこまで変わった気がしないんだよね」

「燿は隣変わってないから」


 まあ、その通りなんだよね。


「それに……夏元さんと一緒にいるのも、いつも通りって感じがするからね」


 僕は夏元の方を見ながら言う。

 うん、今まで通りだ。

 そんなに変わらない。

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