第26話 贅沢者でもモブ
水曜日の昼休み。
一昨日は冬野のお弁当だった。
お弁当の中身には肉じゃがが入っていた。
その日は僕と、冬野と、夏元のいつもの三人にプラスして秋山も居た。秋山も冬野の料理に驚嘆していたのを覚えてる。
そうなんです、冬野の料理はとても美味しいんです。夏元の料理も負けず劣らずだけどね。
「平坂くん、何か買いにきたかしら」
「あ、秋山さん」
昨日は学校来てなかったね、そういえば。
で、今日はいたけど一緒には食べなかったし。来てくれたなら、たぶん夏元と冬野は歓迎すると思うんけど。
「まあ……ちょうど良かったわ。平坂くんと話したいことがあったから」
「話したいこと……? 秋山さんが、僕と?」
何の話でしょうかね?
「買いたいものがあるなら買ってからで良いわよ。急ぐ話でもないから」
「えー……? 気になるからそっちは後でいいや」
本当は飲み物でも買おうかなとか思ってたけど、置いといて。飲み物を買うのは今の状態だと良いところで入るCMみたいな感覚。僕はスキップできるなら、スキップする派なんだ。
とりあえず、ごめんなさい。
「あら、そう?」
「そうそう。それで秋山さん。僕にどんなお話?」
僕が促すと秋山が「ほら」と切り出した。
「私も月曜日に冬野さんのお弁当をもらったでしょ? その時の話よ」
「ああ、あの日の肉じゃが美味しかったよね」
「そうね……しばらく忘れられないわ、冬野さんの肉じゃが。とても美味しかったわ」
秋山は思いを馳せるように遠くを見る。
ぼそっと「はぁ……また食べたい」と呟いたのが聞こえた。
「秋山さんなら、仕事上美味しいものいっぱい食べてきたんじゃないの?」
「あのね、平坂くん。美味しいものにも色々あってね。たしかに、高級品は美味しいのよ? 美味しいのだけど……量も頻度も限るべきだわ。そう……お肉がわかりやすいわね。良いお肉って思ったよりお腹に入らないのよ」
「なるほど」
「でも、冬野さんの料理は美味しくて、それに毎日食べても良いって思えるものなのよ」
「その気持ちはすっごい分かるよ」
僕も頷くしかない。
「それで来週は夏元さんの料理ね?」
「そうそう。夏元さんのも美味しいんだよ。いやぁ、来週のメニューはどうなるんだろ」
夏元の料理も進化し続けている。僕の舌もそれを感じ取ってるんだ。
「……あなた、贅沢じゃない? 贅沢者がすぎないかしら?」
ずっと思ってるんだよね。
僕も自分が贅沢者だって。
でも、わざわざ断る理由はないから! だって美味しいんだもん! 作ってもらえるんだもん!
「本当に、ね。僕もお金出したいくらいなんだけどもね」
けど、断られるから。
「いや、お金の問題じゃないのよ」
「あ、はい」
そうですね。そうだと思います。
美少女二人の手作りのお弁当ですからねぇ。そういう意味でも贅沢だと思ってますよ、ちゃんと。自覚はあるんです。
「まあ……でも。あの二人も楽しんでるみたいだし。あなたはやっぱり贅沢者ね」
「そうだね。良い友達に恵まれたよね、我がことながら」
「……冬野さんと夏元さんね」
「うん。それに秋山さんと、隣の席の春木さん。僕には勿体ないくらいだね」
実際、勿体ないんだけど。
やっぱりさ。
彼女たちはヒロインで、僕はゲームに登場しないモブだし。今だって、ここはゲームの裏側だろうし。僕にはスポットライトが当たってないし。
「私も、なのね」
「あれ、ダメだった?」
「良いわよそれで」
「良かったぁ」
秋山も僕の事、少なくとも友達って思ってくれてるみたいだ。
やっぱり表には出れなくても、関わった以上は仲良くなりたいからさ。冬野も、夏元も、秋山も、春木も。




