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第25話 プール清掃より

「あははー、やめろー」

「きゃっきゃ」

 

 浜辺を駆けるのと同じくらいにプール掃除も青春だと思う。体操着で水を掛け合うとか醍醐味だよね。冬野と夏元も話しながらで楽しんでるみたいだし。

 春木はプールサイドの方にいるけど。


「春木さん」

「あ、平坂くん。どうしましたか?」

「いや、水をもらいにきてね」

「はい、わかりました」


 僕は掃除用具として準備されてた空のバケツに春木から水を入れてもらう。


「春木さん、飽きない?」

「いえいえ、なかなか面白いですよ? 私も中に入って楽しみたい気持ちもありますが……これはこれで。みなさんと話せますし、悪くないです」

「あ、そうなんだ。うん……楽しんでるなら良かったよ」

「はい。どうぞ、平坂くん」

「ありがと、春木さん」

 

 僕はプールの中に降りて、バケツとブラシを持って移動する。


「秋山さん、楽しんでる?」


 隅っこにいる秋山に近づいた。


「掃除は必要なことであって、私としては別に趣味とかじゃないのよ」

 

 秋山は自分の横に水の入ったバケツを一つ置いて、ブラシで黙々とプールの壁面を擦ってる。ステッキタイプじゃない、僕の持ってるのと同じ手持ちのやつ(ハンディタイプ)だ。

 

「まあまあ……今回はみんな楽しんでるみたいだし」

「良かったわね。そのみんなは」

 

 なんて悲しい発言なんだ。

 秋山、ダークサイドに堕ちてない……?

 

「それで……楽しんでたらしい平坂くんはこの私の所に何をしにきたのかしら」

 

 なんか言い方にちょっとだけ棘を感じるぞぅ。

 

「秋山さんが一人で頑張ってるのが見えてさ。いつも通り話をしにきたってやつだよ」

「そう。とりあえずあなたも掃除をしたら?」

「あ、そうだね」

 

 僕は秋山の隣で壁面を擦る。

 

「いや、秋山さん……どれだけ頑張ってるのさ?」

 

 秋山が掃除していた場所は周囲と比べても明らかに段違いで綺麗だ。

 

「そうでしょ。だって私、みんなが遊んでる間も頑張っていたもの」

「うわ〜……すごいや。ここだけ異様に綺麗なんだけど」

 

 もはや輝いて見えてくるレベルだよ、これ。

 

「え、ブラシだけでこんなにできるものなの?」

「誰だって真面目にやればこんなものよ」

「僕でもできるかなぁ……?」


 僕が演技っぽく言うと。


「平坂くん、挑戦するのが大事なのよ。やってやるって気持ちを持つの! 一緒に頑張りましょう!」

「秋山さんっ。僕、頑張りますっ! …………って」

 

 いや、何してんだろ。

 

「そこで我に返っちゃダメよ」

「女優からダメ出しもらっちゃった」

「良い? こういうのは演じ切らないと。カット、いえ掃除が終わるまで」

「参考になる……って、僕にこの時間の終わりまでさっきのノリを続けろと?」

「これは平坂くんから始めたんじゃなくて?」

「うん、そうだね。そうだったね。というか……秋山さんは良いんだ?」

「別に構わないわよ、慣れてるから」

 

 僕は自分の前の壁が綺麗になってるのを確認して、チラリと秋山を見る。

 

「こほん……先生、どうでしょう?」

 

 別のキャラで振ってみた。

 

「なるほど、教師役ね」

「僕なりに頑張ったと思うんですけど」

「────ええ、頑張ったわね。平坂くん」

 

 秋山は柔らかく大人っぽい笑みを見せる。僕と同い年な筈なのに、年上なんじゃないかって錯覚させる。そういう力がある。

 声も、顔も、雰囲気も。

 たった一個のセリフだけで。

 

「すっごぉ…………」

 

 すっかり演技とかは抜けて、圧倒された僕は思わず呟いてた。

 

「ありがとう。私、教師の役はやったことないけど」

「……秋山さん」

「うん?」

「これからはお姉さんと呼んでも?」

「平坂くん」

「はい」

「絶対にやめなさい」

「了解です、秋山さん」


 はい! 今後も秋山さんと呼びます!


「…………ありがとうね、平坂くん」

「え?」

「掃除も中々楽しいわね」

 

 いや、これは掃除が楽しいのかな?

 

「たぶん何かがちょっと違う気がするんだけど」

 

 その後も僕たちが並んで適当な話をしながら、掃除を続けてると。

 

「燿くーんっ!」

 

 後頭部に水がかかった。

 いや、かけられたって感じだ。

 

「うぉっ!?」


 これは事故じゃない! 意図的な物だよ!

 僕は分かりきってる犯人の顔を見るために振り返った。

 

「や、やってくれたね」

 

 僕が振り返るとやっぱりそこには夏元が立ってて。


「夏元さん……!」


 夏元の隣には冬野も居た。

 近くにはバケツが置いてある。さっきのはそこから手で掬ってきてかけたんだろう。

 

「あははっ。ねっ、一緒に掃除しようよ」


 夏元が誘ってくる。


「まあ、僕は良いけど」


 隣にいる秋山を見る。


「私? 良いわよ。そんなに気にしなくて。別に一人でも構わないわ」

「え? 旭さん、一緒にやらないの?」


 あ、夏元はそのつもりだったんだ。


「…………私も? いいのかしら?」

 

 秋山が確認すると冬野が「燿と仲良さそうだし」と言う。

 

「先に燿くんと居たの旭さんだしさ。ボクたちが後から来たんだもん」


 冬野もこくこくと頷く。


「旭さん。一緒に……ダメ、かな?」


 夏元は申し訳なさそうな顔をして尋ねた。


「……構わないわよ。えーと」

「ボク、夏元陽毬! 好きに呼んでください!」

「なら、夏元さん。よろしくおねがい」

「うん!」

 

 秋山は今度は冬野に顔を向ける。

 

「冬野美月。よろしく、旭……?」

「ええ、よろしく。冬野さん」

 

 僕は少し、感動してしまって。

 なんか涙出てきそうだよ。

 

「良かったね……秋山さん。友達、増えたね」

「あなたは私のお父さんだったかしら?」

 

 秋山の溜息まじりの呟きが聞こえた。


「わぁっ、旭さんのところすっごい綺麗だよ!」

「本当……旭は掃除のプロフェッショナル」


 二人の言葉に秋山は「そ、そうかしら?」と少し嬉しそうな顔をしたように見えた。

 

「────ふう……」

 

 中々頑張ったんじゃないかな。

 結構綺麗になったと思う。


「ねえねえ、旭さん」


 掃除の時間も終わり、教室に戻る途中。

 

「今度一緒にご飯食べようよ」

「え……? そこまで……良いのかしら?」

 

 僕の目の前で秋山が、夏元と冬野に昼を誘われている。

 

「燿くんの友達なら大歓迎!」

「わたしも全然気にしない」

 

 美少女三人。なんて微笑ましいんだろう。

 

「なら、今度のお昼……三人のところにお邪魔させてもらうわね」

 

 

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