第23話 体育祭:後編
「平坂くん。お疲れ様です」
僕も競技を終え、今は少し休憩中。
冬野とさっき競技をぶっちぎりの一位で終わらせた夏元は飲み物を買いに行った。
冬野と僕の応援で数倍早くなったとか。
友達の応援を力に変えるとか、夏元さんは主人公的な能力持ってると思う。
「春木さん。さっきは応援してくれてありがとうね」
「お礼なんて……私がしたかったんですから。ところで平坂くん」
何かを言おうとしたところで、次の種目の放送と重なって春木の声が聞こえなくなる。
「おっ。借り物競走だ。これぞ体育祭って感じするよね」
「そうですね。暦くんが出場するらしいです」
「じゃあ、応援しなきゃだね」
「そうですね。でも、借り物競走ですから結局は運だと思いますけどね」
春木がクスクスと。
ゲームでも周防が借り物競走に出て、関わりを持った四人のヒロインから誰かを選ぶっていうのがあった。
そして、周防のお題は『同じクラスの異性』という。好きな人じゃない分、良心的だと思うけど。
「あ、ごめん。それで春木さん、さっきは何の話してたっけ」
「あ、そうです。平坂くん、先程の長距離走で汗かきましたよね?」
「え? まあ、うん」
「タオルなど持ってきてますか?」
「え? タオルは、まあ……」
「着替えは?」
「着替え? いや、着替えは……特に」
「そうですかそうですか」
なんで嬉しそうな顔してるの?
春木は「少し待っていてください」と言って、自分の荷物を置いてある場所から何かを持ってきた。
「どうぞ、平坂くん」
「……あの、これは?」
僕は差し出されたものを受け取ってしまった。そう、受け取ってしまったのだ。
「お着替えです」
「……いや、あの。これ、女子用ですよね? しかもチアコスだし」
「平坂くん、制服の他にもチアコスも好きだと聞きましたから」
「言った気はする! そんな気はするんだけどねっ!?」
少なくとも自分が着る想定では言ってないと思います、過去の僕は!
「似合うと思いますよ? 平坂くん、美形ですし」
そうかな?
「…………」
いや待て。
やるにしてもこんな目立つところでやるとかないから。そもそも僕が着なきゃならない理由がないでしょうが。
いくら僕が女の子に褒められるとチョロくても、それくらいの判断はできるからね?
「ムリムリ! やりませんから、春木さんっ!」
「平坂くん、お願いします。けほっ……けほっ」
「だ、大丈夫?」
「ヒラサカクンガキテクレタラケンコウニナルカモデス、アー……ゴホッゴホッ」
「おぉい!!」
なんだよ、そのカタコトは。絶対に嘘!
と言うか、卑怯くさいと思います!
「ねぇ、平坂くん。私を助けると思って」
上目遣いされても、僕のチアコスで助かる命はないと思うよ!?
「────里菜ーァっ! おーい、里菜っ!」
僕と春木が着るか着ないかの譲れない戦いをしていると主人公の声が近づいてくる。
「こ、暦くん……!? くっ、覚えておいてくださいね!」
周防が近づいてくる中、春木は僕に捨て台詞のように。
「私は、諦めてませんからっ」
残念だけど諦めてくれ。僕はチアコスを着るつもりはない。
「里菜」
周防はついに春木のところまで来て。
「見つけた。俺と一緒に来てくれ」
そう言って春木を連れて行く。
「…………」
僕は周防と一緒に借り物競走のゴールに向かう春木を呆然と見送った。
「……感謝するよ今回ばかりは。周防暦」
僕は女装の危機を免れた。
未だに僕と彼は何の関わりもないんだけど。今回ばかりは正義のヒーローのように見えた。
「燿くん、それなに……?」
「……チアガールの」
戻ってきた夏元と冬野が僕を見つめる。
「え」
僕の手にはチアコスが。
「あ、いや……これは違くて!」
まずい。
またしても誤解が生まれそうだ。
「だ、誰かに着てほしくて持ってきたの?」
「違うよっ!?」
僕は必死に否定する。
ど、どうすればいいんだ。どうすれば信じてもらえるの、僕は。
「陽毬……燿はチアガールの服持ってこない」
「冬野さん……!」
冬野の言葉で僕は救われる。




